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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第84話 ある学生の春の日

クルシュ暦367年4月初め――


 街道の脇に植えられた桜が春を謳歌している。

 新しい年度が始まった。


 大学というのはこういう時期に「始業式」というものは行われない。「入学式」はあるのだが。

 ただ、年2回のとてつもなく面倒な「手続き」がある。履修登録というやつだ。


 どの講義を受講するのかを選んで、登録するのだが、どれでも勝手に希望通りに受けられるわけではない。中には定員が決められているものもあって、その選考基準は、基本的には「成績順」だ。

 つまり、希望した講義に落選してしまった場合のため、第2、第3の希望まで登録しておかないといけないという決まりになっている。


 このカリキュラム(個人の時間割)を約2週間ほどの間に構築して、提出しなければならない。


「ねえ、ミリア。じゃあ、この講義の教授はどうなの?」

キールがミリアに聞く。

「そうね、とっておいて損はないと思うわよ。授業も丁寧だし、教授の人格もすばらしいから――」


 キールは先程からカリキュラム表を広げて、ああでもないこうでもないとやりながら、ミリアに質問を繰り返していた。


「あ、じゃあ、こっちは?」


「あんたねぇ。そんななんでもかんでも聞いて回ってたら、私と同じになっちゃうじゃない? もうあとは自分で考えなさいよ?」

ミリアは少々呆れ顔でそう言って突き放す。が、内心はこんな時間でも幸せだった。


 目の前にキールがいる。

 こんな時間をずっと待ち望んでいたのだ。


 しかし――。


コンコン、カチャ――。


 個室の扉が開け放たれ、一人の少女が現れる。


「キールさああん、もう、私何が何やらさっぱりで。このカリキュラム、どれをとったらいいんですかぁ――?」

そう言いながら、さも当然のように、キールの隣の空いている席に滑り込んだ。


 瞬間、その少女は、ちらりとミリアに視線を送ると、薄く笑みを浮かべるのだった。


(この女――!)

とは、ミリアはもう思わないことにした。それはキールの態度からそういう事には発展しないとわかっているからだ。


 キールにとってのアステリッドは、「かわいい妹」のような存在だ。そう感じる。彼の眼差しからは、それが溢れている。アステリッドの内心はどうなのか推し量ることは出来ないが、ミリアもそう思うことにした。


 キールからアステリッドへの接し方は、去年の夏休み、共にカインズベルク大図書館で過ごした時と、そのまま変わらないままだった。

 つまり、二人の間に何かが起きたことはないと確信できる。

 半年以上も状況が変わらないのだから、こうなれば今後も変わることはないだろう。

 アステリッドにはすこし可哀そうにも思うが、彼女は彼女で、その辺りも自己解決しているのだろう。


(このぐらいのこと――、私は姉の目線で、見ていれば――って、ちょ、ちょっとおお――!)


 見ると、アステリッドがキールににじり寄って、その胸のふくらみをキールの肘の上あたりに押し当てているではないか。 


「リ、リディー? そんなに、近づいたらキールだって作業しづらいでしょう?」

「え? あ、そうですねぇ。でもわたしからもよく見えなくて。ほらこのカリキュラム表って、字が小さいじゃないですか?」


「自分のを見ればいいじゃない?」

「あ、あら。ほんとですね。気が付きませんでした」

そう言っておきながら離れるそぶりは見せない。


 キールはキールで、

「まあまあ。2枚も広げたら机の上に広げきれなくなるし、同じものなんだしいいじゃないか――」

などという始末。この男、()()()()に相変わらずの鈍感体質だ――。


カチャリ――。


 そこへもう一人、超絶美男子が現れる。


「ああ、みんなもう着いていたのか。はやいね?」

クリストファーだ。


 これもまたさも当然のようにミリアの横の席に滑り込む。


 最近の席次はこの形がお決まりだ。


 本当はミリアはキールの隣がいいのだが、それができないところが、ミリア・ハインツフェルトの長所であり、短所でもある。

 いかにも彼女らしい。


 

 一通りカリキュラムが出来上がるころには、もう、夕方をとうに回っていて、閉館時間も間もなくになる頃だった。


 アステリッド・コルティーレは結局、王立大学への入学試験を無事パスし、今年からここへ通うことになっているのは言わずもがなであるが、一応彼女の専攻を記しておく。

 彼女の専攻は「()()()人格行動心理学科」である。


 彼女の研究の対象は、「自身の記憶」についてだ。しかも、その記憶とは「前世の記憶」というものだ。この時代、この世界においては、医学というものは現代における西洋医術のような類のものは存在していない。

 それは、この世界に「魔法」が存在するからであるだろうが、これについて詳しく語るのはここでは控える。


 しかし、人の心の動きを理解し、分析し、行動や判断に一定の予測を与えるという考え方は、「交渉術」の基本だ。そういう方向からのアプローチはこの世界でも学問として存在しているのだ。そういう学問をまとめて「心学部」と言った。


 キールたちとまったく違う分野なのにカリキュラム表が同じなのは、いわゆる「一般教養」というカテゴリーの講義は王立大学生が一定数受講し単位をとらなければならないと義務付けられているからである。

 これを2年間で獲得達成できなければ、上位の専門講義の受講資格が得られないことになっている。キールも休学していたため、もう一年かけて、これを達成しなければならない。ミリアはすでにこれをクリアしているため、今年から専門講義の受講が始まるというわけだ。


 今日のところはその「一般教養」カテゴリーのカリキュラムが大方決まったところまでで時間切れとなった。

 毎年のことながら、この時期の大学生はなかなかに忙しいのだ。

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