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第8話 魔法の素質

「僕の使える魔法は4つしかないんだ――」


「え? どういうこと?」

ミリアはキールの言葉の意味を容易には理解できなかった。


「――だから、僕の使える魔法は4つしかないって言ったんだ」

キールはさっき言った言葉を繰り返す。



 あの日以来、ミリアはキールにべったりだった。毎日のようにあの納屋辺りまで迎えに来て、朝一緒に登校するようになっている。


 大学の授業では、いくつかの教養課程で一緒にはなるが、彼女の専攻は基本的には帝王政治学、つまり、国家運営に関する研究が主体だ。キールの専攻は国家法治学、いわゆる国民に対する様々な法治に関する研究が主体になる。

 一見、同じような分野に見えるが、ミリアは国政の仕組みや国王のあり方、政務を取り扱う役人の統制など、対象は「国家」となるのに対し、キールは国民の諸生活上および仕事上のトラブル解決や、商取引における法整備、各国民の領地問題など対象は「国民」となる。

 ともに法政学部になるため、共通する授業も結構ある。


 ミリアは同じ授業を受けているときに、キールの存在に気が付いた。

 この見た目はおとなしそうだが、実は「とんでもない素質」を秘めている男子生徒のことは入学したころから気にはなっていた。しかしながら、しばらくの間は特に問題とは思わなかった。


 「魔法」の痕跡が見当たらなかったからだ。


 魔術師は魔法を使用できる限られた人材であるが、その者は基本的に「魔法痕跡」を残す。魔法を使ったことが身体の周囲に残るのだ。魔術師たちはその「魔法痕跡」を追求する能力を持つ為、同類ならそれは一目で判別できるのだ

 それがこの男にはなかった。つまり、魔法の素質は圧倒的なのだが、()()()()()()()()()のだろう。

 そのままなら、特に気にする必要はない。稀に自分の素質に気づかずにそのまま普通の生活をしている者もいることはこれまでの先輩魔術師から聞いてはいた。

 あの男もそうなのだろう。


 ところが、だ。

 ある日、急に「魔法痕跡」が現れた。明らかに魔法を使った証だ。

 使えないのではなく、使わなかったのか? そう思ったミリアは釘を刺しに行ったのだった。


 その後もキールのことを注意深く見ていたのだが、相変わらずたまに「魔法痕跡」が現れる日があった。

 どうやら、私の忠告は聞き入れないつもりらしい。

 そう思ったミリアはあの日、勝負を挑んだ。王国魔術師から手ほどきを受け、卒業後は王国魔術師としても期待されている私が後れを取るはずはない、本当の魔術というものを見せつければ、彼もさすがに考えを変えるだろう、と思っていた。


 しかし結果は惨敗だった。

 ミリアは魔法一つ発動させることすらできずに屈した。魔術師としての経験ならミリアの方が上だろう。しかし、「戦闘」というものには根本的に「競技」とは異質のものがある。

 それは「命がかかっている」ということだ。

 キールはその点で、ミリアを圧倒した。ミリアはキールの作り出した状況に完全に支配され、精神も身体も完全に掌握されてしまった。

 「生殺与奪」。

 これは完全にキールの側にあった。ミリアは迫りくる恐怖に打ちひしがれ「戦闘を放棄」してしまったのだ。


 その日一晩中泣き明かした彼女は、翌朝、覚悟を決め、彼とともに歩くことを決断した。

(あの強さを見習うのだ。そうしなければ私はおそらく国家魔術師としても大成できないだろう――)



 あの日から彼と日々ともにいることが多くなり、さすがにお互いに敵意がないことを確認できるぐらいまでには関係が改善してきたと感じたミリアは、「あの日」のことを聞こうと思ったのだ。


 あの術式についてはミリアもいろいろと調べたのだが、「空間消失術式」というものが実際に存在するということまでは調べがついた。しかし、本当にその術式をあの程度の短時間で、しかもリモートで発動するなどということが可能なのか?


 そこでキールに単刀直入に聞いてみたのだった。


『あの術式のカラクリはいったいどういうことだったのか』と。


 ――で、答えが冒頭の言葉だった。


「僕の使える魔法は4つしかないんだ――」

そう言ってキールは恥ずかしそうに笑って見せた。



「え? だって、じゃあ「空間消失魔法」は? もちろん使えるのよね?」

ミリアはキールの言葉の意味が飲み込めず、さらに質問を重ねた。


「――あ、ああ、あれね。ごめん、君をだましたのさ。僕はそんな魔法は使えないよ……」


「……そ、そんな――。でも完全に発動してたわよ?」


「あれは、ただの幻覚魔法だよ。僕が使えるのは、その「幻覚魔法」と「魔法痕跡消失」「音声遮断」「魔法痕跡感知」の4つだけだ――」


「じゃあ、あれはどういう――」


 キールはあの時のことをミリアに正直に話した。

「――というわけさ。それからもいろいろと個人的に勉強はしているけど、いっこうに新しい魔法は身につかないんだ……」


「な、なんてこと――。たったそれだけで私を完封したっていうの――」


「呆れただろう? だから君は別に僕のことなんかそもそも気にする必要なんかなかったんだよ。今やり合えば必ず君が勝つだろうからね」


「何を言ってるのよ? たったそれだけの魔法しか使えないのに私に勝ったということの方が驚愕に値することなのよ!?」


「え――?」


「いい? 強力な魔法を使える魔術師というのはどこの国にもそれなりの人数存在するの。つまり、魔法の素質というのはどれだけ強力な魔法を使えるかということではなく、どれだけ有効に魔法を使えるかということなの――」


「はぁ……?」


「かーっ、今わかったわ。あなた、史上最強の素人だわ――」

そう言ってミリアは頭を抱えた。

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