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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第77話 一年の計は

 話は少しさかのぼる。

 クルシュ暦367年1月1日、今日は新しい年が始まる日だ。


 キールとアステリッドは雑踏の中にいた。

 この街カインズベルクの新年祭はメストリルの賑わいとは比べるべくもなかった。何という圧倒的な人出の差か。カインズベルク大図書館の前に広がる、中央広場は人で埋め尽くされている。

 通常時でも人通りの多いこの広場だが、いつもなら馬車も行き交う場所なので、さすがに人で埋め尽くされるところまでは行かない。そんなことをしていたらいつぞやのミリアのように、馬車に轢き殺されかねないからだ。

 しかし今日は様相を違えている。逆にこんなところへ馬車が入ってきたら、馬車の方が潰されかねない。それ程の人ごみだった。

 

 その人込みが徐々におとぎ話のように分けられてゆき、通りに一筋の線が設けられてゆく。王国国王陛下の新年のお披露目パレードの通行路だ。その幅はやがて5メートルほどの広さまで広げられ、道の両サイドへと人だかりが押しやられていった。

 ある者は道の端へ追いやられ、ある者は通り沿いの建物の壁へよじ登ったり、またある者は通りから左右に伸びる細い路地へと回避した。


 キールとアステリッドはなんとかカインズベルク大図書館の玄関前の階段を数段上がったところに陣取ることに成功した。

 段差になっているため、キールは前の人の頭越しに通りに開かれた通行路を目にすることができるが、アステリッドの身長ではすこし厳しいかも知れない。それでもアステリッドはキールの傍から離れようとはしなかった。前の人の頭の間から視界を確保しつつその時を待っている。


 やがて少し向こうの方から、大音響で音楽隊の音声が聞こえ始める。そしてそれはやがて体を震わすほどの大音響となってキールたちの目の前を進んでいった。


 そうしてそのすぐ後に続く一台の超豪華な馬車がゆっくりと通りがかる。馬車の小窓からは、豪華なドレスに身を包んだ麗人が白い手袋を嵌めた手を小刻みに民衆へ向かって振っていた。そしてその隣にはいかにも温厚そうな笑みをたたえた貴人がどっしりと座っているのも見えた。


「キールさん! 国王陛下と女王陛下ですよ!」

アステリッドが叫ぶ。

 

 ヘラルドカッツ王国国王は年齢は初老というべきか、60代前半ぐらいに見えた。しかしそれに対して、女王陛下の若さはすこしかけ離れている。年齢はせいぜい30代前半ぐらいだろう。


「へえ、女王陛下はお若い方なんだね――」

キールはやや小声でアステリッドへ耳打ちした。

「ええ、前女王様は2年前他界なされたのですよ。その年の新年パレードはさすがに中止になったんですよ。私がカインズベルクへ来た年のことでしたから」


「ふうん、それですぐ、今の女王様に?」


「ええ、まあ。翌年つまり去年はもうお二人でパレード為されましたから。新女王が就任されたのはその前の年ですからね――」


 この時代、貴族界隈では、再婚は珍しいことではない。

 というのもやはり、家督を継ぐ者を生まなければならないという独特の世界観があるからであろう。家督を継ぐ者がいなくなった場合、それは家督断絶という事になり、その貴族籍は一旦空席という事になり、功績あったものなどへ新たに叙勲されたりする。


 アステリッドの話によると、現在すでに王位継承者としては第一位と第二位の二人の王子がいるという事だった。そして去年第三位のお子が誕生した。それが現女王との間の子だという。


(貴族ってのはホント、大変なんだなぁ――。断っておいてよかったよ――)

キールは胸をなでおろすのだった。

(もし貴族になってたら、生涯で二人以上の女性を娶らなければならないかもしれないわけだ――)

と思案したところで、ふと、ミリアの顔が浮かんだ。


 キールは慌てて、その思案を振るい去り、顔を上げた。


 見るとすでに国王の馬車は通りの先、王城の方へと去ってゆき、交差点はまた人ごみに埋め尽くされていた。


「さあ、キールさん。行きますよ?」

「へ? 次はどこへ?」」


「何を言ってるんですか? 言ったじゃないですか! 今日はとことん付き合ってもらいますからねって――」

「あ、ああ、それはいいんだけど。だから、どこへ?」


 言ったころにはアステリッドはもう数段階段を下りて再び人ごみの中へと入り込もうとタイミングを推し量っていた。

 キールははぐれでもしたら大変だとアステリッドの後を追った。


 結局その日はそこから、何たら神の神社やら、何たら卿の祠やら、何たら魔術師の御堂やら、とにかくありとあらゆる神社仏閣宮殿寺院を6~7件ほどまわらされ、一日が瞬く間に過ぎ去っていったのだった。 

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