第697話 魔法の属性について少し
「すごいですね……、その魔法って、属性は「光」? なんですか?」
アステリッドはミリアの術式を見て目を丸くした。
「光」の属性魔法というのは、いわゆる上位属性魔法の分類に入る。
基本属性は、火・水・土・風の4つだ。
「火」は炎。基本的には何かを燃やす力だ。「水」は水の力であり、冷やしたり濡らしたり、あるいは水没させる力。「土」は岩石や鉱物を生み出したり、土を活性化させ植物を繁茂させたりする。最後に「風」は、風を起こしたり空気の流れを調整したりするが、これの副次的な作用によって「雷」を発生させるのもまたこの属性だ。
この基本4属性以外に上位属性として「光」と「闇」がある。
「光」属性で出来ることとして一般的なのは、もちろん「光源」を発生させることである。
だが、術式『灯火』は、光属性ではなく火属性の魔法だ。
キールの扱う『優しい光』や『昼の光』がこの「光」属性とみられるが、そもそもボウンの記した『真魔術式総覧』に記述のある魔術式は、この属性魔法とは一線を画しているものであり、属性分別が難しい。
「幻覚魔法」など、一体どの属性に分類されるのか全く見当がつかない。
火・水・土・風・光・闇のほかに「聖」というのがある。が、これは本来、魔術師の分野ではない。
「聖」属性魔法は、そもそも「教会」に所属するものが神の祝福を受け、神との契約を交わしたのちに付与される特別な属性とされており、いわゆる「聖職者」や「僧侶」と呼ばれるものたちが扱う属性であった。
が、この世界においては、魔法の研究や治癒術式の研究が進む中で、魔術師と教会は相互協力を進め、術式研究を進めてきたという流れがあり、今となっては、簡易的な「治癒術式」は魔術式と同様に基本魔術式として魔術院や魔術士教育学院などで教えられている。
アステリッドが扱う「治癒魔法」は彼女が魔術士教育学院で習得したものだし、ミリアも同じ術式を魔術院で習得している。
このように、「聖」の属性魔法は主として、「治癒」や「疲労回復」の効能があるものであるが、光源を発生させるものではない。
「教会」というものが出てきたので少し補足をするが、現代において「教会」や「宗教」というものはほぼ形骸化している。
そもそも、「教会」は政治に関与しない傾向が強い。それこそ大昔には「教会」と「国家(つまり魔術院)」が対立していた時代もあったようだが、結果的にこの二つの勢力の争いは泥沼化するだけとなり、教会側が、政治不干渉の立場を取ることで終焉を迎えた。
「教会」はそれ以降、人々に安心と安寧をもたらすために治癒術式の研究に専念するようになり、現在では各市町に治療院を展開したりもしている。
なお、この世界に於ける「神」は、自然精霊的なものであり、「現代地球」の信仰のような「救世主」的な意味合いのものではない。
それは、この世界の人々の思想の根幹に「自己責任思想」が根付いているからであり、自然との共生を長く続けてきたという経緯から起こる思想である。
よって、基本的には「多神思想」であり、それら「神」は「指導者」でも、「絶対的不可侵のもの」でも、ましてや「救世主」でもないというわけである。
自由経済主義がわりと早く拡大したのも、この「自己責任思想」が人々の根底に存在していたことが大きな要因であると言えるだろう。
ごくたまに、少数の狂信者が現れることもあるようだが、たいていその場合は国家魔術院が秘密裏に駆逐していっていると思われる。例えば、ミリアが北の国フロストボーデンで対峙した、「ラーデンフォウル教」のようなものたちだが、ああいった集団があれ程までに勢力を拡大するのは非常に稀な話なのだ。
閑話休題――。
「エドガー・ケイスルの編み出した魔術式の一つよ。彼の術式は複数の属性を掛け合わせて編む特殊なものだから、この術式の属性もまた一つではないわ。この術式の属性は、「聖」と「光」、それから「風」の3つよ」
ミリアがアステリッドの冒頭の質問に答える。つまり今使用した術式は、ミリアが研究している『魔術錬成術式総覧』に記されていた術式ということだ。
「え? 「聖」属性って、あの治癒魔法の、ですよね?」
アステリッドの中では、聖属性イコール治癒という概念が根付いている。つまり、何者かにダメージを与えるということが出来ることに驚いたのだ。
「実は、「聖」属性の対極に「魔」という属性が存在しているのではないかとエドガー・ケイスルは考えていてね。その「魔属性」をもつものに対してのみ、「聖属性」はダメージを与えることができると考えているの――」
ミリアが言うには、いわゆる魔物と呼ばれるものたちの中でも、特にこの「魔」属性にかなり寄っている一定のものには「聖属性」魔法が攻撃魔法として運用できるのだということだった。
「へぇ~。それにしてもさすがミリアさんですね。上位属性の「光」でさえ、容易く調整してみせるなんて――。国家魔術院の若きホープと呼ばれるだけのことはあるんですね?」
「な!? リディー、今のは私を貶しているように聞こえたわよ?」
と、一応アステリッドの言葉に不快感を示しつつ、しかし、この程度はいつものアステリッドの軽口に過ぎないとミリアもそれ以上は追及しない。
「じゃあ、さっきの大型ブラックスライムも消し飛ばせるのかい?」
と、キールは聞いてみた。
「いいえ、無理だわ。今のぐらいこまごまと小さければ効用があるのは見ての通りだけど、ある程度の大きさになるとさすがに効果は薄いのよ。「聖」と「魔」の関係についてはまだまだ研究途上ってところかしらね」
と、ミリアは両肩をすくめてみせた。




