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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第69話 決意と挑戦

 キールは勝負に出た。


 もし仮にこの能力、素質が危険視されたとしたら、これ以降魔術師としての彼の生命は絶たれるかもしれない。それぐらいで済めばよいが、最悪、命の危険もあるのだ。

 しかし、ミリアは手紙でわざわざ伝えてきた。魔術院の使いが接触してきても落ち着いて好意的に対応しろと。

 つまりは、悪いようにはされないから安心しろということだろう。

 そのひとつ目がさっきの提案だが、さすがに貴族になるというのは少し逃げ腰になるというものだ。

 ただ爵位をもらって、「はいそうですか」では済まされないのが貴族の世界だということぐらいは心得ているつもりだ。

 何かにつけて国家からの管理対象となり、平民のような自由は失われるだろう。

 キールがすでに年老いた老人であれば余生の心配なく過ごせるという意味では願ってもない申し入れであろうが、キールはまだ学生だ。これから世界中を見て回りたいという思いもあれば、あの『真魔術式総覧』の秘密を解き明かしたいという思いもある。

 

 とりあえずはやってみる。

 そうして相手の反応を見て考えよう。


 だから、魔法適正審査を受けようと決意したのだ。

 場合によっては、また国外逃亡すればいい。やりたいかと言われればやりたくはないことだが、そうなった場合、ミリアもアステリッドもクリストファーも理解してくれるはずだ。


「で、その適正審査はいつ、どこで受ければいいのです?」

キールがネインリヒに質問した。


「それは、特に問題ない。どこでもいつでもOKだ。ただ、周囲への影響も考えれば、あまり人目に触れるようなところではない方が望ましいのだが、いい場所はないかね?」

ネインリヒも結局最後は質問で返す。こういうところから、「やはり抜け目ない人だな」とキールは感じた。


「わかりました。では、早速やりましょう。少し町の外へ出ますが、よろしいですか?」


「ああ、かまわないよ」


 それから二人はカフェを出て、郊外の森の広場へと歩いて向かった。いつも練習している場所でいいだろう。場合によってはそこから一気に逃亡すればいい。




 二人の後にもう一人店を出たものがいた。

 少し離れた席で様子をうかがっていたミヒャエルだった。


 あらかじめ、ネインリヒの指示を受けて近くで様子をうかがっていたこの諜報員は、おそらくこの一連の「キール」なる青年についての最後の仕事になるだろうと予感していた。

 あの日みたあの女学生との魔法訓練風景は今思い出しても背筋が凍り付く。錬成「4」の魔術師など、目にしたのは初めてのことだったからだ。ニデリック院長が錬成「4」魔術師であるということはすでに知られているところだが、それにしても聞いただけでの当たりにしたことはないのだ。


 ミヒャエル自身は錬成「2」の通常クラス魔術師だ。

 錬成の階級を上げようと必死に訓練に励んだ時期もあったが、それももう遠い過去の話になっている。どれだけ訓練しても結局「3」の発動は不可能だった。


(神というのは残酷だ――)

ミヒャエルは心の底からそう思っている。

(生まれついて恵まれたものとそうでないものをいったいどうやって選別しているというのか? 俺とあの小僧の何が違うというのか?)


 いくら天に向かって問いかけたとしてもそのこたえは一向いっこうに返ってこないのだ。


 しかし、今の仕事については一定のやりがいを見出している。自分にしかできないことをやっていると思えることもある。

 いわゆる、自負というやつだ。

 魔術師としては一流にはなれなかったが、諜報員としては誰にも負けていない。今回の仕事ももうすぐ終わる。俺の仕事ぶりはしっかりと評価されるはずだ。


(そうすればまた、新しい仕事がもらえる。そういうものだ――)


 ミヒャエルは最後まで気を抜かないようにと気を引き締めて二人の後に続いた。




 秋も随分ずいぶんと深まり、森の木々も少しずつ色づき始めてきた。

 夕方前ともなると、少し風も冷たく感じられる。

 また寒い季節がすぐそこまでやってきている。

 キールは黙々と歩きながら、去年の今頃の出来事を思い起こしていた。


(あの、納屋裏でのミリアとの決闘からもう一年ほどになるのか。あれから本当にいろいろなことがあった。今日は余すところなくこの人に見てもらおうじゃないか。もう僕は一年前の「素人魔術師」じゃないんだ――)


 ここで圧倒的な魔法の素質を見せつけ、自身の価値を高めれば、魔術院との協力関係を築くのも楽になるはずだ。能力の低い魔術師だとわかっていればこんなところまで国家魔術院のナンバー2がわざわざやってくることはないはずだ。このことは、キールに対して一定の畏怖と興味があるからに相違ないことを示している。


(ミリア、ありがとう。これでようやく大学へ戻ることができるかもしれない。僕、がんばってみるよ)



 熟れた木の葉の匂いを含んだ秋風が、キールの頬をやさしく撫でていく。まるでミリア(あいつ)が激励してくれたかのようにキールは感じた。



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