第678話 ドラゴン三人衆はいずこ
「ああ、あれだ――」
リーンアイムは、滝の横に大きな口を開けている洞窟の入り口を指さし言った。
ジョドとべリングエルも先程からその洞窟の入り口には気が付いているだろう。
「これが島の上の台地まで繋がっておるのか……」
と、ジョド。
「そしてこの洞窟内に現れる魔物に、『竜芯』が埋め込まれていると――」
と、べリングエルが言った。
今回、リーンアイムがキールのパーティに参加しなかったのは、どうしても早急にジョドとべリングエルにも見てもらった方がいいと思ったためだ。
なかなかドラゴン族の3人だけになる機会に恵まれなかった為、キールの試練が遠方でないということが判明した時、今回は不参加にしてくれと伝えた。
ユニセノウ大瀑布までは飛べばさほどの時間はかからない。
ドラゴン族が人を乗せずに飛んだ場合、一日で世界を一回りできる程の速度は出せるからだ。
誰かを背に乗せている時にそんな速度で飛ぼうものなら、どんなに固定していようとも、恐らくは加圧に耐えられずに無事では済まないだろうが。
事前にジョドとべリングエルに話しておいたのだが、やはり、実際に見てみなければという結論になり、ここまでやってきたという訳だ。
洞窟の中に入った3人は程なく【クリスタル・ゴーレム】と遭遇した。が、この魔物には「魔法」が有効と知っているリーンアイムは、難なく魔法を行使しながら粉砕する。
「あったぞ。これだ――」
リーンアイムはその【クリスタル・ゴーレム】の残骸の中から赤い宝石を拾い上げて二人に見せた。
人間たちはこれと「赤嶺石」の見分けがつかないが、これが何かを知っているドラゴン族なら一目すればわかる。
「これは、間違いなく『竜芯』じゃな……。しかし、大きさが本来のものと異なるがの」
「ああ、そうだな……かなり小さい。これは破片だろう。しかし、だとすれば、このゴーレムは竜族ということなのか?」
と、それを見た二人もそれを『竜芯』だと認めたようだ。
「――いや、こやつらが竜族だということは無いだろうが、これが竜芯だということは、これを竜芯だと分かっているやつの仕業かもしれぬ」
リーンアイムは、前にこの魔物と遭遇した時から思っていることがある。やや含みを持たせるような言い方で、二人の出方を窺う。
「べリングエルよ。『竜芯』は掘り起こせばこの大地に幾千も埋まっているじゃろう。かつてこの地にいた竜族は『100日戦争』でほとんどが死滅し大地に還ったのじゃからな」
「――つまりこれはかつてのわが同朋がこの地に残した遺物だと、そういうことか。ふむ。とすれば、この魔物は生み出されたものということになる――」
どうやら二人も同じ結論に到達したようだとリーンアイムも察する。
「やはりそうだろうな――」
と、同意を示しつつ、リーンアイムが考えているある一つの仮説をここで示すことにした。
「この魔物――、【ゴーレム】というのは、魔素によって結集させた自然物にある程度の「プログラム」を与えて自発的に動けるようにしているものだと我は考えている――」
【ゴーレム】には様々な種類が存在している。
が、そのいずれもが、「核」を中心に「自然物」が融合し大抵は人型を模した形となる魔物だ。
その核は通常、魔素が高濃度に凝縮した結晶であることが多い。代表的なものとしては、「土」が融合した【クレイ・ゴーレム】や、「岩石」が融合した【ストーン・ゴーレム】だろうが、人族たちが命名した【歩く骸骨】や【動く植物】、【歩く屍】なども、【ゴーレム】の一種だ。
「その「核」に「竜芯」を使って組み上げたのが、この【クリスタル・ゴーレム】だと思うのだが、お前たちはどう見る?」
二人は顔を見合わせて頷き合うと、ジョドが肯定の意を表明した。
「間違いないじゃろう。じゃが、そうだとすれば、これを組み上げた者がおるということになる――。竜芯をここまで加工することができるとすれば、その者のもつ魔力は相当高いことになるのじゃぞ?」と、ジョド。
「ああ、それこそ我ら竜族と同等の魔力を保有しておらねば不可能だ。そんな者がこの世界にいれば、さすがに我らの感知に掛かるだろう」と、べリングエルが応じる。
やはりか――。と、リーンアイムは頭の中で最後の仮説を組み終える。そして静かに言った。
「だな――。我も同じことを考えていた。我らに感知されずにこの世界に存在することが不可能なほどの魔力を持っているその者は、何らかの方法で、竜芯を手に入れ、それを細分化し、この魔物を生み出したのだろう。それを可能とする方法が一つ、ある――」
「方法があるじゃと――?」
「まてよ――? ああ、そうか、異次元空間か――。それなら――」
やはり聡明なべリングエルだ。どうやら彼もまたリーンアイムが考えている仮説に辿り着いたようだ。
「異次元空間――。あの、白い空間、キールがカミサマとかいうものに会わせてくれた時に行ったあの空間に自在に行き来できる者なら可能かもしれぬというのじゃな?」
と、ジョドも辿り着く。
「ああ。しかし、キールがそんなことをやっている様子はない。ということは、他に何者かがそれをやっているということになる――」




