第662話 実戦?訓練?
「ライ! タゲとって――!」
「おう!」
ハルの号令に、ライカールトが応じ、即座に2歩ほど前に出る。
対峙する【スケルトン】は4体――。だが、今の4人には何という程もない相手だ。
ライカールトは前に出るなり、4体全てに一撃ずつ斬撃を加えてゆく。うち、2体には盾で防がれてしまったためダメージは入らなかったが、そこは構わない。目的はダメージではないからだ。
「さあこい――!」
4体全てのヘイトを集めたライカールトは、新調した中盾をしっかりと構えて迎え撃つ。
4体の【スケルトン】がライカールトへと攻撃対象を選定し、斬りかかり始める。
「ケイ! バフを!」
「ハイ! 彼のものに加護を――『防御力上昇』!」
ケイトが支援魔法を放つと、ぽうとライカールトの全身が光の膜に包まれ、治まる。
これで少々受け切れない部分も、大したダメージは入らないはずだ。
「ローズ! 出番だよ!」
「まっかせなさぁあい!」
声に反応したローズは飛び出すなり、一体目の【スケルトン】にバックスタブを決める。
タゲがライカールトに向いているため、容易に背後を取れる上に、「核」も丸見えの【スケルトン】なら容易に急所を一撃できるというものだ。
「ハルちゃん! 一体、弾くよぉ!?」
「いつでも!」
ハルはすでに『火球』をスタンバっている。充分に集中できる時間があった為、チャージできた魔力もそこそこの量だ。
「それ!」
――カァン!
という金属音は、ローズが繰り出した蹴りを【スケルトン】が盾で受けた音だ。
しかし、その【スケルトン】は衝撃で、たたらを踏んで、「集団」からはみ出す――。
――『火球』!
ハルがすかさず最大チャージした『火球』を放つ。そしてそれは寸分違いなくはみ出した【スケルトン】に命中した。
――バアン!
という炸裂音、瞬間炎に包まれた【スケルトン】はそのまま蒸発する――。
「あは! やるう!」
と、ローズは言いながらも2体目にバックスタブ。
「あとはまかせろ! シールドバッシュ!!」
ガアン! と衝撃音が響く。
からからからという乾いた音が地面から響くのは、まともにバッシュを喰らった【スケルトン】が衝撃でばらばらに崩れ落ちる音だ。
「――ふん!」
と、ライカールトが利き腕のショートソードを地面に突き刺した。
パァン――。
と弾ける音は、ライカールトの突き刺したコアが破裂する音だった。
「すごい!!」と、ローズ。
「おう!」
「はい!」
「完璧だね!」
と、つづいてライ、ケイ、ハルも応じる。
「なんか、ものすごく強くなった気がするぅ!」
「ダメだよ、ローズ、調子に乗っちゃ。今日はこのルーティンと連携を完璧にマスターするまで【スケ】狩りだからね?」
「わかってるわよ、ハルちゃん。でも、これなら今日はそれほど時間が掛からないかもね?」
「なら、追加討伐褒賞も狙っていけばいいさ。とにかく今日は、ここらあたりで「狩り」を続けよう」
そこから、目標の討伐数と、追加褒賞獲得既定の討伐をこなした4人は本日の予定を終了して「迷宮」をあとにした。
「討伐証」となる【スケルトン】の「核」の欠片をギルドへ持ち込み、依頼達成報酬と追加報酬、そして討伐証の買取金を合わせた金額を受け取り、それを4人で分割する。
これが今日の報酬だ。
4人は明日の予定を組むためにいつもの料理屋でテーブルを囲む。
そんなことをここ数日こなしてきた。
「明日は、もう一段奥に行くよ?」
と、ハル。
「――そして、明日であの「迷宮」は卒業だ」
「と、いうことは、とうとう――?」
とローズ。
「うん、明日はボス狩りだね」
「大丈夫、だよな?」
「――――」
と、ハルの宣言に対し、ライカールトがやや自信なさげな声、ケイトは押し黙ったままだ。
「大丈夫だよ。自信をもって確実にやれば問題ないって、支部長も言ってたし。ちゃんと情報収集はしてある。あとは自分たちを信じて遂行するだけだよ」
「そうだよ。私たち『囁く狼』の初ボス戦――! 精一杯やりましょう!」
こうして翌日、4人はこれまでで最大の敵、迷宮ボス【ザ・ロード・オブ・スケルトン】に挑むのだった。




