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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第632話 ミリア先行する


 翌日、ミリアはジョドに跨って先にニューデルへと向かった。

 ミリアの役割的には、いわゆる「陽動」だ。


 国家魔術院副院長である自分は現在、各国国家魔術院の人々との交流を主たる任務とされている。

 『騎竜魔導士』の冠名も随分と認知が上がってきている。


 キールが海なら、私は陸――。

 キールがエルルート族と人族の架け橋となるなら、私は竜族と人族の架け橋になる。


 それが自分の使命だとそう今は思っている。


 そもそも「副院長」という役職をニデリック院長が与えてくださったのは、各国国家魔術院へ訪問しやすいようにという配慮からだ。


 決してメストリル国家魔術院を纏める役割を期待されてのものではない。将来的に、とはお考えなのかもしれないが、今の自分にそれほどの才覚は無いし、むしろその役割に最適なのは私ではなく、ネインリヒさんの方であるはずだ。


『いろいろな国を見て回りなさい。将来のあなたにとって必要なことがたくさん学べるでしょう』


と、ニデリック院長はこの役職を与えてくれた。


(でも、前触れもせず、いきなり各国の魔術院に訪れるなんてことをやってたら、私もゲラード様と同じような目で見られるようになるかもね――)


とも思う。


 なので、大抵の場合は、まずは各国のメストリル大使館に入る。そして、訪問伺いを立てたあと、国家魔術院へ赴くという手順を採るようにしている。  


 今回もそのつもりだ。


 今回の私の役割は基本的には「陽動」だ。つまり、自分が来訪することでいくらか魔術院の人たちの目を引ける。

 そうすれば自ずとキールたちへ向く監視の目が減るというわけだ。


 ヘラルドカッツのような大人数の居る国家魔術院なら、こんなことをしてもたいして何の援護にもならないが、ヘラルドカッツ以外の国の国家魔術院では、「在国」魔術師など、せいぜい十数人程度しかいない。メストリルの在国魔術師でも20人にも満たないのだ。

 その他の所属魔術師たちは大抵、「諜報部員」として各国に派遣されているのが通常だ。しかも、全国家に派遣している国など、ヘラルドカッツぐらいのものだろう。


 メストリルから派遣されている「諜報部員」たちにしても、全ての国家に潜伏しているわけではない。メストリルは古くからエルルート族である『翡翠』さまとの交流があったため、その伝手からの情報が多く入ってきていたというのが実情だ。


 おそらく現在の各国家魔術院の中で、「諜報部員」の数が一番多いのはヘラルドカッツだろうが、その次はウォルデランだろうと思われる。

 いや、もしかしたら、ヘラルドカッツを抜いて一番になったかもしれない。


 『シュニマルダ』の解体――。

 

 あれ以降、ウォルデランの「諜報部員」はかなりの数増えたのではないかと思われる。


(そのウォルデランが捜査しても、今回のデリアルスの挙動不審の原因がつかめないのが本当だとしたら、もう直接問いただすぐらいしか方法は無いのではないかしら――)


という思いも若干している。


 だがそれはもう最終手段というところだろう。もし何か隠しているのだとしたら、そう簡単に口を割るものではないだろうし、そもそもそれほど大した理由でないのなら、初めから理由を付して嫌厭の意を伝えるはずだからだ。


 いったい何を企んでいるのだろう?


 と、まわりに思われても仕方がない今回のデリアルスの立ち回りには、ミリアも少し疑問を持っている。


 このタイミングでデリアルスに訪問するというのは、まさしくその件だと言わんばかりであるが、そうなればデリアルスもそのように構えることだろうから、ミリアが上げられる成果というものはあまり期待できない。


(――だから、「陽動」なのよ。あとはキールたちに任せておきましょう。私の目的はあくまでも、「視察」。カナン村の復興具合の視察ということにでもしておけば、いくらかの魔術師を狩り出せるわ)



 やがて、ニューデルの街並みが見えてきた。

 ここの国家魔術院には幾度か訪れている。国王のミハイル・グレントリー陛下とは、カナン村事件以来会っていない。

 

「とにかく大使館へ行きましょう。それから、国家魔術院へ訪問の打診を入れましょう」


 デリアルス国家魔術院の院長はユリアス・ロンバルトさまだ。

 錬成「3」通常魔術師。デリアルスの国家魔術院の中に錬成「3」魔術師は彼しかいない。年齢は50~60なので、魔術師としては三大魔術師よりも先輩になる。


 ミリアも自国の国家魔術院にある記録に目を通したぐらいであるし、これまでにも数度挨拶を交わした程度のもので、それほど深いつながりがあるわけではない。


(まあこれもいい機会だわ。今回はそのユリアスさまと親交を深めるということにしましょう) 


 そう心を決め、ミリアはメストリル大使館へと向かった。


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