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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第628話 『MitHa(ミツハ)』の本部事務所


 キールがボウンと会っている頃、アステリッドは『MitHa(ミツハ)』の本部事務所、つまり、ルイの娼館の2階にいた。


 今日はみんな、別行動になっている。


 キールさんは、ボウンさんにこの間のユニセノウ大瀑布への遠征のことを報告に行くと言っていたし、ミリアさんは、国際魔法庁の新規入所式の式典があって一日中仕事に追われることになるだろう。

 エリザベス教授はいつもの通り、「水力発電所」のほうへと行ってるはずだ。


 アステリッドも、かなりの間放置してしまっている自身のブランド『MitHa(ミツハ)』の現状を確認しておかなければならないと、この本部事務所にやってきていた。


 『MitHa(ミツハ)』自体の収益はかなり上がっているので、本部の移転を考えてもいいのだが、ここの主力メンバーはこの娼館の従業員たちだ。

 現状ではこの程度の規模でも充分であるし、なにより、使い勝手がいい。

 「住めば都」とはよく言ったもので、アステリッドも、現状ではここ以外に適当な場所を見つけ出せずにいる。


 事務所に入ると、みんなが迎えてくれた。

 みんな、楽しそうに作業をしているのが、特に嬉しい。


 ここのみんなは、大抵は、家がそれ程裕福でない者だったり、孤児になってしまったりという過酷な過去を背負っているものが多い。

 

 そういった子たちをルイ・ジェノワーズは集めて仕事を与えている。

 確かに、その仕事内容は過酷なものだ。


 まさしく「肉体労働」である。


 しかし、この世界においては、どの職業も、常に命の危険と隣り合わせであるし、 それが「地球」との大きな違いで、皆は自分自身の力で生き抜いていかなければならない。


 殊に、「平民」はその傾向が顕著だ。


 「平民」には「自由出国権」がある。自分の好きな国に居を構え、そこにいつでも好きに移住してよいという権利のことだが、その反面、「地球」のような国家構造を取ってはいない。

 

 つまりは、「社会保障」の問題だ。


 例えば、「日本」では、社会保険や職業安定所、生活保護など、国民に最低限度の生活を保障するため、国がさまざまな公共福祉を充実させている。


 これは、「国」がその「国民」を守るべきであるという考えが根幹にあるからだ。その代わり、「国」は国民に税金を課し、国家事業を運営している。

 つまり、国民を囲い込むために、様々な政策を打っているというわけだ。

 半面、移住に関しては、何かとややこしい手続きが必要になったり、国籍というものに何かにつけて縛られたりするのが、「地球」の現在の姿だ。


 これに対し、この世界は「自由に国家間を移動しどこに住むのかを決める権利」を「平民」に付与した。


 一見すると、とても大らかな考えであるように見える。


 が、実のところはそうとも言えない。


 つまりは、「国家」は自国の国民を保護する義務を負わないということでもあるからだ。


 「平民」が生きていくためには、自己責任で金を稼ぎ、食料を調達し、住む場所を整えなくてはならない。

 その分、各領主におさめる税金は現在の「地球」の国家に比べれば随分と低く設定されているが、それでも「0」という訳ではないから、なにかしら仕事をして給金を得なければならないわけだ。


 もちろん、給金を得る方法は様々ある。


 この世界には「ギルド」というものがある。

 商業ギルド・工業ギルド・産業ギルドの3つの職業ギルドと、冒険者ギルドを加えた4つのギルドだ。


 商業ギルドは、主に商業活動・流通経済に関する仕事をする者たちの集まりである。

 工業ギルドは、製造・鍛造・鉱業など、ものづくりを主体とした仕事をする者たちの集まりだ。

 産業ギルドは、農業・酪農・漁業・畜産業などの生産業を主体とした者たちの集まりだ。


 冒険者ギルドは少し、異質なのでこの際省くが、大抵のものはこのどこかのギルドに属している。仕事を探すなら、それぞれのギルド支部へ行けば、なにかしらの仕事を斡旋してくれるという訳だ。


 しかしながら、当然のことながらこの世界は、基本的には「能力主義・成果主義」である。


 どの職業にも、経験や知識、もちろん適性も求められるであろう。


 そう言った中、この「娼館」ビジネスもまた、ひとつの「職業」であると、認定されつつあるのが、この世界の現在だ。


 はじまりは、このメストリルである。

 それまでは、人買い・奴隷商などが跋扈していた世界に、「英雄王」がこの分野を「職業」と認めるという英断があった。


 それによって、「職業」としてどこかのギルドに属せねばならなくなり、統制の範囲内に入れ込んだわけだ。


 結果、課税の対象となり、国家の統制の範囲にもなるわけで、つまり、罪人が陰で行っていた、奴隷売買に国が介入し、不法者を排除することができるようになった。


 だが、娼館ビジネスを認めている国家はまだそれほど多くない。

 現在認めているのは、中央大陸14カ国のうち、メストリル、ヘラルドカッツ、ウォルデラン、ノースレンド、シェーランネル、ヒストバーン、ダーケートの7カ国で、半数に留まっている。


 やはり、「性を売る」という行為自体が、どうにも暗く陰惨な影のイメージが付きまとうことを払拭しきれていないわけだが、それを何とかしようと現在、ルイ・ジェノワーズやルドさん、ジルベルトさんなどが奔走している。


 そして、そのバックに付いているのが、『稀代の魔術師』キール・ヴァイスなのである。

 アステリッドは「キールの右腕」だ。

 キールがやることは全てにおいて自分がサポートすると決めている。


 アステリッドがこの場所から本部事務所を移転しないのもまた、彼女の覚悟の表れなのであった。


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