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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第596話 ローズの決断


 ローズはどう返答したものかと、少し困った。

 いずれにしても、話の先を聞かないことには、返事のしようがない。


 が、おそらくのところ、隣に座る院長さんが言及するあたり、かなり高度に政治的な内容が含まれているような気もする。


「ちょっと、王様ぁ。話がズレちゃってるよね? 今は、この子が話の先を聞くかどうかって話でしょ? そんなに幾つも質問されたら、余計に混乱して返事が出来ないじゃないか」


 不意に正面に座る少女が声を上げる。

 この少女、話の始まりからずっと今まで黙って聞いていた。教授の助手とか言ってたけど、国王に対してあまりにも()()()()()感じだ。

 いったい何者なのだろう?


「ああ、そうだったな。今の問いかけはすぐに答える必要もないことだ。それより、ローズよ、他に質問はあるか?」


 「英雄王」はその少女――たしかイハルーラさんだったか――の提言を素直に受け入れると、ローズにそう問いかけてきた。


「――えっと、そうですね。例えばそのお話の先を聞いたとして、私がお役に立てるかどうかということなんですが、そこはどうなんでしょう? 私は平民ですし、武術の心得はありません。学校は初等教育だけは受けましたが、それ以降は祖母との二人暮らしで日々の生活作業ぐらいしかできません。今年になってから雑貨屋に勤め始めましたが、それもまだ2カ月とちょっとです。雑貨の知識が豊富っていうわけでもありません――」


「大丈夫だよ、ねえ教授せんせい――?」

と、イハルーラさん。ついで、

「ええ、恐らく問題ないと思うわ。ローズさん、あなたが身構えるのは分かるわ。でも、私たちにはあなたが必要なの。私たちが今取り組んでいる研究に、この先、あなたの知識が必要になるのよ」

と、エリザベス教授が身を乗り出すようになって言ってくる。


 この教授、とても自分の研究に真剣な人なんだろう。けど、一体どんな研究をしている人なのだろうか?


「すいません教授せんせい、えと、教授の研究って、何なのですか?」


 ローズは無知を承知で質問する。だが、いまさらかしこぶっている場合でもない。私は何かしらの結論を出さなければならないのだ。


「ああ、そうね。それなら話しても問題ないわね。もう公式になっていることだし。私の研究は、もともとは考古歴史学なんだけど、そこからのつながりで今は「電力」を主に研究してるの。カインズベルクにも寄ったって言ってたわよね? この街にもあるけど、通りの『街灯』はもう見たでしょう? あれの元を作ったのが私なの」


 この答えにローズはさすがに驚いた。

 あの通りの脇に立ち並ぶ明るい光――。それは「火」でないことは一目見てわかったが、どういう理屈で光が灯るのかまでは知らなかった。

 街々の人の話を聞くに、魔法でもない新しい技術なんだそうだという程度の認識だった。

 その「街灯」を作ったのが、こんなに若くて美しい女性の大学教授だなんて、思ってもみなかったからだ。


「え? そうだったんですか!? へえ~、街灯をつくった先生、ということなんですね? でも私、その「でんりょく」なんて全く分からないんですけど――?」


「大丈夫だよ、そこはボクたちに任せて。ローズ、ボクは君とお友達になりたいなってそう思ってる。だから一緒にやらない?」


 ローズが余計に尻込みするのにかぶせて、イハルーラさんがそう言った。この子の笑顔はとても不思議だ。なんと言うか、この子となら一緒に楽しく過ごすことが出来そうな気がしてくる。


「――そうなんですね。わかりました。話の先を聞かせてください」


 ローズは自分でも驚くぐらいすんなりとそう答えてしまった。

 

「ありがとう、ローズ! ボクはイハルーラ・ラ・ローズ。みんなには「ハル」って呼ばれてるから、ローズもそう呼んでね。同じ「ローズ」同士、仲良くしてよね」


と、少女「ハル」が身を乗り出して右手を差し出してくる。


 ローズも自然とその手を取って、よろしくハル、と返した。



 その後、エリザベス教授とも握手を交わし、順に、院長さん、国王陛下とも握手を交わし、再び、ソファに腰を下ろす。


 そして、そののちに、今回の「貼り紙」の目的と、ローズの知らない新しい『世界』の話を聞くことになる。


 

(ふぅ、なんとも大変なことになってしまったような気がするわね――。でも、たぶん、これが私の「往く道」なのかもしれないわ。この「道」の先にいったい何があるのか、今はどうしてもそれが知りたいと思ってしまっている。ああ、クエルのベルルさんに手紙を書かないと――。その辺もどうすればいいかは、明日また、ハルにでも聞いてみようかしら――)


 ローズは寝室のベッドに横になりながら、そんなことをぼんやりと考えていた。


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