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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第595話 「暴風」とジズレフィン


 今から15年ほど前の話だ――。



「――これが、二人の冒険者証だ……。二人は最後まで抗い続けたようだ。遺体の状況がそう物語っていた」


 そう言って、リヒャエル・バーンズは二つの冒険者証をジズレフィン・マーシャルに手渡した。

 年齢的には少し下だろうか。50代半ばというあたりで冒険者としては超ベテランというところだろう。


「――息子さんと嫁さん、だったのか?」


 リヒャエルはそう問うてみた。


「あの子の父親と母親だよ――」


 ジズレフィンが優しい眼差しで見つめる先には一人の小さな女の子が土いじりをして遊んでいる。

 ようやく、言葉を覚えかけるぐらいの年齢か。よたよたと歩いては、しゃがみ込み、一心に土いじりにふけっている。


「そうか――。それは無念な事だろう。お悔やみを申し上げる――」


「さあ、どうだろうね。あの二人は、あの子を置いて逝っちまったんだ。いまさら、どうにもならないさ――」


「――そう、だな。じゃあ、俺たちはもう行くぜ?」


「あんた、「暴風」だろ? 受けた『恩』には出来る限りで報いるのが『礼』というものさ。だけど、私にはもうやれるものがこれしか無い――」


 ジズレフィンが、緑色の意匠を凝らした短剣を差し出してくる。


「――ふむ。なかなかのものだな? だが、受け取れぬ。お前はこの先あの子を育てねばなるまい。それをギルドへ持ち込めば、それなりの金額になるだろう」


「――そう、だね。だから、せめて、鞘だけでも持って行ってはくれないか。私も「冒険者」なんだ。まあ、もう引退するがね?」 


「意地というやつか。わかった。ちょっと待て――」


 そう言うとリヒャエルは、ティット・デバイアに合図をする。

 ティットはその意を察して、ポーチから一枚のなめし皮を取り出した。


 リヒャエルはそれを受け取ると、短剣の鞘を抜き、ティットに渡し、次いで、そのなめし皮で短剣の刃を包んでやった。


「ジズレフィン、では鞘は遠慮なく貰ってゆく。が、もし、あの子が冒険者になるようなことがあったら、鞘が必要になるだろう。その時は取りに来るがいい。それまで預かっておくことにする――」


 そう言って、ジズレフィンに背を向けて立ち去った。

 その後ジズレフィンと出会うことはもう無かった。



******



「ところで、ローズよ。ジズレフィンは今どうしてるんだ?」


 「英雄王リヒャエル」は聞かねばならないと、そう思ったのだ。 


「先日、亡くなりました。亡くなる直前にこの短剣を私に託してくれたのです。今思えば、おばあさんはもう、()()()()()()のかもしれません」


 ローズが答える。

 そんな気はしていたが、改めて聞くと、やはり、切ない気持ちになる。

 リヒャエルももう80に近い。自分もそろそろなのではないかとそう思い始めている。


 それでも、一人でこの子をここまで育て上げたジズレフィンに比べれば、自分の晩年は恵まれているかもしれないと、そういう感情も沸き起こってくる。

 残念ながら子は為せなかったが、たくさんの仲間に囲まれ、将来有望な後輩たちに恵まれ、また、想い人と共に過ごせる日々が到来しているのだ。

 おそらく「翡翠ジルメーヌ」は俺を看取る覚悟をすでに決めていることだろう。


「そうか。お前は、どこかに身寄りはあるのか?」


 リヒャエルはさらに質問する。


「――いえ。雇っていただいているお店はありますが、肉親や伴侶はおりません――」


「なるほど――。どうだ、ローズよ。お前、俺たちの仲間にならないか?」


「なかま、ですか?」


「ああ、仲間だ。俺には子がいないのだが、幸い、仲間は多い。この国には俺の大切な仲間がたくさんいるのさ。ここにいる3人ももちろんそうだが、他にも海に出ているものや空を駆けているもの、遠い海の向こうからやってきた者など、千差万別だ。退屈なんかしてる暇をあたえちゃくれねぇ。――でもな、毎日が楽しくって仕方がねぇのさ」


「――――」


「お前が心を決めれば、もう、お前は俺たちの仲間だ。家族にはなれねえかもしれないが、その分、いろんなことを話せる。喧嘩したり笑ったり、悩んだりもな。どうだ? 俺の仲間たちと一緒に『世界』を見てみないか?」


「世界を――ですか」


「ああ、『世界』だ。それも、いろんな『世界』だ。文字通り、現実世界もそうだが、魔法に関する世界や、科学に関する世界、政治に関する世界や、商売に関する世界もあるだろう。そのどこに自分が力を発揮できる世界が在るか今はわからなくても、探そうと思えばいつか必ず見つかる。お前は自分が生き生きと輝ける場所を探してみたいとは思わないか?」


 リヒャエルはローズの顔を覗き込んで答えを待った。


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