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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第593話 クルシュ暦372年3月24日


 その後、キールたち5人は部屋の中の探索を始めた。

 ここが『神の試練』の最終目的地であるのなら、なにかしらそれらしきものが見つかってもおかしくないだろうと、食指を動かしてみたのだが、結局のところ、何かめぼしいものは見つからなかった。


 犬頭大男が消失したあとに残して行った『赤嶺石(本当は竜芯)』だけ持って帰ることにする。


 ただ、宝物ではないが、部屋の奥に奇怪な「次元が歪んでいる場所」を見つけた。

 おそらく、どこかへと続く「門」ではないだろうか。


「やっぱこれ、気になるよな――」

と、キールがその「門」の前に立って言った。


 その時、キールの脳内に声が響く。


『キールよ。ご苦労じゃった。これで一つ目の試練は終了じゃ。目の前にある「門」はわしからの褒美じゃ。恐れずにくぐるがよい――。では、気を付けて帰ってくるのじゃぞ――』


 ボウンさんの声だった。

 なんか、最後の方、らしくない言葉で締めくくられていたのが妙に気にかかるが、まあ、この「門」をくぐるのは大丈夫なんだろう。


「――どうやら、カミサマの手によるものらしい。今、声が来た。入っても問題ないらしいから、入ってみるよ」


 そう言うなり、キールは門をひょいとくぐる。


 するとそこは、来る時に上陸した岸辺だった。

 キールの背には、まだ「門」が存在している。


 キールが4人を呼びに戻ろうかとした時、門の中から一人また一人と仲間たちが姿を現した。

 残った4人が全員「門」から出てくると、それはすぅっと空気中に溶けてなくなってしまった。


「なるほど――、次元を繋げた回廊だったってわけか。これが魔法なら、教えてくれればいいのに」


 キールはそう天に向かって悪態をつく。すこしばかり、いつもの調子が戻ってきている。


「まあまあ、いいじゃありませんか。これが大陸までつながってたとしても、ここに船がある以上ここからは船で帰らないといけないんですから」


と、アステリッドがキールに告げる。


「そうだぞ、小僧。帰りが船でないのなら、我の食事の約束が反故ほごになるからな? それは困る」


とはリーンアイムだ。


「人に心配をかけておいてその態度かよ? やっぱり、食事の件は無かったことに――」

「なんだと!? 正気か、小僧!!」

「――冗談だよ。そんなに目くじらを立てるなよ。実際痛い目をしたのは本当のことなんだ。それはちゃんとわかってるさ」

「ふん、「冗談にも程がある」って言葉をお前は知らんのか!」

「そこまで大袈裟おおげさな事じゃないだろ? 悪かったよ、ちゃんと美味おいしいものを作ってくれるようにシュレイさん(司厨長コック)に言っておくよ」

「ならばよい」


 本当に竜族って別にそんなに食べなくても生きて行けるって話じゃなかったっけ? どうしてこうも食い意地が張ってるんだこいつは。


 そんな話をしていると、岸辺の拠点の周りにいた船員たちがキールたちが現れたことに気が付いたようで、5人の帰還を祝福してくれた。



******



 クルシュ暦372年3月24日――。

 キールたちがユニセノウ大瀑布がある島(=のちにユニセノウ島と名付けられた)をあとにして、東へと航海を開始したまさにその日のこと。


 メストリル王国の王城に一人の少女が到着した。

 ローズ・マーシャルである。



 ローズは即座に城内に案内され、国王謁見の間へと誘われ、そこで、「英雄王」リヒャエル・バーンズと対面し、その後、さらに応接室へと場所を変えられていた。


 ローズが腰掛けるソファの正面には二人の女性――妙齢の女性と子供のような少女が腰掛け、左手の一人掛けに銀髪の男性、右手の一人掛けに「英雄王」が腰掛けている。


「紹介する――。メストリル国家魔術院院長のニデリック・ヴァン・ヴュルスト、こちらが、メストリル王立大学考古歴史学教授エリザベス・ミューラン、それから、その助手のイハルーラ・ラ・ローズだ――」


 「英雄王」が3人をローズに紹介してくれた。が、どうしてこんなに大勢に囲まれているのか、全く理解できていない。


「はあ、院長さまに大学教授の先生と助手さん――ですか。えっと……すいません、なにが始まるんですか?」


 ローズがやや面食らって、ようやく声になって出て来たのがそれだった。


「それについては、エリザベス、頼む――」

と、英雄王。


 エリザベス教授が後を受けて、まずは、あの「貼り紙」と同じものを、ローズの目の前のテーブルの上に拡げた。


「これ、読めるんでしょ? なんて書いてあるの? 教えてくれない?」


「え? ああ、でも意味は分かりませんよ? それに、読めますが、どうして読めるのかも――」

「大丈夫。その理由はこちらが分かっているわ。とにかく読んでみて――」


 エリザベス教授の視線が少し痛い。とても真剣なのか、少し怖い気もするが、ローズだってここまで来るのに腹をくくってきたのだ。ここは意を決して進むしかない。


「一つ目が、『フォルダ』。二つ目は、『データ』。三つ目が、『グラフ』――です」


と、ローズがすらりと答えて見せる。


「――じゃあ、これは?」


 次に提示された紙の上に並ぶ文字列は、初めて見るものだったが、読めることに変わりはない。


 ローズは、


「「システム」、「メンテナンス」、「パラメータ」――」


と、それもすらりと読んで見せた。


 すると、その教授はふぅと一息ついて、


「陛下――。どうやら本物のようです。彼女はこの文字が読めています――」


と、そう言った。


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