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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第592話 リーンアイムは役者だった


「すごい……、キールさん――」

「ふん、この翼の代償はそこそこ高くつくぞ? 肝に銘じておくんだな、小僧?」


 アステリッドの感嘆の声とリーンアイムの厭味がキールを迎えた。


 犬頭大男はその場に頽れ、やがて霧散する。あとには赤い宝石が一粒残った。


「本当にすまない、みんな。僕がもっと早くこうしていればよかったんだ――」


 キールの表情は変わらず暗い。やはり、相当堪えていると見ていい。

 その様子を察したランカスターが言葉を掛ける。


「ちっ、美味しいところを持ってかれちまったなぁ。あの、咆哮、あれはなんだったんだ?」

 

 やや厭味っぽく言い放ちはしたが、特にキールを責めている様子はない。それよりも、初めて経験した窮地について、もう少し詳しい情報を欲している。


「あれは、『ウォークライ』だ。魔物の中には、一種の魔法のようなものを使うものもいる。特殊なスキルとでも言えばよいか。あの『ウォークライ』にはいわゆる麻痺効果に近い効果があるのだ――」


 説明したのはリーンアイムだ。だが、それ以上は今は言わない。


 実は、特殊なスキルを扱える魔物というのは古来、存在していなかった。誤解を恐れずにいうが、「魔法」を操る魔物は存在している。


 このようなスキルを使用できる存在ものには共通点がある――。



――『竜芯りゅうしん』だ。



 この『竜芯』という赤い宝石のようなものは、竜族の瞳の奥に存在している竜族固有の特徴であった。

 竜族が詠唱をせずに「魔法(のような効果)」を生み出すのは、この『竜芯』を持つが故と、古くから竜族には口伝されている常識だ。

 『竜の咆哮』や『火球発射』、『羽ばたきによる突風』や『鋭い爪による衝撃波』など、身体を通常通り動かすことで発動させることが出来る特殊な効果付き攻撃を繰り出すことが出来るのは、ひとえにこの『竜芯』の存在あるが故だ。


 その竜族固有の特徴を、この洞穴内の魔物が持っていることに、リーンアイム自身、戸惑っている。


 ゴーレムもそうだった。そして、この犬頭も同様の特徴を持っていたのだ。


 『竜芯』の大きさに力の威力は比例する。

 ここでいう「大きさ」とは、物理的な大きさではなく、その威力の大きさとでも言えばいいか。体積的な大きさや物理的な大きさはこの際関係がない。小指の先ほどの大きさしかない『竜芯』であっても、威力がとてつもなく大きいことは普通にあり得る話だ。


 そして、『竜芯』を持つものは、相手の『竜芯』の規模をある程度推し量ることが出来る。


 リーンアイムはこの犬頭を一目見た時から、ある程度は予測していたのだが、それについてパーティに周知することはしなかった。


 いや、今もなお、『竜芯』については秘匿している。


(『竜芯』の話は、竜族固有の口伝であり、門外不出の情報だ――。しかし、竜族以外の魔物から『竜芯』が現れたとすると、さすがに何かしら手を打たねばなるまい。戻ったら、ジョドやべリングエルと話をしなければならんだろう――。それまでは悪いが、今は何も言えまい――)


 リーンアイムはそう考えている。



「今回、僕は判断を誤った。いつもの通り、徐々に慣れていけば、そのうち僕が本気を出さなくても倒しきれると、そう考えてしまった。まるで、『練習』のように、例え傷ついても回復魔法で事足りるとか、回復小瓶ポーションで間に合うだとか、そんな風に考えていたんだ――」


 キールの表情はかわらず冴えない。


 さすがにこれは、お灸がきつすぎたかと思い始めたリーンアイムが言葉を掛けようとしたとき、アステリッドが叫んだ。


「キールさん!! しっかりしてください! キールさんの判断は間違っていたわけじゃありません! ただ、私たちの――、私の力が足りなかっただけなんです! あの咆哮を受けた時、私がしっかり状況判断して、解呪系の魔法を即座に発動してれば、二人はもっと早く動けたはずなんです! わたしは、あの時、混乱して声が出ませんでした――。決してウォークライの影響を受けて詠唱句が告げなかったわけじゃないんです――。わたしがもっと、しっかりしていれば――」 


 アステリッドが悔しそうに唇をかんで項垂れた。

 たしかにアステリッドの言うことはもっともだ。


 麻痺効果を受けたのであれば麻痺を解除すればよいのであって、それには魔法や薬で事足りるのだ。


「いや! アステリッドは悪くねぇ! 俺たちがしっかりそういう事にも備えているべきだったんだ! 俺らの仕事はタゲとりだ。魔物の注意をしっかり引き付けて、後衛の魔法攻撃を円滑にするのが俺たちの役割だ。それが出来なかったのは、単純に俺たちの力不足だ――」

と、ランカスター。

 レックスもその通りだとばかりにランカスターの肩を叩く。



 そんな様子を見てリーンアイムが、まあ、このあたりでよいだろうと、手を打つことにした。


「――ふん。お前たちが経験不足だということは初めから分かっておる。まあ、今後は我がこんな「芝居」を打たずともよいぐらいには、今回のことを肝に銘じておくのだな――」


 そういうと、リーンアイムが背中から竜の翼を広げる。まだ一部が欠損してボロボロになったままの状態が痛々しい。


「まあ、このぐらいの傷、我の力にかかれば、こんなものよ――」


 そう言うなり、翼が淡い光に包まれ、欠損部分が徐々に再生してゆき、ついには完全な翼の形に戻った。


 4人はその様子を唖然として眺めていた。


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