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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第590話 犬頭大男【ルイン・コボルド・ロード】


「やった、か――?」


 キールが魔法発動の反動で頭がふわりと揺れるのを感じながら、言った。


「おお!」

「凄い威力だな――」

「ふん、人族にしてはなかなかにやりおる」


と、ランカスター、レックス、リーンアイムがそれぞれ声を上げる。


 が、一人、アステリッドだけがキールの方に駆け寄って、ポーチから何やら取り出した。


 キールは、ぐわんと揺れる頭のせいで足元がおぼつかず、その場に膝をつく。


(はは、やっぱちょっときつかったか――。でも、取り敢えず、なんとかなりそうだ――)


「キールさん!! これを――!」


 アステリッドがキールに寄り添い、小瓶の口を切ると、その小瓶をキールの口にあてがった。


 ゆっくりと小瓶の中の薬液がキールの口から体内へと浸透してゆく。すると、刹那、キールの頭の揺れが収まり、体にも力が入るようになってくる。


「どうです? 立てますか?」


 アステリッドの心配そうな目がキールを覗き込んでいる。

 久しぶりにかなり近い距離で見るアステリッドの瞳が、明らかに曇っているのを見て、キールは少し申し訳ない気持ちになった。


「――ありがとう、アステリッド。随分と楽になったよ。大丈夫、じきに回復するさ。それより――」


「え――?」


「僕のことはすこし置いておいて、前の3人のことを見てやって。僕はもう少ししたら戻るから――」


「あ――、わたし――」


「大丈夫、アステリッド、君は優しいから。みんな、ちゃんとわかっているさ」


「わ、わかっていないのは、キールさんの方です! あ、いえ、もう! とにかく! こんな無茶はこれっきりにしてください! いいですね!?」


 そう言い捨てると、アステリッドはキールに背を向けて前線に駆け出して行った。


 前では3人がとうとう犬頭大男と切り結び始めている。


 犬頭大男、のちに、名称がつけられ【ルイン・コボルド・ロード】とよばれるようになる魔物は、3メートル級の巨人で、得物は巨大な偃月刀シミター、装備は胸当てのみという出で立ちだ。腰には薪布が掛けられており、足は犬のような形状だが、しっかり2足で立っている。


 巨体ゆえに、力は相当なもののようで、レックスが盾で受けるたびに、やや弾き飛ばされているようにも見える。

 が、受けれているということは、武器の強度はそれほど高くないということでもある。おそらく前の3人だけでも、そのうち攻略してしまうのではないかと、そう思えるほどだ。


 ただ、それは体力がもてば、という前提の話だ。


 戦闘開始からここまで、それなりに時間を使っている。治癒の得意なアステリッドがいたとしても、どれほどの時間が掛かるかわからない相手に、魔法を連発して魔力を消費するわけにはいかない。


 やはり、キールが回復と同時に魔法攻撃で援護しなければ、ジリ貧になる方が可能性としては高いと見立てた。


「くおぉお!」

「そりゃあ!」

「ふん!」


 と、気合を発しながら、受けや攻撃のタイミングを徐々に調整してゆく前衛の3人だが、相手の犬頭の攻撃を一撃でも喰らえば、さすがに無事ではいられない。慎重になるのは致し方ない。


 それでも、とにかく大きいものを相手にするときのセオリーは、「下から崩せ」だ。

 もちろん、レックスもランカスターもそれを狙っている。


 竜体化を禁じられているリーンアイムは、やや苛立ちを感じるだろうが、それよりも、自身の刀剣技術を研ぎ澄ます鍛錬の場として割り切っているようにも見える。

 一刀一刀に工夫を凝らし、刃の角度や斬撃の角度などに変化をつけいろいろと試しているようだ。


 アステリッドは常に魔力を充填している状態で待機する。いつでも治癒魔法を発動準備完了(レディ)の状態だ。



 前線の3人が数合、切り結んでいる間、キールは膝をついてじっと回復を待つ。もちろん、完全回復は難しいだろうが、それでも、この場所に漂う魔素に集中して魔力に変換してゆくようなイメージを意識し続ける。


(もう少し――、もう少しで立てる――)


 そう思った時だった――。



グオオオオオオオオン――!


  

 と、いきなり咆哮が洞窟内に響き渡った。


 犬頭が、天井に向かって雄たけびを上げたのだ。


「ぐう……!」

「うわ……!」

「ぬう」


 と前線の3人がまともにその雄たけびを浴びる。これは、「魔法」――?


 いや、いわゆる「魔法」ではないのだろうが、それと同等同種の何かが今起きたのだ。


(え? なに――?)


 アステリッドは一瞬状況が呑み込めず、判断に迷いが生じた。


「娘よ――! これは、『ウォークライ』だ! 二人の動きが数秒止まる! 援護を――!」


 リーンアイムだけがそれを見抜いて声を張り上げた。

 が、アステリッドはまだ混乱から覚めない。


(え? 動きが――? どういうこと……、私も声が出ない!)


(くう、間に合わんか――。キールよ、この代償は高くつくぞ――)


 レックスとランカスターの動きは完全に止まったままだ。犬頭の巨大偃月刀(シミター)が二人の方へと振り下ろされる。


 アステリッドはまだ発動句の発声(キャスト)ができない――。キールは後方にいてまだ膝をついたままだ――。


 そんな中、レックスとランカスターはただその時を待つしかできなかった。


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