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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第586話 リューデスの痕跡?


 キールには一つ思い当たることがある。

 エルルートの凄腕魔術師――。


 そう、リューデス・アウストリアだ。

 現在は行方が全くわからないが、恐らくそれほど遠くない未来、リューデスとキールの人生は交わるような気がしている。これは予感という程度のものだ。


 確証ではない。が、キールの『試練』が魔物案件であるならば、あまりにも偶然が重なりすぎていると言える。


 リューデスが『魔界招来』を完成させることと、キールの『試練』――。

 

 この二つがほぼ同時期に起きることになるわけだ。



「タルードさん。その男なんですが、名前はかたりましたか?」

と、キールがタルードに訊ねる。


「いや、名前は言わなかった――と思う」

と、答えるタルード。


 しかし――と、タルードは続けた。


「アイツが使った術式はおそらく『次元』を対象とする魔法だと思う。あれほど高位な術式を使う魔術師なんてそれほど多くないだろう」


 『次元』を対象とする術式のランクは「超高度」に分類される――。

 今一度改めておくと、「通常」は物体、「上位」は生物、「高度」は精神・意識、「超高度」は次元、「最上位」は時間を対象とする、術式を発動できる対象物によるランク分けである。


 キールは「超高度」ランク、アステリッド、ミリアは「上位」である。


 なお、三大魔術師のうち、『火炎ゲラード』と『疾風リシャール』の二人は「上位」、『氷結ニデリック』のみが「高度」となっている。


 つまり、もしその魔術師が、タルードの言うとおり「次元魔法」を発動できるのなら、キールと同等のクラスということになるわけだ。


「――そうかもしれないね。エルルートのことはまだよくわかっていないけど、彼らには守護精霊という精霊が一人一体付き添っているんだ。魔法なのか、その精霊の能力なのか、いずれにしても相当強力な魔術師だろう」


 キールはそう応えるにとどめる。


 タルードのこれまでの話に信憑性が伴ったことで、彼の言葉の多くを信じることが出来そうだ。どうやら、嘘は付いていないと思われる。

 そうなると、彼を連れて帰るということになるのだが、どうやら彼は、「()()魔術師」のようだ。

 彼は生まれをノースレンドと言っていた。元はノースレンド王国国家魔術院に名を連ねていたか、あるいは管理対象になっているはずだ。

 つまり、戻った場合、そのまま放置するわけにもいかず、ノースレンド王国の魔術院に引き渡すことになるだろう。


「ところで、タルードさん。あなたを連れ帰ったとしても放置はできません。あなたはノースレンド国家魔術院の管理対象ですよね? われわれも国家魔術院の管理対象です。あなたを放逐する(ほうっておく)わけにはいきません」

と、キールが念を押す。


「ああ、分かってる。もちろんのことだ。どこでもいい、戻った国の国家魔術院に突き出してくれて構わない。あとのことはお偉いさん同士で話を進めてくれるだろうさ。魔術院に幽閉されるようなことになったとしても、ここにいるよりは何万倍もましだ――」

と、タルードが答える。


 とにかく、話は決した。

 タルードは身の回りの物を手早く準備する。と言っても、そもそも何もない場所だ。準備に時間はかからなかった。



 タルードを加えた一行には、それなりの「収穫」もあった。


 タルードの「隠密」技術はかなりのもので、魔法だけでなく身体の気配すら隠せるレベルだった。

 彼がこのような強力な魔物が現れる場所で生き抜いてこれたのも、その技術あればこそだという。


「――俺の住んでた洞穴の前に、その男が立ちよった場所があるんだが……」


 タルードの話によると、タルードの住んでいた洞穴は最後に立ち寄った場所なんだと、彼は言った。


 実は、この台地に至る【クリスタル・ゴーレム】の洞穴には、隠れた通路があるのだという。


「普通に通るだけでは絶対にわからないようになっているんだ。あいつはその場所で、小さい氷魔法を発動して、扉を開けた。そしてその先で見つけたのさ、あの洞穴の位置が記された手記を――」


 その手記を読み、一ページだけを破り、それを頼りにあの洞穴に至ったのだという。


 その手記があった場所が特別な場所だったのだという。まるで、神殿の大広間のような造りで、奥には高さ10メートル以上はありそうな、さらに大きな扉が立ちふさがっていたが、その男エルルートは、今回は扉の先には要はない。絶対開けるな――と言って、洞穴を抜け、台地の上面へとたどり着いたのだという。

  


「大きな扉――」

キールは、やや逡巡する。


 『タルードとの邂逅(ここまでの流れ)』を鑑みれば、おそらくのところ今回の目的である『試練』はそこにありそうな気がする。

 神ボウンはことさらに何も言わなかったが、そういう場合の正解順路というのは、それまでの流れに沿うものであることを、キールは「肌で」感じている。



「たぶん、そこだな――」

と、キールは意を決した。


「――よし、じゃあ、今日は野営地に戻ろう。そして、明日の朝、洞穴に再突入し、帰り道にその「扉」の先を確認することにする」


 一同もそれに賛同し、タルードを含め6名になった一行は、次の朝、台地を下る洞穴に再突入を試みることになった。


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