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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第585話 タルードの話


 その後、タルードの話の信憑性を確かめるためにも、彼が暮らしている場所を案内させた。


 その場所は西の岩壁にぽっかり空いた岩山の穴だった。穴の中には手作りの道具類が並んでいる。どうやらここで暮らしているというのは本当のことらしい。


「まるで、動物だよ。こんな洞穴で、魔物の襲撃が来るかもしれないことにおびえながら生きている――」


 そう言ってタルードは自嘲気味に笑った。


「タルードさん、あなたは魔術師なんですよね? それも痕跡消去の精度の高さから見て相当の使い手だ。仲間の方々も魔術師だったのですか?」


 キールは気になっていることを質問することにした。

 彼の話が本当だとしても、彼が善人であるという確証にはならない。ただ、大陸に帰りたいという気持ちは本当だと思える。

 その気持ちを推察するのはそれほど難しいことではない。こんなところに一人で生きていて楽しいことなど一つもないだろうことは容易に想像できるからだ。


「――いや、仲間たちは船乗りと戦士だ。お前たちの船はどこに停泊してるんだ? まさかあの岸に上がったんじゃないだろうな?」

「あの岸?」

「ああ、サンゴ礁のびっしり生えている側のだ。あそこに着けられる船乗りなんてとんでもない腕だからな――」

「そうですね。僕もそう思います。でも、出来る船乗りだっているんですよ?」

「まさか――」

「ええ、そのまさかです。僕たちの船はその岸に停泊しています」


「ほんとうか! そりゃあ大したもんだ。ああ、俺は船のことは良く分からねぇが、仲間のルインがそう言ってたんだ――。そうか、そりゃあ、凄いよ。あのルインが言ってたぐらいなんだから。ああ、ルイン、どうして死んじまったんだよ……。せめてお前だけでも生きていてくれりゃあ、二人でここで暮らすのも悪くなかったのによぉ……」


 タルードはそう言うと、涙を流し始めた。

 ルインと言うのは女性の船乗りで、タルードとは恋仲だったらしい。


 タルードとルインは他の数人とで運搬船の運営をやっていたのだといった。そこそこの船の大きさで、ノースレンドからキュエリーゼ、さらに南のレクスアースまでを何度も往復して物品を運んでいたらしい。

 ある時、一人のエルルート族の男が現れて、運搬を頼まれたという。

 キュエリーゼのローゼから遥か西へ海を進んだところに浮かぶ島がある、そこまで私を運んでほしいのだと、その男は言った。


 海の先に向かうなどということは考えられなかったが、その男はさらにこう言ったのだという。


「お前たちレントが知らないこともまだまだ多い。私はエルルート族と言ってお前たちレントとは違う種族なのだ。このレントが住まう大陸の遥か南の洋上に私の故郷がある。そこまで運べとは言わない。だが、その島まで運んでくれるなら、報酬は弾んでやる――」


 そう言って、前金と称して大金を提示してきたらしい。



「船乗りたちは冒険家だ。まだ見ぬ新しいものがそこに在ると言われれば、それを確かめずにはいられない。ルインもそんな女性だった。俺はルインのそういうところも愛していたんだ――」


 結局、ルインたちはこの仕事を受けることにした。

 もしそんな島があるのなら、自分たちがその島の一番乗りになる。これは船乗りとしては最大の栄誉だ。


「野郎ども! 私たちは、伝説の船乗りになるんだ!」


 ルインはそう言って仲間たちを鼓舞していた。



 はたして、この島を見つけたときの皆の驚きと、歓喜は想像を絶するほどのものだったろう。結局その後、そのエルルート族の男が先導して滝裏の洞穴を抜け、この台地に上がった。


「そして、ここで、奴はそれを手にした途端に正体を現しやがったんだ――。奴はこう言った。『ご苦労だった、お前たちは用済みだ。私はお前たちに付き合ってやっている暇はない。急ぐんでな。先に帰らせてもらう。もっとも、ここから帰れるかまでは私の知ったことではないがな?』と。そうして奴は姿を消した――」


 その先のことは聞くに堪えなかった。

 全員で決死の覚悟で挑んだ洞穴突破はならず、結局、タルード以外の皆はゴーレムの餌食になってしまったのだ。


 タルードも突破を試みたが先に進めず、結局引き返し逃げるのが精一杯だったのだという。


「ルインが、生かしてくれたんだ――。でも、ここに戻ったって、俺には希望はもう無かった。何度も死のうかと思ったが、出来なかった。怖かったんだ――。彼女が命懸けで生かしてくれたこの命を、自分の手で捨てるなんて、俺にはできなかったといえば聞こえはいいが、実のところは死ぬのが怖かったんだよ――」


 そうして、森の中で狩りをしたり、湖で魚を取ったりして今まで生き抜いてきたのだと言った。

 昨日、空を飛ぶ竜を見た。南の岸辺に火が灯るのも見ていた。それで、場合によっては一緒に連れ帰ってもらおうかと考えたが、どういうやつらが来たのかわからなかったから、様子を見ていたということだった。


 なるほど――、とキールは納得したのだった。


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