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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第582話 そして島上陸二日目が終わる


 頭を切り落とされた大蛇の胴を岸辺に下ろしたリーンアイムは、竜変化を解いて地上に降り立った。


 アステリッドはレックスの治療にあたっている。

 ダメージは多少あるようだが、大事には至らない程度のもののようで、レックスの顔色も随分とよくなってきていた。

 キールとランカスターも二人の傍に付き添って大事に備えている。


 リーンアイムはひとり、岸辺に横たわる大蛇の頭に近づいてゆくと、自分の体ほどもある目玉の中をずいと覗く。


(やはり――か)


 ここに来た時から少し違和感は感じていた――。


 リーンアイムたち竜族は悠久の時を生きる原初の生命体。そして今や、生身の体を持っているものはリーンアイムただ一人である。


 竜族は魔法の扱いにも長けた種族であるが、その術式の発動過程は現在の人類が行っている方法とは異なった方法である。

 竜族の場合、術式展開や詠唱句などは必要なく、ただ当たり前のように火球を生成して吐き出したり、羽ばたきで突風を起こしたりというように、ごく自然な動作から魔法が発動される。

 

 そしてその根源となるものが、『竜芯りゅうしん』と呼ばれる物体だと言われているのだ。


 竜族は死した後、この『竜芯』を現世に落としてゆく。肉体を火葬しても、この『竜芯』だけが遺留物として残るのだ。


 その物体が何で出来ているのかは、竜族の長い歴史の中でもついに明らかにはされることはなかった。

 

 ただ一粒の赤い宝石のようなもの――。


 それが『竜芯』の形態である。そう、魔物が死した後霧散する際にごく稀に落とす「赤嶺石」のようなものだ。おそらく、人類たちはこの二つの石の違いなど読み取れるはずもないだろう。


 それほどに酷似している――。外見的には完全に同一物として扱われるほどに。


 その『竜芯』を()()()()()持っているのだ。


 リーンアイムの予測だが、洞穴内に出現した【クリスタル・ゴーレム】のコアも、実は「赤嶺石」ではなく、『竜芯』である可能性が非常に高くなった。

 だが、【クリスタル・ゴーレム】を討伐する際に、その核を粉々に破壊しているため、今となっては確かめようがない。

 今一度洞穴に戻り、【クリスタル・ゴーレム】を、核を破壊せずに倒すことができれば、あるいは判明するのだろうが、あの【クリスタル・ゴーレム】を、核を破壊せず倒すとなると、容易ではないし、そこまでして確かめる必要性も今はない。


(魔法感知に反応しにくい、という性質から少し気がかりではあったのだが、まさか本当にそうだったとは。場合によってはこのことをキールに話さねばならなくなるやもしれん――)


 これらの魔物と竜族は()()かもしれない――。


 そういう仮説が、今、リーンアイムの頭の中に芽生えている。



 そうしたことを考えていると、大蛇の頭が灰となって霧散し始める。どうやら時間のようだ。おそらく、『竜芯』はこの場に残ることだろう。


 数十秒が経過し、大蛇の体――尾と頭――が完全に霧散したとき、『竜芯』だけが一粒、リーンアイムの眼前の岸辺に残った。


 リーンアイムはそれを拾い上げると、治療が終わって移動し始める仲間たちの方へと歩みを進め合流する。


「娘よ。これを――」

「あ、はい、「()()()」ですね。預かっておきます」

「ああ、頼む――」


 そんな短いやり取りのあと、リーンアイムは『()()』をそのままアステリッドに手渡した。



 その後、野営地に戻ったころにはすでに日が落ち始めていた。

 アステリッドは、ケガから回復したレックスにまだ横になっているように指示をし、自身も、魔力回復に努めている傍ら、ランカスターがてきぱきと夕食の準備をしてくれる。

 アステリッドは、そんなランカスターの様子を見て、感心していた。


 こういうところを見ると、やはりこの男も頼りになる経験豊富な冒険者なのだと改めて思い至る。


 幸い、大蛇出現の前にいくらか魚が捕獲できていたので、それをさばいて焼いてくれているのがランカスターだ。

 魚を上手に手際よく捌くランカスターの様子をちらちらと横目で見ていたのだが、あの性格のわりに器用で丁寧な仕草に正直驚いた。


 実際に、焼いた魚を頬張ると、これがなかなかにいける。水の綺麗な場所に住んでいるこの魚は、わりに脂がのっていて、甘みを感じる。それにこの塩加減が絶妙だ。魚の脂の甘みをさらに引き立ててくれている。


 アステリッドは、


「おいしい――」


 と、おもわずこぼしてしまった。


「そうか、それはよかった。洞穴の中に、岩塩が在ったんで、来る時に少し削ってきた。それが役に立ったな――」


 と、ランカスターがアステリッドの声に反応して応える。


 ああ、この塩はそれだったのか、とアステリッドも合点する。


(この魚――「シャケ」? いや、淡水魚だから、「マス」か――)


 それも、あの()()()()()()()の傍で(藤崎あすかが)食べた固有種「ビワマス」に近い――。


 「マス」は淡水魚で、本来白身魚に分類されるが、食する餌によって、身の色が赤味がかり、オレンジやピンクに身の色が染まると聞いたことがある。


「そうなんですね。ありがとう、ランカスターさん、とても美味しいです」


 アステリッドは素直にそう礼を言った。正直、今日一日はとても疲れた。最後にはあんなこともあって、冷や冷やしたが、とにかく今日もみんな無事に夜を迎えられた。

 おそらく冒険者たちにとって、この「晩餐」とは、そういう特別なものなのだろうと、アステリッドも思い始めている。


 そして、今まさに、一日の終わりに美味しいものが食べられるという幸福感に、アステリッドは優しく包まれているのだった。

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