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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第581話 魔物あらわる


 リーンアイムとキールはそのまま湖の北側を周って西へと進み、結局そのまま南岸の野営地のそばまで戻ってきた。

 上空から見る限り、魔物の姿はなく、また、特に目に付くものもなかった。


「やっぱり、岩壁のすその森か――」

「うむ。それにしても、あの【ゴーレム】もそうだったが、魔法感知に反応しにくいようだのう?」


 そうだ。洞穴の中で何度か遭遇した【クリスタル・ゴーレム】だが、いずれもかなり接近するまで気が付かなかった。その原因は、魔法感知に掛かりにくいという性質からだ。


 この島の魔物たちは総じて、魔法感知に掛かりにくい。おそらくのところ、全くいないわけではないはずだが、これまで、洞穴のような行き場のない場所以外では遭遇していないのも事実だ。


 しかし、この島に何かしらの『試練』があることは間違いない――。


(もしかして、その『試練』があの【ゴーレム】なのか――?)


 という考えが一瞬よぎったが、それではないという確信めいたものがキールにはあった。


 理由は不明だが、まだ何かあるはずだと、頭の中のなにものかが告げている。


「取り敢えず、戻ろう。明日は森の中の探索だ――」


という、キールの言葉に短く返事を返したリーンアイムが「野営地」の上空に差し掛かった時、突如としてその浜辺の砂が舞い上がるのが見えた。ついで、


「レックス――!? くそう! レックスを放せ――!」


 という叫び声。ランカスターの声だ。


「ランカスターさん! 下がってください――!」


 続けて女の子の声がする。アステリッドだ。



「リーンアイム! 何が起きている!?」

キールが叫ぶ。

「ここからではわからん! 急ぐぞ! 振りほどかれないように掴まってろ!」

と、リーンアイムが受けると、急速に速度を上げ、一直線にその浜辺の位置へ急行する。


 その瞬間、地上に、閃光が数発巻き起こった。そして低い衝撃音――。


「アステリッドの火炎弾ファイアボールだ! やっぱり、何かに襲われている! 急いでくれ!」


 急降下した二人の目に飛び込んできたのは、浜辺でのたうち回る巨大な蛇だ。とは言え、頭部の方しか水面から出ておらず、長く伸びた尾は水中に在るようで、実際のところの長さは把握できない。


 そしてその口に何かを咥えているらしいのが見えた。


「レックス!? レックスが捕まっている!」


 その大蛇の口にはレックスが下半身を咥えられており、かろうじて盾を上下の顎の間に挟み込んで飲み込まれるのを防いでいるといった感じだ。


 しかし、その隙間はかなり少なく、下半身の自由が利かないのか、抜け出せないでいる。


「リーンアイム! まずはやつを浜に引っ張り出して! このまま水中へ逃げられたら、レックスが危ない! 僕は、地上に降りて、アステリッドたちに加勢する――」


 言うなり、キールはリーンアイムの背から身を投げだす。投げ出しながら、大蛇の脳天あたりに位置を取ると、


氷槍アイススピア!!」


 と、術式を発動する。


 【ゴーレム】のコアを撃ち抜いたときのイメージで、大蛇の脳天を真上から貫こうと試みたのだ。


 が、大蛇は体をくねらせ、見事にその氷の槍を躱すことに成功した。


(やっぱり、当たらなかったか――)


 が、こちらに気を引くことは出来た。これで、リーンアイムの急襲には気づくまい――。


 地上ではアステリッドが火炎弾を連打している。胴体に命中してダメージが無いわけではなさそうだが、鱗が固く、なかなかに耐久度が高いようだ。


 そこにリーンアイムの爪が大蛇を襲う。

 リーンアイムは大蛇を両後ろ脚の鉤爪で掴むと、そのまま湖面から引っ張り出す。


 大蛇は堪らず体をくねらせるが、動くごとに鉤爪が食い込んでゆき、しまいにはだらりと垂れ下がる形になった。


 落下していくキールは、地上に衝突する寸前に「物体移動」を発動し、無理矢理に体が進む方向を変え着地すると、やや頭上に垂れ下がっている大蛇に向けて腰の短杖『真夜中の静寂ミッテルナハツ・シュティレ』を引き抜き構える。


 大気の精霊シルフィードよ、我の召還に応じその力を示せ――。


暴風の精霊刃シルフィード・カッター』――!


 術式発動直後、短杖の先端に風の渦が巻き起こり、それが大蛇目がけて発射される。その暴風は宙づりになった大蛇の「首(?)」あたりに巻き付くや否や、パアンと軽い音を立てて衝撃波を発生させた。


 すると、大蛇の首が完全に切り落とされ、地上に落下を始める。


 レックスもこの機を逃さず、やや緩んだ大蛇の口から抜け出し、地上に落化し始める。自力で脱出できはしたが、やはりダメージはそこそこあるようで、受け身を取れるか怪しい。


「レーックス!!」


 叫ぶなり、ランカスターがレックスの落下位置に回り込むと、両腕を拡げてダイブする。間一髪で、両腕に抱きかかえたランカスターは、そのまま砂浜を二人でもつれ合うように転がった。


「かあ、間に合ったぜ、相棒――」


 意識がやや薄くなっているレックスに向かってランカスターが声を掛けると、レックスもこれに応じて、片目を閉じて見せた。直後――。

 

「レックスさぁん!」


 と、声を張り上げ、アステリッドが駆けつけると、横たわるレックスに近づきひざまずき、『治癒ヒール』の術式を発動し、腰のあたりから血を流しているレックスの治療を始めた――。


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