第579話 強敵クリスタル・ゴーレム
キールは連続で体術『縮地』を発動しつつ、【クリスタル・ゴーレム】の背後を狙う。
ただ、肩口にある「赤嶺石」は、3メートル近くの高さだ。
そこに何かしら一撃を加えるには、その位置以上に跳躍しなければならない。
キールは魔術師であり、修道僧の体術を用いる。武器と呼べるものは持っていない。
短杖は腰に刺さっているが、おおよそ「武器」と呼べるまでの強度はないのだ。
つまり、拳を当てるか、魔法を当てるかの二択になる。
(どっちが正解だ――)
キールは考えを巡らす。
今まさに【クリスタル・ゴーレム】と対峙している二人、レックスとランカスターは今や防戦一方だ。それは、彼らの攻撃が、有効打にならないからに他ならない。
レックスは「バッシュが効かない」と言ったし、ランカスターは「硬い」と言った。
つまり、「物理的な」攻撃に対する耐性は相当高いと見ていい。
では、魔法はどうか?
キールが最初に放った「火炎破裂弾」は、破裂した破片が命中し、「悲鳴」を上げていた――。
実際命中したのは見えなかった為、憶測の範囲は出ないが、接敵してから今までにあのような咆哮は聞いていない。
(魔法だ――。でも、それを確かめるために一撃でも放って有効打になれば、せっかく二人が取ってくれているタゲがこちらに向く可能性が高い。そうなった場合、その後に僕が背中を取ることは困難になる――)
一か八か、一発で決めるしかない――。
キールは意を決して、位置取りを決める。そして、体術『飛跳』を使うタイミングを計る――。
(今だ――)
タイミングを見計らったキールが空中高く舞い上がる。
通常、人が跳躍できる高さは1~1.5メートルほどだろう。この『飛跳』を使用すれば、3~4メートルほどまで跳び上がれる。
キールは跳躍するとゴーレムの頭の上あたりまで到達し、眼下にゴーレムの背中が丸見えになる位置になった。しかし、滞空時間が長いわけではない、すぐに下降を開始し始める――。
(赤嶺石が丸見えだ――。でも、時間がない――)
キールは、両腕を斜め下方に延ばし、魔力を集中する――。
「氷槍!!」
一点集中だ――。もし魔法が効かなければその時はその時――。だが、この魔法の一撃だけはワンチャンスしかない。
キールは鋭くとがった氷の槍をイメージし、その先端がピンポイントで赤嶺石を貫くイメージを強く念じる。
両手の平の少し前から、ずばぁっと空気を裂くように「氷の槍」が形成されてゆく。そしてその先端が一気に伸び、速度をあげた――。
「いっけぇ――!!」
ありったけの念を込め、先端の強度に集中する、外殻を貫けなければ、いくら見えていても、届かないからだ。
果たして、先端が肩口の赤嶺石の位置に接する。と、その瞬間、その氷の槍の先端が、ゴーレムの肩へとするりと浸透し――。
ギャアアアアン――!!
という凄まじい「悲鳴」を上げるや否や、ゴーレムの赤嶺石を槍の先端が貫いた。
バアン――!
と、弾けるようにゴーレムの巨大な体躯がバラバラに飛散し、キラキラとアステリッドの懐中電灯の光を乱反射して崩れ落ちた――。
「おお!?」
「やるなぁ!」
「うむ――」
「凄いです、キールさん!」
ランカスター、レックス、リーンアイム、アステリッドの4人がほぼ同時に叫んだ。
が、当のキールは、術式に集中しすぎたあまり――。
「わ、わわぁっ!? ――ってえぇ」
と、空中で態勢を崩すと、受け身を取れずに地面に尻もちをついてしまう。
4人に思いっきり笑われてしまったのは言うまでもない。
その後、同じ【クリスタル・ゴーレム】と数回にわたり遭遇したが、単体でしか現れなかった為、一度目の経験を生かしながら戦闘してゆく。
何度かやっていくうちに、わかったことだが、この【ゴーレム】の核自体に対する攻撃は、魔法でも物理でもどちらでも構わなかったようだ。
ただ、外殻が硬いため、核にまでダメージを到達させるには、相当大きな衝撃か、一点集中の貫通系攻撃でないといけない。
代わりに魔法に対する耐性はそれほど高くなく、外殻にもそれなりのダメージを与えられることも判明した。しかし、こちらはこちらで、【ゴーレム】自身の体力が大きく、外殻への攻撃のみで削り切るには相当の時間が掛かるだろう。
最後の一体は、少し傷つけた外殻の隙間を寸分違わず貫いたリーンアイムの刀剣の刺突攻撃で倒すことに成功した。
そして――。
「あ、明かりです! キールさん、出口ですよ!」
アステリッドが相変わらず右へと彎曲している洞穴の先に少し挿し込む光を発見し、叫んだ。
どうやら、ようやく洞穴を抜けられたようだ。




