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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第577話 接敵


 洞穴の入り口はそこそこの広さがある。

 高さは5メートル、幅も3メートルほどあり、何の問題もなく入ることができた。

 入ってからしばらくの間は、朝日が差し込んでくることもあって充分に明るかったが、それも日の光が届くまでの間で、そこから先は完全に真っ暗闇だ。


 アステリッドがかざす懐中電灯の光だが、名前は「懐中」と付いているのに、まるで「スポットライト」並の明るさがあり、エリザベス教授の研究班の技術力の高さに、正直キールは脱帽した。

 キール自身、これほどの性能だとは思ってもいなかったからである。


「アステリッド、懐中電灯は何本あったっけ?」

「3本ですね――。どうします?」


 どうします、というのは、使いますかという意味だろうと察したキールは、


「重くないかい?」


と、質問する。


 肩のあたりのホルダーに懐中電灯を装着したアステリッドの、大丈夫ですよ、という返答を聞いて、ならばと、もう少し温存することを決めた。

 この洞穴を抜けるのにどれほど時間を消費するかわからないし、魔物によって破壊されたり、奪われたりしたら、面倒だからだ。


 基本的に後方支援職であるアステリッドであれば、後ろから光を当ててくれる。

 戦闘になった場合でも、その方が何かと都合がいい。


「一つで充分過ぎるほどに明るいしね」


と、言って、皆にそのことを周知した。


 つまりは、光源の届かない程離れないで行こうという意味も含んでいることは、パーティメンバーの誰もが認識したということだ。



 洞穴に入ってから10分ほど過ぎたか――。

 いまだに魔物は現れない。


 キールもたびたび魔法感知を発動して、魔力の根源の有無を確認するが、未だにネズミなどの小動物すら感知できなかった。


「やけに静かだな……」


 沈黙に耐えられず、ランカスターが言葉を発する。


「確かに、静かすぎる――。でも、ここは全く未知の世界だ。どんな魔物が潜んでいるかわからないからね。気を引き締めていくよ?」


 と、キールがメンバーに通達する。



 洞穴内部は予想の通りの勾配になっていて、徐々に登っているのがわかるが、それほどの急勾配でもない為、今のところはたいしてきつくもない。


 ただ、相変わらずの暗さと、やや右向きに弯曲している道の所為で、見通しはあまり良くない上に、すでに方角を失っている。


 救いなのは、分かれ道がなく、一本道であることと、洞穴内部のスペースの広さだ。

 これだけのスペースがあれば、道を塞がれる心配もない。

 仮に、挟み打ちにあったとしても、取り囲まれることなく突破できるだけの広さはある。



「――キール、何かいる」


 不意にリーンアイムが片刃刀剣ブレードソードの柄に手をかけ停止した。


 その一歩前ほどを歩いていたレックスとランカスターもその声に反応して即座に停止し、盾と剣を構える。


 アステリッドが照らし出す視界には、まだ何も映り込んでこない――。


 洞穴の先は右へと弯曲し、その先は闇になって見えないままだ。


「リーンアイム、何がいるんだ?」


 リーンアイムの後ろ、アステリッドと横並びで進んでいたキールが、目の前の竜人に声を掛けるが、リーンアイムは、わからんとだけ答える。


(仕方がない――。これ以上発見が遅れれば、距離が詰まってしまう)


 そう判断したキールは術式発動の準備をする。


「射線を開けて――! 火炎破裂弾バースト・ファイア・ボール――!」 


 キールが放った火炎弾が3人の間を抜けてまっすぐ前方へと飛んでゆくと、右に弯曲している洞穴の壁にぶつかる。


 ここからが、この術式の真骨頂だ。


 キールは『火炎弾ファイア・ボール』の術式に『引き金(トリガー)』を付与している。『引き金(トリガー)』の発動条件は物体に接すること、だ。その効果は、破裂すること――。


 果たして、『火炎弾ファイア・ボール』が壁にあたると、その壁でぱぁっと細かく砕け散った――。



 ギャアアアン――!!


 という聞いたことのない咆哮が洞穴内に響き渡る。おそらく破裂した破片の一部が命中したのだろう。



「やっぱりそこに居る――! 急いで距離を詰めよう! レックス! ランカ! 先行して! リーンアイムとアステリッドは後方警戒、僕が前に出る――」


「了解――」「わかった!」

という二人の声と同時に、キールもすかさずリーンアイムを追い越して前に出た。


閃光弾フラッシュ・ライト・バレット――!」 

続けて無詠唱で術式を発動、初速こそ速い速度で打ち出された光の玉は、先行する二人の背中を追いかけるように少し速度を落として飛んで行く。


 その光の玉が洞穴内を明るく照らしながら進んでゆくことで、二人の視界が確保されるという寸法だ。


「――いた! ランカ! 行くぞ!」

「ああ、いつも通りだ、相棒!」


 前の二人が声を掛け合った直後、ガアンッと金属音が響いた。

 レックスの『シールドバッシュ』が炸裂した音だろう。続いて、キィンという切り裂き音、これはランカの斬撃だ。


 直後、キールはようやく二人に追いつくと、対峙している魔物の全容を初めて目にした。



「――で、でかい――。しかも、()()、斬れるの?」

「かてえな――」

「バッシュがかねえ――」


 キール、ランカスター、レックスがほぼ同時に呟いた。

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