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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第576話 アステリッドのポーチから何やら道具が


 クルシュ暦372年3月21日朝、ユニセノウ大瀑布上陸班拠点――。


「じゃあ、行こうか――」


 キールは皆に声を掛ける。



 朝一番に、リーンアイムが起きて来てからすぐ、キールはリーンアイムと共に空に舞った。

 上空から見る初めてのこの島の全景をしっかりと頭に叩き込む。


 島の形状はそれほど複雑でない円形だった。ほとんど歪みのない円だと思ってよさそうだ。

 その中央に台地が切り立っている。そして、ユニセノウ大瀑布の水源であるだろう湖が、その台地のほぼ中央に水を湛えていた。

 そこから東に向けて幅が広く距離の短い「川」が流れ、すぐに台地の端に辿り着くと、そこから拠点の位置の真ん前に落ちていることが判った。それこそがユニセノウ大瀑布だ。


 ボウンさんの話を信じるとすれば、この台地部分にリーンアイムに乗って近づくのは賢明とは言えない。結界の有無はこの位置から判断することはできないが、わざわざボウンさんが言うのだから、信じておくことにする。


 湖の周りにはまばらな森がある程度で、他に目につくものは無かった。

 もしかしたら巨大な動物や魔物が徘徊しているとかかもしれないと思っていたのだが、そのようなものも発見できなかった。


 かなりの上空からなので、そこそこの大きさがなければ発見は難しい為、小動物や小型の魔物が存在している可能性は否めないが、それでも大型の魔物がいないというのは、多少は安心感が増す情報だ。


(まるで、目玉焼きだな――、いや、プリンか――)


 中央の湖はかなりの広さで、ほぼほぼ台地の上面を覆っているため、「プリン」に乗っている「カラメルソース」のようにも見えなくもない。


 キールは懐かしい料理を思い出し(もちろん前世世界の料理だが)、舌なめずりをする。

 今度、挑戦してみようかな、プリン――、などと思いながら、リーンアイムに戻るよう指示した。



 そうして上陸班拠点に舞い戻ったキールとリーンアイムも、先に食べ始めていた隊員に混じって朝食を採り、荷物を準備して、集合したところだ。

 


「取り敢えず、このまま真っすぐ大瀑布の滝壺へ向かう。今のところ魔物の気配はないけど、なにぶん初めての場所だ。気を引き締めて周囲を警戒しながら進もう」


 そう声を掛けると、キールは先頭に立って歩き始める。


 探索班のメンバーは、キール・パーティの5人のみだ。あとの上陸班は、拠点の防衛にあたる。

 レオローラ号の乗員のほとんどはエルルート族だ。彼らには、いざとなれば自分の命を守る行動をとるよう申し付けておくが、まあ、おそらくのところ問題ないだろう。多少の魔物であれば、彼らの魔法と『守護精霊』の力でなんとかできるはずだ。



 拠点から離れ、アステリッドが水浴びをしたであろう水場へ辿り着くと、そこから上流へ向かって川を辿ってゆく。もちろん、道などないため、出来る限り川から離れないようにしながら歩ける場所を探しつつ進んだ。


 とは言え、小さい茂みがところどころに散見される程度の高木の森なので、草木をかき分けて進むというほどのこともなかった。右手を見れば、常に川があるといった状況のまま、数分後、ついに滝壺へと至る。


「わぁ――、すごぉい――!」


 アステリッドは感極まって、思わず大きな声を上げる。


 滝の幅は何メートルあるかもうわからない。なにせ、端が見えないのだ。おそらくのところ、数百メートル、もしくは数キロもあるかもしれない。


 滝壺に堕ちる水の量もかなりの量で、そこから響いてくる音で声がかき消されるほどだ。


「あれのようだ――!」


 キールも声を張り上げ、滝壺の端を指さした。


 滝の端、つまり、最南端の位置の脇の岸壁に、黒い口を開けた洞穴の入り口が見える。

 おそらくのところ、あれが台地の上まで続いている「道」なのだろう。


 台地のどのあたりに出るのかは全くわからない。

 リーンアイムと空から見た時にはそれらしきものは発見できなかった。


 だが、「その洞穴の入り口」が「台地の上に続く道の始発点」であるというのは、「分かる」。理由を問われれば、『神候補』だからとしか答えようがないのだが、キールには確信があった。


「いこう!」


 と、キールは皆に先を促す。この景観をいましばらく眺めていたいところだが、時間は有限だ。食料が途中で補充できるかどうかもわからない場所で、無駄に時間をとるわけにはいかない。


 キールはまだ名残惜し気にしている様子のメンバーたちに構わず、歩み始める。


 そこから数分で、洞穴の入り口へと辿り着く。

 

「やっぱり光源はないか――。仕方ない。アステリッド、()()を――」

「はい! ようやく、初仕事ですね!」


 そう言ってアステリッドは自分の携帯ポーチから何かを取り出す。


 それは、金属で出来た筒上のものだった。


「皆さん、驚きますよ?」

 

 そう言ってアステリッドが筒の手元の端についていた小さい突起を指で摘まむと、ぐるぐると回し始める。


 すると、筒の先端に光源が灯った。アステリッドは「摘まみ」から指を放すが、光は灯ったままだ。


「なんと!? これは、奇怪な!」

と、リーンアイム。

「え、それって魔法じゃないのか?」

と、ランカスター。

「おもしろいものだなぁ、小さい街灯か?」

とはレックスだ。


「へへへ、これは懐中電灯です! 魔法を使って光源を生み出すこともできますが、魔力消費しちゃいますので、これでいけるところまで行ってみようと思います」


 そう言って誇らしげに、アステリッドは頭の上に懐中電灯を掲げた。


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