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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第575話 高いところから低いところへ


 帯電していたというコイルを調べてみると、その二つのコイルは別々の工場で作成されていたことが判った。


 ちなみにだが、このコイルというのは、今回の水力発電所に合わせて新規作成したもので、これまでの自発式発電機のコイルとは大きさが全く違う。

 自発式発電機のコイルは手のひら大ぐらいのものだが、この水力発電所用のものは、縦が約50センチ、幅が20センチほどの筒状のものだ。


 帯電していた状況というのは、この二本を運ぶときに並べて立てていたのだという。


(もしかしたら、この二本のコイルの間で電力が発生したのかも――)


 エリザベスは、この電力発生のメカニズムについて、ある一つの仮説を立てている。


 この大気中には目に見えない細かな粒子が飛散しているというのは、クリストファーの作り出した音声通信装置の仕組みにより明らかだ。

 クリストファーの音声通信装置は大気中を電波という電力の波が伝わり、その波をキャッチして電気信号にかえるという技術だ。

 何も媒介の無いところを何かが流れるというのはあり得ない。この事実は、魔法の原理からも、すでに古くから知られている常識である。


 魔法には魔素が媒介となるとされている。大気中に目に見えない魔素という物質が飛散しており、それを媒介として様々な現象を起こすのが魔法という技術だ。


 同様に、風が吹いたり、水が流れたり、人が歩いたり――。なにかが「動く」時には必ず「道」が存在するわけだ。


 つまり、電力が集まったということは、そこに何らかの「道」が出来たということだ。


(二つのコイルの間に「道」があったということになる――)


 動力を持たない自然物が「動く」には「流れ」が必要だ。たとえ「道」が在ったとしても、自力で動くことができない自然物は勝手には動かない。そこには「流れ」がある。


 すべて万物は、上から下へと動く。

 これも、この世界における原理原則だ。ただ、その「上」「下」というのが、ただの位置関係ではないことがここ最近の電力技術によって明らかになっている。なぜなら、例えば大気中に飛散している様々な物質が地上に降り積もることなく、いつまでも大気中に漂っていることからも明らかだ。


 では、その「上下」とはなにか?


 これが「圧」というものだと、エリザベスは仮説を立てている。


 「上」から「下」ではなく、「高い」ところから「低い」ところへ――。


 この動きが「流れ」だ。


 水が、「高い」ところから「低い」ところへ向かって流れるように、大気も「高い」ところから「低い」ところへ流れている。これが風だ。


 そしてその「高低」が何の高低か?

 それが「圧」だ。


 この世界の自然物は、「圧」の高いところから低いところへ流れる――。


 電気も同じだと考えれば、電気は「電圧」の高いところから低いところへ向かって流れるのだろう。



 話をコイルに戻す。

 つまり、二つのコイルの間で、電気のやり取りが在った。だから、コイルが帯電したのだとする。

 その場合、二つのコイルの間に「道」が出来たことになる。「道」は「圧」の差があるときに生まれるとすれば、二つのコイルには何かしら違うところがあるはずだ。


「教授、わかったぜ――。この二つのコイル、大きさは同じだったが、導線のながさが違った――」

と、カーンさんが報告してくる。


「導線の長さが違う――?」


 エリザベスはしばし考えを巡らせた。


 導線の長さが違う二つのコイル――。これを並べておくと、電気の流れが生じた――。電力の強さは電圧の強さに比例するから――。


「――いけるかもしれない」


 エリザベスはそう呟いた。


「カーンさん、取り敢えずやるべきことが判ったわ。電圧を下げて、電力の力をコントロールすることができれば――」

「電圧を下げて? いったいどうやって?」


「それをこれから、実験するのよ――。そして、変圧器を作るわ」

「へんあつき?」


「ええ、圧力をコントロールすることができれば、どんな電気機器にも使えるようになる。それこそ小さな電球から、大きな通信機まで様々なものに対応できるはずよ」

「なるほどなあ。わからなくはないが、出来るのかい?」


「さあね――。でも、出来なければ、水力発電所は完成しない。だから、やるのよ――」


「さっきから、なに難しい話してるのさ? ボクにはさっぱりわからないよ?」

ハルがぷうと頬を膨らませる。


「大丈夫、ちゃんと説明してあげるから。ハルちゃんにもいろいろと知ってもらいたいことがいっぱいあるし、ハルちゃんがいっぱいお勉強したら、ハルちゃんの知ってることが、私たちの役に立つようになるかもだからね?」


「うん! ボクも一杯勉強して、教授やカーンさんたちにボクの知ってることを教えてあげるからね」


 そう言ってハルがぱぁっと笑顔の花を咲かせた。


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