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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第569話 狼たちの結末


 ローズは短剣をぎゅっと抱いて、職員さんの話を聞いた。


 『囁く狼ウィスパリング・ウルブズ』の最後の冒険は、ケウレアラの巨大迷宮だったという。

 現在ではすでに攻略し尽くされ、迷宮ダンジョンとしての力は随分と衰えているらしい。


 この迷宮ダンジョンというのはおかしなもので、ある程度の期間は、新しく発見された時の状態を維持し続けるのだが、攻略回数が加算されていくほどに、徐々に出現する魔物もトレジャー品もランクが下がっていくのだという。

 だが、ある一定のところまでランクが下がった後は、やはりまたその状態を維持し続けて安定するらしい。


 おばあさんたち『囁く狼ウィスパリング・ウルブズ』がこの迷宮ダンジョンに挑んだのは、新しく発見されたばかりの頃だったという。


 当然、冒険者ギルドの方でも内偵を進め、迷宮探索依頼のランクは「金級ゴールド」ということになった。


 この依頼ランクというのは、そのランクのパーティメンバーを1人以上含むという意味だ。

 依頼を受ける冒険者のパーティ編成には制限がある。一番高いランクの冒険者から一つ下のランクまでが「正規パーティ」に参加可能なのだという。


 つまり、この迷宮探索依頼を受けるためには、金級冒険者ゴールドクラスが一人以上と最低でも銀級冒険者シルバークラスまでのパーティだということになる。


 そして、『囁く狼ウィスパリング・ウルブズ』のメンバーは、ジズレフィン・マーシャルが金級、ケンラッド・マーシャルとレン・サファイアが銀級だった。


 こう聞くと、さすがに少し見劣りがするように聞こえるかもしれないが、現在のキールパーティの構成と比べれば、このパーティがどれほどレベルの高い冒険者パーティだったかがわかるだろう。

 キールのパーティメンバーは、鉄級冒険者アイアンクラスが2人と青銅級冒険者ブロンズクラスが1人、アステリッドはまだ銅級冒険者カッパークラスだ。

 つまり、現在のところ、キールのパーティは「非正規パーティ」ということになる。「非正規」というのは、ランクが二つ以上離れたメンバーが混在するパーティのことで、受注できる依頼ランクは、メンバーの中で最下級のものと同等のものという制限が掛かる。


 金級と銀級のパーティということであれば、相当の実力者だったと見て間違いない。



 その『囁く狼ウィスパリング・ウルブズ』が壊滅したのは、巨大迷宮ダンジョンの第4階層だったという。一人戻ったジズレフィンの話によると、そこで遭遇したのは【ヒュドラ】だった。


 頭が複数ある巨大な蛇と言い表せばいいだろうか。


 『囁く狼ウィスパリング・ウルブズ』は連携をとって戦ったが、相手はかなりの強敵で、レンを庇ったケンラッドがまずは致命傷を負う。ジズレフィンが撤退を指示したが、レンはケンラッドと共に逝くとそう告げたらしい。そうして、レンがジズレフィンと自分の間に障壁魔法を展開。ジズレフィンは、一人締め出されてしまったのだという。

 結局【ヒュドラ】は二人を殺害した後、レンの放った障壁を破れないまま迷宮奥へと引き返していった。


 これが『囁く狼ウィスパリング・ウルブズ』壊滅の記録のすべてだ。



「その後、この【ヒュドラ】は高ランクパーティによって討伐されました。それ以降、その迷宮ダンジョンにこの【ヒュドラ】と同程度の魔物が現れることは無くなりました」


「討伐された――」


「はい。討伐したのは「黄金の天頂ゴールド・エイペックス」というパーティです。現メストリル王国国王リヒャエル・バーンズのパーティです」


「メストリルの国王――」


「ああ、それから、その討伐時に、二人の冒険者証も回収されました。その冒険者証はジズレフィンのもとに戻ったと記録されています」



 それがローズが聞いた話の全てだった。

 ローズはギルドの職員に礼を言って、ギルドをあとにする。

 胸には革の鞘に入った短剣を握りしめたままだ。


(メストリル――、リヒャエル・バーンズ――)


 これは、運命だ――。


 ローズは今まさに確信した。


 クエルで目にした貼り紙、おばあさんから譲り受けた短剣、おばあさんの死、カインズベルク、メストリル、そして、リヒャエル・バーンズ王――。


 これまでの出来事が、まるでローズを「そこ」へと誘うように一本の糸で結ばれている、そんな気がしてならない。


(怖い――。でも、「そこ」がどこなのか、多分これはまだ「道の途中」なんだわ。だったら、確かめるしかないじゃない、ねぇローズ。あなたも冒険者たちの子なのよ?)


 父が、母が、そしておばあさんが見た景色を自分も見てみたい。幼い私を置いて行ったことに腹が立たないわけではない。私は父母のことをほとんど知らないのだ。

 私が物心ついた時にはすでにおばあさんと二人だった。

 あの、クエルの郊外の家で、穏やかに農作業をしながら暮らしていたおばあさんはどんな想いでこの短剣を私に託したのだろう。


 三たび、おばあさんの言葉が思い起こされた。


――あなたも自由に世界に羽ばたいていいのよ。


 たぶん、この道の行く先に自分の行くべき「世界」があるのではないか?


 それが幻想だとしても、今はその熱を大切に胸に留めておきたいと、そう思うローズだった。


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