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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第568話 『囁く狼(ウィスパリング・ウルブズ)』


 クルシュ暦372年3月19日――。

 ヘラルドカッツ王国カインズベルク、冒険者ギルド本部――。


 ローズはようやくカインズベルクに到着していた。


「なるほど――。確かにこの短剣のレアリティは相当高いですね。少々お待ちください、すぐにお調べいたします」


 ギルド本部の受付カウンターで、ローズの応対をしてくれた職員さんがそう言った。

 

 クエルの街のギルド支部からすでに連絡が入っていたようで、ローズが受付に申し出ると、すぐに応対してくれ、今に至る。


 この間、ギルド支部でおばあさんのことを調べてほしいと願い出た時、すぐに結果がわかったのは、「魔法」によるものだとエルさんが教えてくれた。


 ギルドの記録帳には魔力が込められたインクで記載されていて、調べる時にすぐに該当の記載個所がわかるようになっているのだという。

 どういう理屈なのか、ローズにはわからないが、エルさんが適当なことを言うようには思えないから、そうなのだろう。


(魔法って、本当に便利なのね――)


と、そのように漠然と思うだけだ。


 このギルド本部の内観は、さすがにクエルの支部とは比べ物にならない程の大きさだ。冒険者らしき人たちの人数もとても多い。ただ、それら冒険者たちの表情は、クエル支部の人たちとたいして変わりはないように思える。皆一様に陽気で明るい。

 「冒険者」という職業がどんな職業なのか? 

 ローズの認識では、いわゆる「なんでも屋」という程度の認識だ。


 ここまでにくる道中は駅馬車を使ったのだが、その駅馬車の御者台にも御者以外に一人の冒険者が帯同していた。いわゆる、「護衛任務」というものだろう。


 結局彼の「出番」はなかったが、それでも、御者の隣にずっと座っている以外にも、休憩の折、周囲に気を配っていたのをローズは見ていた。


 これまで「冒険者」の素振りなど気にすることも無かったのだが、おばあさんの一件以来、どうも彼らの行動に気を止めるようになっている。もしかしたら、おばあさんもこんなふうに世界中を飛び回っていたのかもしれないと思うと、すこしおばあさんのイメージが変わって見えるような気がして懐かしさが込み上げてくる。



「――お待たせいたしました。ローズ・マーシャル様。こちらの短剣ですが、めいは『新緑の短剣』ということが判明いたしました」


 さっきの受付の男の人が戻ってきて、ローズにそう声を掛けた。


「新緑――?」


「はい。S級トレジャーに位置します。そうですね、例えば時価総額で言えばこのカインズベルクに一軒家が建てられるぐらい、と言えばいいでしょうか――」


「い、家が建てられるぐらい! ですか?」


 ローズは思わず飛び上がった。まさかそんなに高級なものだとは思いもしなかったからだ。


「――ですが、実は問題があります」

「え? 問題?」

「はい。この『新緑の短剣』には専用のさやが付いているはずなのです。ですが、ローズ様がお持ちになったこの短剣の鞘は、革製の鞘で、恐らくは別にあしらえたものだと思われます。鞘は別の場所にあるかもしれません。鞘がなければ、価値は半分ほどまで落ちることになります」

「そう、なのですね――」

「いかがなさいますか? 半分でもお引き取り致しますが、どうしましょう?」

「え? 引き取る――?」

「ええ。ギルド本部では、こういったトレジャー品の買い取りも行っております。不要なら――」

「あ、いえ! これはお売りするつもりはありません!」


 ローズは思わず大きな声を上げてしまった。これは、おばあさんの形見だ。ローズに託したのは売ってお金にするためではないとそう思えてならない。


「――そうですか。それならそれで構いません。それで、ジズレフィン・マーシャルについてですが……」


 受付の男の人がそう続ける。


「――記録が見つかりました。最終クラスは金級ゴールド。主にこのカインズベルクや南のケライヒシュール、メストリル、ウォルデラン、ケウレアラあたりで活躍されていたようです」


金級ゴールド――?」


「はい。冒険者ランクで言えば上から二つ目ということになりますね。かなり高名な冒険者です。ただ、ご活躍されていた年代が少し前ですので、彼女のことを知っている人は今となってはそんなに多くはないかもしれません」


「おばあさん、あ、ジズレフィンの仲間とかは居なかったんですか?」


「彼女はパーティリーダーでした。『囁く狼ウィスパリング・ウルブズ』というパーティのです。ですが、残念なことに、最後の冒険で壊滅しています。メンバーは3名。ジズレフィン・マーシャル、ケンラッド・マーシャル、レン・サファイアです」


 ガタッ――!


 ローズは思わず、よろけてしまった。そのせいで、椅子がガタリと音を立てたのだ。


「ケンラッド――、レン――、それは私の両親です……。壊滅? 壊滅ってどういうことですか!? ねえ!? なにがあったのよ! 教えてよ……」


 ローズは思わぬ名前に驚きのあまり我を失った。壊滅? つまり死んだってこと――? 感情が大きく揺すぶられ、目からは涙があふれ出してくる。


「ローズさま!? 大丈夫ですか? 少し場所を移しましょう。それから、少し落ち着いたら続きをお話しいたします――」


「ご、ごめんなさい――。すいません。ありがとうございます」


 ローズは職員に促されて、別室へと移動した。


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