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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第565話 冒険者の記録って調べられますか?


「ごめんなんさい! 私てっきり依頼だと思い込んで――。あ、私はこのギルドの受付をやっております、エル・メ・ジュンと申します。みなさん、エルと呼んでくださいます。それで、ローズさんは昔の冒険者の記録をお知りになりたいとか?」


 そう言って謝るエルさん。どうやら早とちりはこの人の性分らしい。これは、話し方に気を付けた方がいいなとローズは少し考える。


「はい。昔冒険者だったというある人の記録が閲覧できるかどうか教えていただけませんか?」


 まずは、「経緯」よりも「目的」からだ。

 こういう人と話すときは、一つずつ端的に話すと話が混乱しない。


「できますよ――」


と、エルさんは答えた。そして、


「――ですが、各支所で閲覧できる資料はその支所で何らかの実績を残したことのある冒険者だけです」


と、続ける。


 なるほど、この支所で何か仕事を請け負ったりしたという実績があればということかと、ローズは理解する。


「ジズレフィン・マーシャルという冒険者のことを知りたいんです」


 ローズはおばあさんの名前を告げる。


「ジズレフィン・マーシャル――ですね。その人について他に何かわかっている事はありますか? 記録を調べますので、こちらの用紙に記入してください」


 そう言ってエルさんは一枚の紙を差し出す。


 ローズはそれに、おばあさんのことで知っていることを書こうとするが、項目の中で書けることがあまりに少ないことに驚愕してしまった。


 「名前」「性別」はもちろん書ける。「年齢」は72だった。

 「階級」って、冒険者の階級ってことだろうが、聞いていない。「著名な実績」「攻略した迷宮」「収集した宝物品」「他に活動していた支部」など、どれも全くわからない――。


「わかっているのはこれだけです――。ごめんなさい……」


「あ、ああ、気にしなくていいですよ? えっと、じゃあ最後にここにあなたのお名前と現住所をお願いします」


 ローズは言われたままにその欄に自分の名前と今住んでいる雑貨屋の住所を記入する。


「――ローズ・マーシャルさん……。ああ、もしかしてお探しの方はお身内のかたですか?」

「はい。祖母です」


「えっと、その方はまだご存命ですか?」

「いえ――、今朝亡くなりました――」


「え? あ! ごめんなさい! そうでしたか、それはご愁傷さまです。えっと、それではですね、その方、おばあさんの遺品とかでなにかありませんでしたか? 例えば武器関連のものとか――」


 武器関連――? ローズはおばあさんが渡してくれた「短剣」を思い起こす。


「あ! あります! こ、これです!」


 そう言ってローズは慌てて自分の腰から短剣を鞘ごと抜くと、それを受付台の上に置いた。


「――へえ、これはなかなかのものですね。なるほど、わかりました。それでは、少しお待ちください。お調べいたしますので。あ、この短剣ですが、お預かりしても大丈夫ですか? もちろん、すぐにお返しいたします。よろしければこちらにご記入を」


 そう言って別の紙を差し出してくる。そこには、「物品預証」と書かれており、エル・メ・ジュンという署名もすでに書かれていた。


 ローズは言われるままにその紙に名前を記入し、さらに「短剣」と記入する。


「はい、ありがとうございます。ではしばらくお待ちください――」


 そう言ってエルさんは受付台から去ろうとする。ローズは慌てて、


「あ、あの! どれぐらい掛かりますか?」


と、尋ねる。


 こういう人・場所の「しばらく」はどの程度のものか全くわからない。本人はもちろんわかっているだろうし、ここをよく利用する人ならその手続きの内容でおおよその時間を推し量れるだろうが、ローズは()()()()初めてのことだ。


「あ、ああ! そうでしたね。私ったら、すいません。数分で結構です。ここでこのままお待ちください――」

「ここで、ですか?」

「はい、ここにお座りになっていてくだされば結構です。ほんの数分ですから――」


 そういうとエルさんは去って行ってしまった。


 まあ、数分というのだから、それ程はかからないのだろうが、そんなに簡単に調べられるものなのだろうか?


 ローズは周囲を見渡す。

 雑然とした雰囲気のこの建物内に冒険者らしき人が数人見受けられる。皆一様に笑顔で話しているのが印象的だ。


 冒険者というのがこの世界にいつから存在するのか、ローズは知らない。少なくとも「昔から」あるというのがローズの認識だ。

 冒険者には男も女もいるのは知っている。それに、魔術師もいるらしい。


 魔術師といえば国家魔術院の魔術師の話は聞いたことがある。彼らはいわゆる王国の捜査機関という認識だ。

 もちろん「魔法」のことは知っているし、聞いたこともあるが、実際に目にしたことはまだない。

 それほどに魔術師の存在は希少なのだ。冒険者の中でも魔術師を使う場合の依頼料はやや高いと言われている。


 見回した室内にどうやら魔術師らしき人は見当たらない。彼らの「判別条件トレードマーク」と言えば「杖」だろうと、ローズはそう認識している。

 しかし、杖を持っている、あるいは腰に差している人は見当たらなかった。


(おばあさんがこんな人たちのような仕事をしていたって、あんまり想像がつかないんだよね――)


 たしかにおばあさんは年のわりに若く見えたし、体もしなやかで締まっていた。おばあさんが亡くなった原因はよくわからない。が、そういうことはこの世界では普通のことだから、あまり気にしていない。

 この世界で人が生涯を終えるというのは、基本的には「神の御心」とでもいうものなのだから。


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