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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第564話 ローズと冒険者ギルド


 その日の午前中、近隣の人たちが寄ってきて、おばあさんのお葬式が行われた。

 おばあさんが言っていたように、みんなが滞りなく式を進めてくれたおかげで、ローズはただ、おばあさんとのお別れをいたむことができたのだった。


「お前も自由に世界に羽ばたいていいんだよ――」


 おばあさんが、昨晩そう言っていたのがふと思い起こされる。


 いろいろな感情がないまぜになって、ふわふわと捉えどころのない心持ちだが、いつまでもここにいるわけにはいかない。

 日が高いうちにこの家を出ないと、暗くなるまでに街に戻れなくなるからだ。


 おばあさんのお墓は、この集落の共同墓地に建てられた。生前のおばあさんがその件についてもすでに集落の人に告げていたらしい。


 ローズとおばあさんが十数年暮らしたこの家は、今はひっそりと静まり返っている。

 家については、ローズに決めさせてやってくれと言い残していたらしい。もし、処分するというのなら、それも近所の人たちがやってくれるとそう言っていた。

 皆一様に、ジズさんには世話になったからな、と言っていた。

 

 この家をどうするか、いずれにしても、今日は決められない。

 まずはベルルさんに話して、これからの事を落ち着いて考えようと、取り敢えず隣の家のカークさんたちに、一週間後の連休に戻りますとそう伝えて家を出た。



――本当にこの短剣が形見になっちゃった……。


 帰る道中、何度も腰に差している短剣を抜いては眺め、眺めては差しを繰り返した。


 ジズレフィン・マーシャル。それがおばあさんの名前だ。おばあさんは昔、冒険者だったとそう言っていた。それが本当だったということをこの短剣が示している。

 

 冒険者にはランクがあると聞いたことがある。

 つまり、記録があるということだ。


 その記録がどれほど前までさかのぼって調べられるものなのか、それは全くわからないが、もしかしたら、冒険者ギルドに行けば何かがわかるかもしれない。


――明日、仕事帰りにギルドへ行ってみよう。


 ローズはそう心に決め、帰路を急いだ。


 街道にはところどころに街道衛士が駐在している。その為、明るいうちは魔物の被害にあうものはほとんどいない。だが、暗くなればそれも保障されるものではない。


 ローズはやや速足で、帰りを急ぐ。


 ようやくのことで、クエルの街に辿り着く。日はまだ傾きかけた頃だ。とにかく日が沈む前には帰ってこれたことに胸を撫で下ろす。そして、雑貨屋へ向かって街中を歩いてゆく。


――あ、ギルド、まだ開いてる……。


 冒険者ギルドの前を丁度通りがかると、少し暗くなり始めた空と対照的に、ギルドの建物からは灯りが漏れ出していた。


(そうだ、調べてもらうにしても、時間が掛かるかもしれない。なら、早めに聞いておいた方がいいかも――)


 ローズはそう決断し、ギルドの扉へと向かった。壁には昨日ここを通りがかった時の張り紙がまだ貼られたままだ。


 ぎぃ……、と扉が開く音がやけに大きな気がして一瞬戸惑ったが、それよりも、少し開けたときに漏れ出してきたざわざわとした話し声の大きさの方に驚く。


「――だーかーらー! これがその証だって言ってるじゃないですかぁ!」

「これじゃだめだね。【リザード系】の討伐証はその尻尾の先端と決まってるんだよ。お前も冒険者なら、そのぐらい知ってるだろう?」

「その尻尾の先端が燃えカスになっちまったから、この爪を持ってきたんだよぉ~」

「ダメだ――」


 もちろんローズには何の話だかわからない。


 冒険者ギルドなんて初めて入る為、一体誰に話しかけていいかわからなくておろおろしていると、

「あら、お嬢さん。ようこそ冒険者ギルドへ。今日は冒険者登録? それとも依頼の発注?」

と、話しかけてくれた人がいた。


 年のころはローズより少し上の感じのおねえさんだ。


「――あ、あの、昔冒険者だった人のことを知りたくて……」


 そのお姉さんは、やや怪訝な顔をして、数瞬固まった。


「――え、えっと――。そのう、わ、わからなければいいんです!」


 ローズはそのお姉さんのその表情が、自分が言ってることがおかしくてそんな表情をしたのだと思って、慌てて引き返そうと振り返ろうとする。

 が、お姉さんはそれよりも速く電光石火のような両腕を繰り出し、


「――依頼、ですね!」


と言って、ローズの両肩をその両腕でガシリと掴んだ。


「え? あ、いえ、依頼というか――」

『問い合わせ』だと思うんだけど、と言葉を繋ぐより早く、そのお姉さんは、さらに、

「緊急依頼です!! 尋ね人案件です!!」

と、大声で叫んだ。


 その表情は、まるでおなかを空かせた子供の前に大盛りのシチューを出した時のような輝きようだ。

 だが、どうもローズの話を半分ほども聞いていないように見える。


――このおねえさん、大丈夫かな? それとも冒険者ってみんなこんななのかな?


 だったら、どうも自分が来るには場違いすぎる気がする。それがローズの正直な心境だった。


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