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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第559話 アシュレイ王子は兄弟子?


 翌朝――。

 クルシュ暦372年3月14日――。


 ミリアとべリングエル、それにジョドの3人は王城の食堂にいた。



 昨晩遅くに馬車で王都へ戻った「4人」は、そのまま王城へ向かい、国王に無事の帰還を報告、詳細は明日またということで、ミリアを客室に案内してくれた。

 長い一日を過ごしたミリアもさすがに疲れていたようで、寝台に横になるとそのまま眠りに落ちてしまった。

 べリングエルはネックレスに、ジョドはブレスレットに戻り、休んだことは言うまでもない。


 アレスター卿もミリアとともに下がり、謁見の間を出たあとはこの王城内にあてがわれている自室へと戻っていったようだ。



 そして、今、4人は食事を共にしている。

 食事が終わったら、ミリアは帰国することになっている。

 国王への詳細報告はアレスター卿が請け負ってくれている。


「――ところで、アレスター卿。私、昨日はいろいろと勉強になりました。(けい)の剣の腕前はすでに聞き及んでいましたが、目の当たりにするのは初めてでしたから、何と表現すればよいか、まったく言葉がありません」


と、食事後、ミリアが切り出した。


「それは誉め言葉ということでいいのかな、ミリア君」


と、応じたアレスター卿は、少しはにかんでみせる。



 ジャンカルロ・アレスターはこのヒストバーンにおいてはいわゆる「アイドル」的存在だ。

 少し聞いた話によれば、アレスター卿が街に出たり、王国のセレモニーに姿を見せると、どこからともなく彼を一目見ようという者たちが集まってきて、人だかりができるという。

 アレスター卿が美男子であることは前に述べたが、なるほどどうして、若干の幼さが残るこの笑顔も相当キュートだ。

 王国中の女子が沸き立つのも無理はないと、ミリアもそう思う。



「ええ、もちろんです。私は剣術の方はからっきしで、すでに諦めておりますので、どこがどうということは言えませんが、とにかく、圧倒されました――」

と、返すミリア。


「ははは、ご謙遜を。聞いていますよ? ミリア君は、少女の頃、メストリル王国の少年剣術大会にも出場して、かなりの好成績を収めていますよね? たしか、準優勝だったとか――」

「――もう昔の話です。本格的に魔術の訓練をするようになってからは、剣を握っている暇がありませんでした。おそらくこの先も、もう、剣を握ることはほとんどないでしょう」


「そうですか。それは残念ですね。でも、ミリア君には魔法がある。私には「これ」しかありません。似たようなものですよ」


 そう言って、アレスター卿は剣を振るような仕草をしてみせる。


「ところで、あの、アシュレイ王子のことなんですが……」


 ミリアは昨日の晩そのまま立ち去ったアシュレイ王子のことも気になっている。

 たしかに粗野で、ぶしつけな部分があることは否めない人だった。

 だが、反面、しっかりとした自分を持っていて、芯の強い人柄であることも感じられる。


 それに、なんと言っても、あの戦い方――。


「ミリア君は昨日のアシュレイ王子の戦いを見て何かを感じ取ったようですね。それをお聞かせいただけますか?」


 アレスター卿が質問に質問で返してきた。


「え? ええ。こちらも表現が難しいのですが、とても素直に言えば、「凄い」の一言に尽きます。最初はかわしきれていなかった攻撃を躱せるようになり、最後には完全に支配していました。あれだけの魔物を相手に、しかも、かなりの長時間剣を振るい戦い続けるなんて、相当の体力と集中力が必要なはずです――」


 ミリアは素直な意見を述べる。


「そうですね。私もそう思います。王子の剣は決して優雅さや鋭さがあるわけではありません。むしろ、無骨で愚直。言葉は悪いですが、これはけなしではありません。あれが王子の「自分にしかない原型オリジナル・スタイル」なのです」


 アレスター卿はそう答えた。

 なんとなく言わんとしていることは理解できる。


「実は王子は私の()()()だったのです。が、師の剣術と王子の剣術にはあまりに差があり過ぎました。結局、師は、王子に対して『破門』を決定することになりました。これ以上、師の剣を教授しても意味が無いと判断したからです――」


 確かに、アレスター卿の剣術とアシュレイ王子の剣術には全くと言っていいほどに共通点が無いように見える。

 アレスター卿が『剣聖』を継ぐものと言われているのはミリアも知っている。つまりは、アレスター卿の剣術こそが、『剣聖カークランド・シュナイゼル』の剣術なのだろう。

 

 つまり、アシュレイ王子は師から「落第」の印を押されたということになる。そして、弟弟子のアレスター卿が師の剣を受け継いだ――。


「ああ、誤解の無いように申しておきますが、師は生涯に一人しか()()をとりませんでした。つまり、私です。王子は()()という扱いではなく、師が剣術を教えていたというだけのことです。そのことは、国王も王子も了承済みだったのですが――」


 アレスター卿は少し悲し気な表情をしてみせる。

 いつも、明るい笑顔を振りまいているイメージのアレスター卿の意外な表情に、ミリアははっとさせられる。


「まったく、人と人というのは、もう少しうまくいかないものなのでしょうかね――」


 アレスター卿はそう言うと、ふぅとおおきく溜息をついた。


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