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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第551話 銀長髪と革鎧


 そんな会話を交わしながら馬車に揺られていたのだが、そろそろ王城の門をくぐるのが見えたため、会話はそこまでにする。


 やがて馬車が止まると、次いで、扉があけられた。


「どうぞ、国王がお待ちです――」


 そう言って二人を降ろした御者が、王城兵へと引き継ぐ。


 ミリアとべリングエルは、その王城兵の後に続いた。



 謁見の間に通された二人を迎えたのは、ヒストバーン国王ジェレミアード・ウィル・ヒストバーンと、宰相のルカーラ・キリエールだった。


「――おお! ミリア殿! 貴殿がお越しいただけるとは! 英雄王殿にはなんと礼を述べれば……」

と、玉座から立ち上がって、ミリアの方へと向かってくる老人こそ、国王ジェレミアードさまだ。

 

 年齢はたしか70と言っていたから、英雄王よりはいくらか年下だ。

 だが、英雄王とは対照的に、その姿は「しゃがれた老人」であり、小さく見える。

 確か、50前の王子が居たはずだが、その王子は「冒険者」として諸国を飛び回って国政には全く関与していないと聞いている。

 とは言え、然したる高名も聞こえてこないところを見ると、「冒険者」としての功績は決して高いというわけではなさそうだ。


「ミリアさん、よくぞお越し頂けました。アレスター卿が……」


と、そこで言葉を詰まらせるこの女性が、宰相のルカーラ・キリエールさまだ。


 彼女は年齢は聞いていないが、熟年の女性で、ミリアの母と同じくらいと思われる。

 

 実は、この二人が『剣星』ジャンカルロ・アレスターに掛ける愛情は、まさに実の親子かと見紛うほどのものであることを、ミリアは前回の訪問の折に知っている。

 

「陛下、ルカーラさま――」

と、ミリアは会釈をすると、言葉を継いだ。

「ええ、聞いております。迷宮ダンジョンで行方不明になっているとか――。して、その迷宮ダンジョンまではどのぐらいの距離でしょう?」


 これに答えたのは宰相のルカーラさまだ。


迷宮ダンジョンまでは、馬車で1時間ほどの場所です。この王都から北へ街道沿いに進み、途中の分岐を山側へ入って10分ほどです。そもそも、街道に近いということもあり、アレスター卿に調査を依頼したのです」


「アレスターに話したところ、急いだほうがいいですねと言い残して、すぐに向かってくれたのだ。それがもう3日前のことだ――。こんなことになるとは……、せめて兵をいくらか持たせるのだった――」

と、後悔の念に押しつぶされそうな声で国王がうめく。


 話によると、出発してから一晩明けた昨日、さすがに様子がおかしいと感じた国王と宰相は、王国警備隊を迷宮へ向かわせた。

 ところが、迷宮ダンジョン内には初級~中級モンスターが沸いているだけで、アレスター卿の姿を確認するに至らなかった。

 迷宮ダンジョンを進むうちに、徐々に魔物の脅威度が上がってきたため、やむなく探索を断念し、引き返したのだということだった。


「――結局、アレスター卿の遺留物も発見できていません。ですので、さらに奥へと向かったのではないかと思われます。我が国の兵たちもよく頑張ってくれましたが、さすがに、アレスター卿一人の力には及びません。そこで、隣国の英雄王様へ、救援を要請したのです――」

と、ルカーラさまが説明してくれる。


「事の次第はだいたいわかりました。それではこれからすぐに向かいます。私の従者の翼があれば、数分で到着できるでしょう――。心配なさらないでください、陛下、ルカーラさま。アレスター卿がこれしきの事で命を落とされるはずはありません。おそらく、迷宮ダンジョン内で、何か事故に遭われているのでしょう。必ず見つけ出して、連れて戻ります――」


 そう言ってミリアは踵を返す。


 すると、その時一人の男が謁見の間に入ってくるのが見えた。


「やあ、久しぶりだな、()()()。聞いたぜ? ()()()のやつが帰ってこないんだってな?」 


 その男はミリアを通り越してミリアの背後にいる国王に向かってそう叫んだ。


 熟年とまでは行かない中年の男で、身なりを見る限り、城のものではないと一目でわかる。

 すす汚れ使い古した革鎧、背中に背負っているのは、大剣――いや、大鉈おおなたか。


「――アシュレイ……、お前、何しに来た?」 


と、国王が応じる。


 アシュレイ――? アシュレイ・ルイ・ヒストバーン……。この方が、王子――。


 ミリアは、足を止め、立ち止まる。


 そして、すぐさま、脇へと下がった。が、隣にいたべリングエルは、その場に残る。


 王子アシュレイは構わず、べリングエルの眼前にまで進むと、


「――お前、何者だ? ただの魔術師にしては、やけに、血の匂いがしない――」


と、べリングエルへと声を掛ける。


「お、王子殿下! ご無礼を! まだ、礼を弁えぬ者にて、どうかご容赦を――。べリングエル! 下がりなさい!」


 慌ててミリアがべリングエルに声を掛ける。が、べリングエルは動かない。


 代わりに、ここまで黙っていたべリングエルが口を開いた。


「私は、騎竜魔導士ミリア・ハインツフェルトの従者べリングエルだ。我々はこの国の国王に請われて、ここまでやってきた。私の主人であるミリア・ハインツフェルトは、今朝方ウォルデランで公務をこなし、夕刻前に本国メストリルへ帰還した。そして、この国からの救援要請を聞き、休まず、その足でここまで来たのだ。そして、これから、この国の食客を救うために迷宮ダンジョンへと向かうところだった。道を開けるのはそちらの方だと、私は思うのだが、いかに?」


 背丈は、べリングエルの方がやや高い。

 対峙する男二人の容姿は全く対照的だ。片や、長い銀髪に美しい衣をまとったナイスミドル。片や、すすけた革鎧を身につけた「冒険者」。


 この場に二人を知らぬものが居合わせたなら、どちらが王子で、どちらが無法者か見紛う事だろう。


 二人が対峙したまま、数瞬、時が過ぎた。


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