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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第548話 ミリアの信頼度


 クルシュ歴372年3月13日――。

 キール一行がローベの港を出港し一日が過ぎたちょうどその頃――。


 メストリル王国の英雄王のもとに、北のヒストバーン王国から使者が到着する。

 ヒストバーンからの使者は、国王印の入った書簡を所持しており、早急に英雄王にお取次ぎ願いたいと申し出た。


 事態を重く見た英雄王は、即刻内務大臣のウェルダート・ハインツフェルト公爵と共に謁見の場を設け、国家魔術院にも即座に伝令を走らせた。


 謁見の間にて、ヒストバーン国王ジェレミアード・ウィル・ヒストバーンからの書簡に目を通した英雄王は、眉間にしわを寄せる――。


「ウェルダート、キールはもう出航したか――」

「陛下、予定では昨日の朝、ローベを出ているものと思われますが――」


「そうか――。なら仕方がないな。ミリアは今どこにいる?」

「今日戻ると思います。昨日まで、ウォルデランへと視察へ行っているはずですから――。朝出ているとすれば、もう直に戻る頃でしょう」


 それを聞いた英雄王は、

「使者のものよ、安心しろ。夜通し駆けてきたのであろう。ゆっくり休むがよい。ヒストバーン国王の要請には即刻対応する――」

と使者にそう伝え、衛兵に命じて休息部屋に案内させた。


「陛下――? いったいどうなさいました?」


 英雄王はウェルダートの言葉には返さず、ただ、その書簡を手渡した。

 

 書簡を受け取ったウェルダートも読むにつれて目を見開いてゆく。


「アレスター卿が、行方不明――ですと? アレスター卿とは、あのアレスター卿ですよね?」

と、ウェルダートが英雄王に確認をする。


「ああ、間違いない。『星剣せいけん』ジャンカルロ・アレスター。現役の金級冒険者ゴールドクラスであり、ヒストバーンのお抱え剣士でもある、あの、アレスターだ」

「確か年齢は、今年で28でしたか――。まだ若いですが、剣の腕は既に師匠のカークランド卿を越えたとかという噂の――」


「ああ、故『剣聖』カークランド・シュナイゼルの最初で最後の直弟子であり、現代の『剣聖』とも呼ばれる男だ――。クラスはまだ実績不足で金級冒険者ゴールドクラスだが、金剛石級アダマンタイトにもそのうち手が届くだろうと言われている」

「そんな男が、行方不明――。しかも、ダンジョン探索で、ですか――」


「書簡にはそう書いてあるからな。ヒストバーンにはアレスターに匹敵する強者はいない――。そこで、隣国である俺のとこに協力を要請してきたというところだ。()()()()()とは腐れ縁でな。放置するわけにもいかない――。オレが現役なら行ってやるところなんだが、残念だが俺はもう、剣は置いた身だ。ウチで対応できるとすれば――」


 その時、謁見の間の扉が開き、二人の魔術師が姿を現す。

 『氷結』ニデリック・ヴァン・ヴュルストとその側近、ネインリヒ・ヒューランだ。


「陛下――。お呼びとありまかり越しました。何かお急ぎのご用件と伺いましたが?」

と、ニデリック。


「ああ、アレスター卿が消えた――」

と英雄王が即答する。


「アレスター卿が消えた!? それはいったい――!?」

と、ネインリヒは自分が今聞いたことが信じられないという反応だ。


「ヒストバーンで最近発見された新規迷宮の調査に、アレスター卿が派遣された。それからすでに3日が経過しているが、未だに迷宮から帰還しないとのことだ。ヒストバーンにはアレスター卿以上の強者がいない為、陛下に緊急の要請があったという顛末だ」

と、ウェルダートが簡潔にまとめる。


「――そうですか。魔物案件ですね。こういった案件に適切な人材と言えば、あの子なのでしょうが、今は海の上というわけですね――。さて――」

と、ニデリックが言った。


「――ああ、キールがいない。それで、ミリアを向かわせようと思うのだが、どうだろう?」

と英雄王が推し量る。


 一同はこれまでのミリアの経験、現在の彼女の魔術師としての力量を考え、答えを模索する。


「――やはり……」

と、初めに言葉を発したのはウェルダートだった。

「――あの子には荷が重いかと思います。親としての立場上、非常に申し上げにくいのですが、これまでのあの子の経験から言えば、単独での救出任務は遂行不可能だと思えてなりません」


 ここにいる面々すべての者がその言葉に一理ありと思っている。


 これまでミリアの対魔物作戦は全てが集団行動だった。ダーケートのブルーウォールは英雄王パーティゴールド・エイペックスとしてであったし、エルレアの魔巣攻略戦も『翡翠』パーティのメンバーだった。そして、遺跡探索の場合はキールかアステリッドが常についていた。


 こう考えれば、ミリアの力量に対して、一抹の不安が芽生えてもおかしくはない。


「――ふむ。確かに不安がぬぐえないのは事実でしょう。ですが、何ごとも初めというものはあるものです。私は幼いころからミリアを見てきました。あの子の才覚は真に天才の域に達しようとしていると思います。それでありながら、未だに慢心せず、日々鍛錬を怠らない。まあ、あの男の影響もあるのでしょうが、何よりもそもそもは芯の強い子です。ここは、本人に聞いてみるのがよろしいかと」

 

 そう言ったのは、『氷結ニデリック』だ。

 ニデリックにしてみれば、ミリアは将来自分の後を継がせたいと思っている第一候補である。それは彼女を現在の役職、「副院長」に叙任していることからも明らかだ。

 残念ながら、ミリア以外にニデリック亡き後の魔術院を背負って立つものは他にいない。

 まあ、まだ先の話と言えばそうだろうが、ここらでミリア・ハインツフェルト単独の功績も欲しいところだ。


「――お前の気持ちは分かった。とりあえず、話をしてみて、それからだな……」

と、英雄王もここらで腹を括った。

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