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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第537話 王女誘拐事件の内幕


「素晴らしい演技でしたわよ、殿下。これなら間違いなく()()()はずですわ――」

「本当ですか? なんかわざとらしくありませんでした? レオローラさん」


「大丈夫。あとは、最後の仕上げだけですわね?」

「――でも、もしバレたら、絶対許してもらえないと思いますけど――」


「バレたら、ね? だから、バレなきゃいいんです――。ステファニー殿下がそのお覚悟をお決めになられたから、私は手を貸しているのです。男性をその気にさせるには、多少の演技は必要なんですよ? 私も、ヒュリアスティに振り向いてもらうために――って、そんな話は今はいいですわね。さあ、舞台に到着です、最後まで、頑張ってください――」


 レオローラはそう言うと、馬車から飛び降りる。そうして、自身も『支度部屋』に入った。

 

 ステファニーはあらかじめ打ち合わせた通り、縄を巻かれて納屋の柱に括り付けられる。


 何のことは無い。誘拐事件など起きていないのだ。

 これはすべて、ステファニー王女から相談を受けたレオローラの劇団の「台本」なのだ。


「それにしても、あの『物体移動サイクス』! 俺は興奮したぜ!」

「綱を引くこちらの身にもなってくれよ。()()()を引くのに、8人がかりだったんだぜ?」


 と言い合っているのは、男役者のジンと、大道具のレッドさんだ。

 ジンが誘拐犯の魔術師役をしていたのだが、バルコニーから瞬間移動したように見せかけるために、ローブの下の体に縄を巻き付けていたのだった。


「さあ、みんな! クライマックスよ! しっかりお願いね!」


 レオローラが支度部屋から出るなり、納屋の前庭から声を掛ける。


「おおさ!」「さあ、見せ場だ!」「任せときな、姐さん!」「やるぞ!」「おお!!」


と、納屋の周囲のあちらこちらから声がする。


 当のレオローラもすでに準備万端だ。


(まさか、こんな「野外ステージ」で演じることになるなんて、思ってもいなかったけど――。これはこれで、興奮するわね……)


 

「――きました! 本当にあの王子、一人だぜ!?」


 劇団員の一人が叫んだ。


「――そう。これは『本当になる』かもしれないわね……。ステファニー、覚悟を決めなさい」

「はい! 私、絶対アーノルド様の心を掴んで見せます!」



――――――



 などという芝居に乗せられてるとは知らずに、アーノルドは駆けていた。


 東門を出て街道沿いに駆けること数分――。

 確かに道端に一件の納屋が建っているのが見えた。


 辺りは暗闇だが、その納屋にだけ灯が灯っている。街から少し離れたところまでは、王都の明かりが届いていたが、さすがにここまでくると光は届かない。


 納屋に灯る灯りだけが、唯一の目印となって、アーノルドを誘っているように見えた。


(なんということだ――。これで僕が戻らなかったら、兄さんはなんて言うんだろうな――)


 ふっと脳裏をよぎる兄ウィリアムのことを思ったのだが、不思議と兄は笑っていた。


(思えば、腹違いってだけで、いろいろと周囲から言われたけど、こういう向こう見ずなところなんか、全く同じじゃないか――)


 納屋まであと50メートルというところで、一旦立ち止まる。

 アーノルドは、北の夜空を見上げて、決意を固める。


(兄さん、もし僕が帰らなくても、兄さんなら問題ないよね――。僕は、僕の大事なものを取り返しに行くよ。ごめんね、兄さん――)


 一人対大人数なら、さすがに手も足も出ないだろう、なんと言っても相手にはあの魔術師がいる。だが、やることはたった一つだけだ。


「ステファニーを無事に帰す――」


 それだけだ。あとのことはどうでもいい。彼女が無事なら、この身がどうなっても別に構わない。

 

 アーノルドはついに足を踏み出した――。



――――――



「ところでキールさん、レオローラさんが隣国のレクスアースで公演中って知ってました?」


 船長室に入ってきたアステリッドが、唐突に投げかけてくる。


「なんだよ急に、久しぶりにその名前を聞いたから、誰のことかと思ったじゃないか」


 キールはアステリッドが言ったその名前が、自分の母親の『芸名』であることを忘れかけていた――というのは言いすぎだが、この船の名前が母親の芸名だったということに改めて気づく。


「何を言ってるんです、キールさんのお母様じゃないですか。キールさん、レオローラさんとはどのぐらい会ってないんですか?」


 そう改めて言われてみると、意外と長く会ってないように思う。おそらくのところ、2年以上は会ってない。

 大学を卒業する年の年末年始に会ったっきりだ。


 キールもその後なんだかんだと忙しくて、メストリルに落ち着いていられなくなったのもある。

 が、一番の原因はそれではないことに今気が付いた。


「そうか、そうだ! 僕が悪いんじゃなかったんだ。あの人たちが連絡を寄こさないからこうなってるんだ!」

「なんです、急に!?」


「そうか、レクスアースにいるんだね。ここからレクスアースまではリーンアイムなら数時間だ。アステリッド、明日行ってみないか?」

「明日――! なんです、その急展開!?」


「よく考えたら3日後には出航だ。そうしたらまた会えなくなるからね。近くに居るのなら、一言文句を言いに行こうかと、そう思ったのさ――」

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