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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第533話 「ギフト」―前世の自分からの贈り物

「いえ――、私は前世の記憶を開放いたしたく思いますわ。キールさん、それはすぐに可能なのでしょうか?」


 フランソワの宣言には強い意志が表れていると、ここにいる皆が確信した。


「フランソワ、キールさんの話を聞いていたのかい? 無理に呼び起こす必要はないって――」

教授せんせい、実は私には変わった超能力があるのです。これまで黙っていましたが、おそらく、この記憶の芽と無関係ではないと確信しております」


「超能力?」

「はい。私はそれを『警鐘』と呼んでいます。自分の身に迫る危険や、自分が知るべきことが近づいたときに、頭の中に鈴のような音が響くのです――」


「そんなことが――?」

「はい。例えば、ヘラルドカッツ国家魔術院院長レイモンドさまが陰で何かをされていたことなども、この『警鐘』のおかげで知るに至りました――。キールさん、これは無関係ではないのでしょう?」


 キールは思い当たる節がある。

 転生者はすべからく「特性をもって転生する」と、ボウンさんは言っていた。恐らくそれだろう。


「――たぶん「ギフト」だと思う。あ、「ギフト」というのは、正式な呼び方ではないけどね。ただ、そう呼ぶのがしっくりくるんだよね。言葉の発案者はデリウス教授だけどね」


「ギフト――贈り物……」

と、フランソワが呟く。


「ちょっと待て、キール。それなら俺にもそれがあるはずじゃないか。でも俺はそんなもの自覚したことはないぞ?」

と、ワイアット。


「ギフトにはいろいろあってね。自覚できるものもあればそうでないものもある。例えばお前の場合、人に胡散臭うさんくさがられる、とか、な?」

胡散臭うさんくさがられる? なんだよそれ、そんなものなんの役に立つってんだ――」


「それだとは言ってないぞ? 例えばそういうものもあるってことだ。いずれにしても、「ギフト」は前世の自分が消滅する間際に選んだ最後の選択なんだ」

と、キール。


「それで、『ギフト』――。前世の私から今の私への贈り物――」

フランソワはそう呟くと、即座に次の言葉を繋いだ。

「キールさん! わたし、知りたいです! 前世のわたしがわたしに贈り物をしてくれたのなら、わたしはその方の想いに応えなければなりません。その為に、自分の前世と向き合う必要があるとそう考えました。教授せんせい、キールさんやアステリッドも前世の記憶を持っています。教授せんせいは、彼らが『違う人間』であると、そう思われますか?」


「いや――、そんなことはないよ。キールさんもアステリッドも記憶解放する前もした後も、前と変わりない。フランソワ、君がもしそうなっても、僕は変わらないと誓えるよ」


 クリストファーがフランソワの手を取って、しっかりと見つめる。


 キールはそんなクリストファーを見て、この友を誇らしく思った。

 初めて彼に会った時から、ミリアに対する深い愛情を感じた。それ以後も、ことあるごとに彼のミリアに対する想いを感じさせられた。

 自分みたいなのがミリアの隣に立っていていいものだろうかと考えたことも、一度どころではない。

 思いがけなくミリアと引き離されることになった時の彼の心の痛みは、想像を絶するものだったろう。

 それほどの想いを乗り越えて、今はフランソワさんを一途に愛している。そのことは同じ男として、彼の様子を見れば明らかだ。


 本当に彼は「強い」――そして、とてつもなく「優しい」。


(やっぱり、クリストファーは特別な男だよなぁ――。僕も選ばれたものとして、彼以上に強くありたいと思うよ、ミリア――)



「――フランソワさん。確かに、その想いはよくわかる。僕も前世の記憶を開放してからより強く自分の生き方や存在について考えるようになったしね。でも、まだ早いと思う。記憶の芽はまだ芽生えたばかりだと思うから、もう少し様子を見ることにしよう――。充分に育ってから解放した方が支障が少ないと思うんだよね」


と、キールは一旦、保留するという提案をした。


 実際、「支障」が生じるかどうかはわからない。

 キールが術式を施した3人は、充分に記憶の芽が成熟していた状況だったとした場合、記憶の芽の成熟度が術式の成功率に影響があるかどうかも不明だ。

 デリウス教授も、アステリッドも、そして自分自身も、この前世の記憶について考え、悩み、知りたいと強く願った一定の期間がある。

 しかし、フランソワさんの場合、今日の「ワイアット・アープ」という言葉が琴線きんせんに触れた程度の状態だ。


 今すぐここで行わなければ、生活に支障をきたすというほどのことでもない。


 ならば、しばらく様子を見てもいいのではないだろうか、と、そう考えたためだ。


「キールさん、支障と言いましたけど、何か危険なことでもあるんですか?」

と、聞いたのはクリストファーだ。


「いや、正直、分からないんだ。その点も少し調べておきたい。だから、今すぐはやめておこう。この件については、また改めて考えたいと思うんだ。どうだろう? フランソワさん」


「――分かりました。でも、私が前世のことを知りたいというのは本気です。ですので、キールさん、よろしくお願いいたします」


 これで、本日の会談は終結した。

 

 しかし、ワイアットのギフトって何なんだろうな? アステリッドのギフトもはっきりしてないし、思えば、デリウス教授のだってそうだ。


(――まあ、別にそれはいいのかもしれない。はっきりと分かっていなくても、間違いなく「ギフト(それ)」は持っているはずなのだから)

 

――「ギフト」。それは、前世の自分が次の人生をより豊かに生きろという願いを込めて選択した、彼ら(じぶん)の「最後の選択」なのだから。


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