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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第532話 会談の終結~フランソワの記憶の芽

「ウィリアム王子、実は父より手紙を預かって参りました。陛下にお渡し願えますでしょうか?」


 会談の終わりに、フランソワが切り出した。


「父君、カーゼル陛下からですか――。して、そのお手紙とは?」


 ウィリアムは慎重に応じた。王から王への手紙である。これがどのような性質を持つものかによっては、公式、非公式の扱いの差が生じる。


「こちらです――」


 フランソワが差し出したのは、封の開けられた便箋であった。ヘラルドカッツェ家の印章はされていない。


「封が開いていますね。というか、そもそも閉じられていない――」

「ええ、あくまでも友人としての手紙であると、父は申しておりました」


「なるほど――。封が開いているということは、読まれても構わないということ。わかりました。これはあくまでも親友間の手紙です。公式文書には当たりませんね。構いません、父に渡しておきます。もちろん、検閲けんえつするなどという無粋な真似はしませんよ」

「ありがとうございます」


「こちらこそありがとうございます。父とカーゼル王はいわば盟友の間柄、病の床に就いている父にとっても嬉しい贈り物となるでしょう。陛下によろしくお伝えください」

「はい、陛下の病状のご回復をご祈念申し上げます」


「ありがとうございます、フランソワ王女殿下。――さて、キール――」



 ウィリアム王子(ワイアット)が唐突に、この場に同席しているキールへと話を振ってきた。そうして、部屋の入り口に控えていた王室の者たちに合図を送る。

 王室の者たちは、即座に部屋を出て行った。


「――さっきの話。『記憶の芽』のことだ。それはつまり――」


 ワイアットも前世の記憶保持者である。すでにオズワルド神父の手によって開放済みである。この場でこの話題を出すということは、自分にも知る権利はあるだろう? という意思の表れでもある。

 キールは、恐らくこうなるだろうとは踏んでいた。だからわざとワイアットの目の前でその言葉を口にしたのだ。


「――ああ、前世の記憶が開きかけている、そうみていいだろうな」


 キールは『記憶の芽』のことについて話し始めた。

 ここで今一度簡単に述べると、前世の記憶を有している者すべてがその記憶をよみがえらせることができるわけではない。いや、むしろ、ほぼ大半の者が「前世の記憶」を持つことを自覚せずに生きているといっていいだろう。

 それが、「自分の記憶」であると認識するようになるには、『記憶の芽』が必要だ。

 そしてそれは大抵、「夢」の形で現れるのだという。

 明かに自分の知らない土地、知らない周囲の人物。そうであることは「わかっている」のに、夢の中では全く「そう」ではないもの、つまり、「既知の場所・人」として認識し行動をしている自分がいる。

 そういう夢をよく見るようになるのだ。


 こうなったところで、実際の生活には大した影響はない。


 なぜなら、それは「ただの夢」の範疇を出ないからだ。

 夢の中で何が起きようと、現実の自分の身体には何ら影響はない。例えば、夢の中で腕を切り落とされたとしよう、だが、現実の自分の腕はもちろん付いているし、痛みもないのが通常である。


 その程度なら、問題ない。そして、多くの人は、その程度で処理可能なものであるのだ。


 しかし、稀にそうならないものがいる――。


 通常生活時に『前世の記憶』が語り掛けてくるという事象に見舞われるものもいるのだ。

 キールの場合は『前世の記憶(原田桐雄)』ではなく『前々世の記憶ヒルバリオ・ウィンガード』だったが。


 こうなると、さすがに普段の生活に支障をきたすようになる。しかし、基本的にはどうすることもできない。もしかしたら、犯罪者の中には、自分の前世の記憶に影響され、その道に足を踏み入れた者もいるかもしれないが、そう抗弁したところで誰も取り合ってはくれないだろう。


 それに、そんなものすべての記憶を解放してまわることも現実的ではない、し、むしろ、危険すぎるというものだ。


 だから、恐らくこの術式を扱えるものたちは、そのようなことはしなかったはずだ。

 必要最小限――。

 結局、それだけしか『前世の記憶』を整理することはしなかっただろう。


 「夢」は「夢」として処理できるのなら、それに越したことは無いのだ。



「――フランソワさんの場合、すぐに記憶開放するかどうかを決める必要はない。と、僕は見ている。だけど、本人がそれを強く望むようになれば、記憶の芽はやがて、大きく育つかもしれない。そうなった時、また考えればいいと思う。そうでなければ、気にしないことだ」


「気にしない?」

と疑問を呈したのは、フランソワ自身だった。


「ああ、気にしない。『既視きし』って知ってるかい?」

と、キールがここにいる皆に問う。


「ええ、もちろんです。見たこともない場所に来たり、見たりした時に、まるでそこに過去に来たかあるいは見たような気になるという現象のことですよね? ですがあれは――」

と、クリストファーが反応する。


「――そうそれ。これは前世の記憶じゃないから、転生者じゃない人にもよく起こることなんだ。実は、例えば記憶にない過去の夢に出て来た風景と似ていたり、どこかで不意に見かけた風景画と似ていたり。これは、いわゆる錯覚現象の一つで、自分の頭の中の記憶が混乱して起こる現象だ。記憶の芽も、それと同じだと考え、整理すれば、大抵の場合問題ないんだよ」


 そう、この程度なら問題ないのだ――。


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