第526話 祝宴
結局、頭目の魔術師と、あと二人の手下どもを捕縛した。
残りの4人は逃げてしまったが、取り敢えずこの盗賊団は壊滅だろう。
「――よし、これでいいだろう。お前たち、王都の衛士庁舎まで、「空」の旅になるぜ? 縄が緩んで落ちてしまったら、自分の運の無さを嘆くんだな?」
ワイアットが3人を縄で縛り、リーンアイムの鉤爪につなぎ、声を掛ける。
「ひぃ! まさかこのまま飛ぶつもりじゃないだろうな――」
盗賊の手下の一人が怯えて喚く。
だが、ワイアットの答えはその「まさか」、だ。
「仕方がないだろう? こうする以外に方法が無いんだからよ。――キール、準備は出来たぜ?」
「ああ、じゃあ、帰ろうか――」
リーンアイムの首筋を、とんとんと叩くキール。リーンアイムは、ワイアットが背に移るのを待って、ふわりと翼を羽ばたかせた。
その後、王都まで戻り、衛士庁舎まで3人の賊を届けた一行は、「予定通り」船に向かうことにする。
まだ、日が落ちて間もない。皆がキールたちの帰りを首を長くして待っているだろう。
「そうだ、キールさんの船に、食事とお酒を届けさせますわ――」
と、リーンアイムの背の上でハーマンが言ったのが始まりだった。
その流れの中では、ハーマンさんに声を掛けないわけにもいかないと察したキールは、腹を決める。ハーマンさんを招待する以上、ワイアットにも声を掛けないわけにはいかない。
「じゃ、じゃあ、お二人も来ませんか? 皆で祝杯と行きましょう」
と、やや上ずった声で言う。
「え? あ、ああ、私はそんなつもりじゃ――」
「――もちろん、行くぞ! ハーマン! 今日ぐらいはいいだろう」
ハーマンさんがやや遠慮するのに割って入ったワイアットが「快諾」の返事をしてしまう。
結局、そのまま二人も同行することになったというわけだ。
「さあ、飲め飲め! 嬢ちゃんも、遠慮なんかしなくていいからな!?」
ミューゼルがアステリッドのジョッキにエールを継ぎ足す。
「ええ~いいんですかぁ~。わらし、結構お酒は強い方なんでしゅよ~」
アステリッドも顔を赤くしながらも、これに応じる。
「海の神様ってのは、女神さまなんだが、嫉妬深いのさ。陸の女を船に乗せて長距離航海するときは、しっかり、「穢れ」を落とさないと嵐に遭遇するってエルルートの船乗りはそう信じているのさ――。しっかり飲んでくれよ?」
今度は、総舵手のオネアムが、要らぬことを言った。
「穢れってどういうことでしゅかぁ~! わらしは、どこも汚れてなんか、いませんにょ?」
「あ、いや――。まあ、気にするなって! そういう「慣わし」ってやつだからよ? (オネアム! 余計な事を言うんじゃねぇ――)」
ミューゼルが慌てて取り繕ったあと、オネアムに向かって小声で囁いている。
「――ぬう!? これは何という料理だ! これもうまいではないか!」
と、大きな声が聞こえる。
リーンアイムのヤツ、なんか声のボリュームが少し大きいんだよな。
「ああ、それは、パエリアっていうのさ――」
と、これに答えたのはシュレイさんだ。
シュレイ・ハフィルー。実はキールの『レオローラ号』唯一の女性乗組員でもある彼女は、司厨長(=コック長のこと)を務めてくれている。今日の料理の半分ほどは、彼女の手によるものだ。
あとの半分は、ハーマンさんが届けさせてくれたものだった。
「ぱえりや? ほう、変わった名だな? だが、とてもうまいぞ! これをこれから毎日食べれるのか?」
――そんなわけにはいくまい、何を言っているリーンアイムよ。
と、キールはその声を聴いて心内で思う。そんなものを毎日食べてたら、金がいくらあっても足りない。
「さあな。それはあたしの「領分」じゃないからね? いうなら、船長に言っとくれ――?」
と、シュレイさんが返答している。
そんな皆の状況を見て、キールは、やはりここは自分の「第二の家」なのだなぁと改めて思うのだ。
キールの父親と母親は職業柄、世界中を駆け回っている人たちだ。キールにある父母の思い出というのはそれほど多くはない。物心ついた時にはもう爺ちゃんと二人きりの生活だったし、「一家団欒」なんて、本当に年に一回あるかないかだったと記憶している。
メストリルに戻った時には、たまに実家に顔を出すが、今は爺ちゃん一人で悠々自適に生活している。
年齢は――、そう言えば幾つになったのだろう? 元気すぎて、あまり深く考えたことは無かったな。
結構いい歳のはずだから、やはり、少し気にかけた方がいいだろう、と気に留める。
「キール!! さっきは助かった! この埋め合わせは、必ずするからな!」
と、ワイアットが言葉を投げてくる。
「――いいよ、別に。僕にとってもハーマンさんは大事な人だからね。補給港の建設でとても世話になっているんだから、このぐらい当たり前のことだよ」
と、返す。
「補給港の建造だけが目的のように聞こえますわよ、キールさん。私の女っぷりでは、もう、その価値はないんでしょうね――」
と、ハーマンさんがしおらしげに装って、これに応じた。
「――え!? いやいやいや! そういうわけじゃありませんよ! ハーマンさんにはそういう方はもうおられるでしょう?」
と、社交辞令で返すのが精一杯だ。
「ふ、ふふふ、冗談ですわよ、キールさん。この度は本当にありがとうございました――」
と、今度は、居住まいを正して深々と頭を下げてくる。
女の人って――特に大人の女性って、本気なのか冗談なのか良く分からない時があるよなぁ――と、キールは背中を伝うものを感じて、慌ててエールを煽った。




