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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第524話 アステリッドの気持ち

 キールは港町の方へ下りてゆくと、商店街をまっすぐ目指した。とにかく、リーンアイムを探さないと――。


 アイツがいるといないでは、かかる時間が大きく違う。

 せめて日が暮れきってしまうまでには、盗賊団のアジトに到着したい。


 キールは魔法感知を最大に展開して、リーンアイムを探す。あれほど大きな魔素を持つものだ。人の姿をしているとはいえ、それなりに大きな反応を見せるだろう。


 案の定、商店街に近づく少し前にはそれらしき反応を見つけた。


 キールは一目散にそこへ駆ける。


 商店街はさすがに人通りも多く、『物体移動』を使ってダッシュするには少々困難だ。仕方が無く自力で駆けるが、ここでも『氷結』との訓練が効果を示している。


(やっぱり、修道僧の体術って、すごいな――)


 昔のキールと比べて明らかに2倍ほどの速度で駆け抜けている感覚がある。脚力が上がってるのはもちろんだが、それだけではない。体幹がしっかりしているため、全身の体重移動がスムーズで、混雑している雑踏の中でも速度を落とさずに駆けられているのが大きい。


 ようやくリーンアイムの姿を視認する。

 側にいるのはアステリッドだけだ。二人はギルドへでも行ったのだろうか。



「アステリッド! リーンアイム!」


 不意に声を掛けられたアステリッドが、口を大きく開けたところで止まる。

 今まさに、バケットサンドを頬張ろうとしていたところなのだ。


「うほ! なんだこれは!? 『ほっとどっぐ』のように温かくはないが、葉っぱのシャキシャキ感とこのみずみずしい赤い野菜の爽やかさ、それにこれは玉子か! 小娘! これはまた旨いな!」


 隣のリーンアイムさんは構わず食べたらしい。その一口目で充分にこのバケットサンドの価値を感じてくれたようだ。


「キールさん! どうしたんですか、そんなに慌てて――」


 アステリッドは、両手で抱えているバケットサンドをいったん諦めて、キールさんの様子を慮る。


「――ごめん! リーンアイムも! すぐに行きたいところがあるんだ! かなりの急用だ――」


 あの、いつもマイペースのキールさんがこれほど慌てているとは、これは相当な事態に違いない。


「急用? それで行きたいところって、どこなんですか?」

「東の街、デルチェリーザだ。そこに急いでいかないといけなくなった――」

「え? 戻るってことですか?」

「あ、ああ。結果的にそうなる――。話は追々《おいおい》する。とにかくすぐに来てくれ――」


 アステリッドは、取り敢えずバケットサンドを包み紙に包みなおし、それをサイドポーチへ放り込む。


「わかりました。リーンアイムさん、行きますよ?」

「ん? 我もか?」

「何を言ってるんです、当たり前でしょう? デルチェリーザに急いでいかないとって、私たちを探しに来たんですよ? 移動はリーンアイムさんを頼ってのことに決まってるじゃないですか! ほら。あ、もう食べちゃったんですか? 相変わらずの速さですね。じゃあ、もういいですよね? 行きますよ――」

「――小娘。最近我の扱いが雑ではないか?」

「はあ? 何を言ってるんです。バケットサンドを買ってあげたじゃないですか。それとも、もう今後何もいらないって言うんですか?」

「いや、それは――だな」

「――ほら、もう言い合ってる時間なんてないんです。来ないならここに置いていきますよ――」


 そう言って、アステリッドは歩き始める。行く方向はだいたい分かっている。キールさんが来た方向に戻ればいいはずだ。


「あ、アステリッド――。行先は街の東門だ」


 キールさんが慌てて後ろから声を掛けてきたが、そこが何処かはわからくても、すぐにキールさんが追い付いて来てくれるから心配ない。


「こっちでいいんですよね、キールさん! そんな竜人りゅうじんなんて置いといて、早く行きましょう!」


 振り返って、キールさんとリーンアイムさんの方を見ると、アステリッドは大声で叫んだ。


 一大事だということは理解できている。キールさんがあんなに慌てるなんて、滅多にないことだ。


 でも――。


 アステリッドは、心がおどっているのを否定できなかった。

 キールさんが初めて自分を頼りにしてくれたようなそんな気がするのだ。


 そう思うと、これから立ち向かうものが何であれ、自分の全力以上を出せる気がしている。

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