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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第523話 盗賊団のアジトにて

 ハーマン・ラオ・ギャラガーは自身の失態を苦々しく思っていた。


 敵の魔術師、なかなかに術達者なやつだった。


 これまでに自身が制圧されるなどということに覚えがないハーマンは、少々(おご)っていたのかもしれない。


 しかし、後悔先に立たずとはこのことだ。今となってはもうどうしようもない。


 ハーマンは後ろ手に手首を縛られたまま、獣檻の中に閉じ込められている状態だった。

 仮に手枷てかせほどいたとしても、この檻を引き裂くことはできない。


(今は――、仕方がない――)


 ハーマンはしかし、まだあきらめたわけではない。これまでにもいろいろな修羅場をくぐり向けてきたのだ。これしきの逆境で心が折れる自分ではない。


(唯一の望みは、落ち延びたカイルだが――。救援は来るだろう――、けど、それが何時いつかはわからない。どれだけ早くても「一日」はかかるだろう。今晩を遣り過ごすことができれば、あるいは――)



 そんなことを考えていると、ハーマンのいる獣檻の傍にあの魔術師がやってきた。


「一人逃がしちまったからなぁ。残念だが、ここに長居ながいは出来なくなった。いいアジトだったんだけどな……。心配するな、お前の命までは取らない、なんたってかなりの上玉じょうだまだ。お前みたいな奴を気に入る輩ってのは世の中にはたくさん居るものなんだよ……」


「――――」


 魔術師の言葉に無言で応える、ハーマン。

 こういう賊どものやり口というのは理解している。男は「売れない」から殺す。しかし、女や子供は「売れる」から殺しはしない。

 ハーマンが連れてきた4人のうち3人は戦闘の中でこの魔術師の手に落ちてしまった。


「おい、聞いてるのかお前――。こっちの手勢も5人やられてんだ。そっちは3人。まだ、釣り合いが取れてねぇんだよ。残りの二人分ぐらいはお前で取り返さねぇと釣り合いが取れねぇだろ」


 その魔術師はフードの奥に鈍く光る眼でこちらをじとりと睨みつけて言った。


「――――」

「ちっ、面白くもなんともねぇな。本当なら、皆で輪姦まわして憂さを晴らすところだが、それで価値が落ちたら元が取れねぇからな。せめて、見るぐらいで済ませてやろうと思ったが、そんな時間もねぇ。くそっ。あの野郎が逃げたせいで――」


「――――」

「――とにかくだ。もう少ししたら移動する。しばらくそこでおとなしくしてるんだな。お前もいい買い手に引き取られれば、いい思いをたんまりできるんだ、俺らは金、お前は快楽、悪い話じゃねぇだろう? まあ、()()()()()のヤツかまでは、わからないがな?」


 そう言い残すと、その魔術師は去って行った。


 ハーマンは檻の中から周囲を見渡す。ここはどうも、納屋らしい。周囲の荷物から見るに、どこかの山小屋か――。しかし、その荷物には埃やクモの巣が掛かっていて、結構な期間、触られてはいないようだ。


(おおかた、木こり小屋か何かだろう――。ここの主人はすでに殺されている、か――)


 しかし、木こり小屋で、生活の後が見て取れるということは、街道や街からはそう遠くないということだ。しかも、山のどこかなら、少し登れば位置も把握できるかもしれない。


(移動するといったな? つまり、この檻から出すってことだ。チャンスはその時しかない――)


 ハーマンは、そう心を決めた。



 それから2時間ほどが過ぎただろうか――。

 今度は数人が檻までやってきて扉の前を取り囲むと、その中の一人が檻の鍵を開ける。


 どういうわけか、さっきの魔術師はいない。


 納屋の中に差し込む光の加減から判断して、そろそろ日が落ち始めるころだろうか。


 ハーマンはこのタイミングしかないと決断する。


 檻の鍵が開いた瞬間、ハーマンは素早く移動し、檻の扉に向かって体当たりを食らわした。


 扉の前で鍵を開けていた男が、扉に押されて吹き飛んだ。そして、その向こうにいたもう一人も、これに巻き込まれる形で、その場に二人ともが転がった。


「このアマァ! やりやがったな――」


 と叫んだ男に素早く駆け寄ると、渾身の頭突きを食らわせる。それは見事にその男の鳩尾みぞおちに命中し、男はうずくまったまま動かなくなった。おそらく気を失っただろう。


 ハーマンはその男の腰に差さっていた曲刀を後ろ手で取ると、器用に縄を切り解いた。


(よし、これで――)


 と思った瞬間だった。


「――まあ、想定通りというところだったな」


 と、聞き覚えのある声が響いた。


 その瞬間、ハーマンは即座にその場から飛び退すさる。すると、さっきまでハーマンがいた場所に氷の柱が出現した。


「魔法――! しかも、『氷結アイスバインド』ということは、やはりお前、錬成「2」以上か――」


「ほう、なかなか勘のいい女だ。だけどここまでだ――。『水成アクア』!!」 


 瞬間、ハーマンの前に自分の身長より高い水の壁が現れた。なんて量だ――。これほど大量の水、どうやっても逃れきれない――。


 ハーマンは出来る限り水を浴びないようにとさらに後退するが、容赦なく魔術師が次の錬成を発動した。


氷結アイスバインド――!!』


 ビシシッ――! と、一気に水が凍る。そしてそれは、ハーマンの足を捕えた。


「くそっ――!」


 ハーマンは悪態をつくが、足を凍り付かされた以上、動きは取れない。ここで抵抗しても、どうにもならないと諦め、手にしていた曲刀を地面に放り投げた。


「ほお、よくそこまで躱したな――。本当は全身氷漬けにして、そのまま運んでやろうと思ったんだが――。まあ、いい。おいお前ら! 何をやってやがる! しっかり仕事しろ!」


 魔術師はそう言って、倒れている男を蹴り上げる。


 周囲の男たちは慌ててハーマンに縄を掛け始めた。


「傷を付けるなよ? 値段が下がっちまうからな?」


 

 ハーマンは再び縄を掛けられてしまった。

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