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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第521話 最高と最悪のタイミング

 その日の午後、キールたち一行は特に問題なく、ローベの街に到着した。


 とりあえず港へと向かい、『レオローラ号』の存在を確認した一行は、夜まで各自自由行動ということになった。


 とはいっても、これから冒険者ギルドの依頼をこなすには少々時間が足りないという事もあり、キール以外の4人はリーンアイムがうるさく言う『ほっと・どっぐ』を探しに街へと出て行った。


 『レオローラ号』の乗務員たちは、キールの思っていた通りの反応を見せ、ミューゼルとオネアムを筆頭に、今夜は酒盛りだァ! と息巻いている。


 まあ、しばらくの間留守にして、皆に船のことを任せていたのだ、たまには労をねぎらってやらないとと、キールも了承した。


 そうして、夜の支度は乗務員たちに任せておいて、自分はとりあえず丘の上の教会へと向かう。


 ワイアットがいればそれでいいが、いなければ、来たことだけをオズワルド神父に伝えてもらっておいて、明日また改めればいいかと考えていた。


 丘の上まで上がると、ローベの街が一望できる。

 弓なりに湾曲している入り江には、多くの漁船や貨物船、輸送船などが浮かんでおり、来るたびに船の数が増えているのが窺える。

 その入り江の北の方に、土地を切り拓いて造成が始まっている箇所がある。


(あそこが、僕たちの海への足掛かりになるんだ――)


 キール自身が依頼して建造される補給港の予定地だ。


 あれが完成すれば、恐らく今後のキールの「本拠点」となるだろう。


 現段階では、南のケウレアラ王国のエランの港にあるデリウス教授が管理する造船施設ドックが、主な補給港である。

 それに、各王国沿岸部にひっそりと設置されている隠れ港群をうまく使って、補給を確保している。


 このローベの補給港が完成すれば、西の大海への足掛かりとして非常に大きな位置づけとなるだろう。あとは東の大海への足掛かりとなる港があればいうことはないのだが、どうも東の国々とはあまり縁がない。


(――どころか、この間のジュリエ村の一件もあって、デリアルス王国には相当警戒されているだろうからなぁ……)


 あと、可能性があるとすれば、北東のダーケート王国か南東のリトアーレ王国なのだが、キール自身とのつながりはそれほど濃くはない。


(まあ、それはおいおい探すとして――。あ、オズワルド神父だ――)


 キールは、教会の入り口から出てきた老神父に目を留めた。

 そして、声を上げて呼び止める。


「オズワルド様――! キールです! お久しぶりです!」


 前回出会ったのは、去年の暮れの頃だ。それからすでに3か月が経過している。


 オズワルド神父はその声に反応すると、体をこちらへ向け、手を振った。


 その所作は3か月前と何も変わりなく、キールはオズワルド神父の変わりない様子を見てひと安心した。



「おお、キール殿、ちょうど今クラーサ茶を入れようと思って葉を摘みに出て来たところだったんじゃ。ちょうどよかった、3人分摘むとしよう」

「3人分――、ワイアットですか?」

「ああ、あやつも今しがた来たところじゃ。中にいるじゃろうから、先に入っておいてくれ。わしは葉を摘んでくるから――」


 これは幸運だった、と、思ったが、すぐさま、いや、もしかして「不運」なのかもしれないと、思い直す。


 とにかく、ワイアットと出会うたびにいろいろと巻き込まれているような思いに駆られるのは、ただの思い過ごしではないはずだと、キールは確信している。


「――あ、ああ、はい……。やっぱり、いるのか――」

「どうなされた、キール殿? 何か問題でもありましたかな?」


「あ、いえ、そのうなんと言うか、虫の報せみたいなものがありまして――」

「虫の報せ、ですか。そりゃあ、躊躇うのも無理はないですな。ですが、ここにこうして立っているわけにもいきますまい。――ささ、進まねば拓かれぬことも人生には多くありますぞ?」


「進まねば拓かぬ――ですか。確かにそうですね……。では、先に入っています」


キールはようやく、右足を踏み出すと、教会の扉に手をかけた。



 ぎぃと音を立てて扉を開くと、見覚えのある後頭部が見えた。ワイアットに違いない。

 当のワイアットは、オズワルド神父が開けたのだろうと思っているのか、ピクリともせず、教会の椅子に腰を掛け、前を向いたたままだ。


「よう、ワイアット。久しぶり――」


 その声にようやく反応して、ワイアットが振り返ると、即座に立ち上がり、だっとこちらに向かって駆けよってくる。


「――――! ワイアット!?」


 慌てて、声を上げるキールに構わず、ワイアットはがばあとキールを抱きしめると、


「キールぅ! お前、なんてタイミングがいいんだ!! 俺は今、まさしく神の存在を感じているぞ!」


 と、キールの耳元で叫んだ。



 ――ああ、やっぱり。「最悪の」タイミングだったようだ。



 と、キールは観念することにした。

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