第514話 わたしには、できる
アステリッドを取り巻く【リトルフッド】たちの輪が狭くなる。残りは9匹――。
さっきの攻撃でアステリッドが対応できる数の限界を学習しているかもしれない。
身構えるアステリッド、機をうかがう【リトルフッド】たち。
きしゃきしゃ――!
そのうちの一体がまた何ごとか吠える。おそらくそいつがリーダー格なのだろうが、見た目にほとんど差が無い為、判別するのは困難だ。
すると、やはり4体が一気に飛びかかってきた。
アステリッドは相棒の短杖を構え、錬成を開始、即座に発射する—―。
(さっきより、もっともっともっと速くだ!)
「火炎弾――!火炎弾――!火炎弾――!火炎弾(×2)――……」
最初に3発、これは見事に命中。そして最後が2発? もちろん、2発とも一体に連続して命中し、結果的には4体を打ち倒した。
きしゃしゃしゃ――!?
リトルフッドのリーダーが叫ぶ。様子から見るとやや狼狽している風にも見えるが、それはこちらも同じだ。
最後の火炎弾の魔素子、なぜか2つずつ同時に生成することができた?
いや、厳密に言えば、「火」と「風」の両方を併せ持った魔素子が2つ生成されたのだ。
2つの性質を併せ持つ魔素子を「1つ」と「1つ」――。そしてそのそれぞれをもとに「火炎弾」が錬成された結果、「2発」の錬成が完成したのだ。
アステリッドは本能的に確信した――。
2つの魔素子の性質を併せ持つ魔素子を生成することは可能なのだ、と。
(どうしてかは、この際問題じゃない――。そんなことは今度キールさんやミリアさんに聞けばいい。今は、ただ、出来ると信じて、やるしかない!)
きしゃきしゃきしゃ――!!
【リトルフッド】リーダーの明らかに動揺が混じった咆哮が響く。あれだけ多くいた仲間が気が付けばもう5体しかいなくなっているのだ。
きしゃ――――!!
相変わらず、耳障りな声を発すると、5体が一気に飛び上がる。これまでのアステリッドの対応数を越えている数だ。
だが、アステリッドは慌てなかった。
合成魔素子が生成できるのなら、理論上、今までと同じ速度で、2発ずつ撃てることになる――。
(大丈夫――、私にはできる!)
アステリッドは杖を掲げて錬成を開始する――。
「双生火炎弾――!双生火炎弾――!双生火炎弾――!双生火炎弾――!」
夢中で連続錬成をする。
合計8発の「火炎弾」が次々と着弾してゆくと、全ての【リトルフッド】が消し炭となって地面に落ちた――。
――――――
どどどどどどどど~~~ん!
リーンアイムが後方から響いてきた重低音の衝撃音にようやく気が付く。
(ん? 娘のほうか――?)
サイクロプスへの攻撃の最中に、少しだけ視線を調節して後方を見たリーンアイムは、アステリッドがやや肩で息をしている姿と、その周囲に5つの火種が燃え上がっているのを目撃した。
(奇襲――か。だが、終わったようだな。まあ、無事なら問題ない。しかし、この先の援護は期待できない、か)
おそらくあの様子では魔素をかなり消耗している。それは、リーンアイムから見れば遠目でも一目瞭然だ。
「おい、お前ら――! 娘の援護はもう期待できなくなった! こちらもいい加減、終わらせるぞ!」
リーンアイムが宙を舞いながら地上の二人に声を発した。
「――へ、わかってらぁ! 最初からアステリッドの援護をあてにしてやってたわけじゃねぇからな!」
「ああ、こっちも、ようやくタイミングが取れるようになってきたところだ!」
ランカスターとレックスが叫び返す。
リーンアイムも空中で剣戟を繰り返しながら下の二人の様子を見ていたが、この二人、単純に【一つ目】の攻撃を躱したり受けたりしているだけではなかったのは承知している。
(――なるほど、これが冒険者というやつか。経験し実践し学ぶ。これまで何度も受け躱ししていたのはこれからの為というやつだろう)
「ならば、攻撃へ転じよ! こっちも一気に削り切る――!」
言うなり、リーンアイムの速度が急速に上がった。
ザ、ザン――! ザ、ザン――!
と、続けざまに2発ずつ、【一つ目】の首の両側に斬撃が命中した。
ぐううおおお――!!
と、怒号を上げ、【一つ目】の動きがやや加速する。
が、すでにこの【一つ目】の動きを把握している二人には少々速くなったぐらいでは何ら問題なかった。
「シールドバッシュ!」
「ホリゾンタル・スラッシュ!」
二人の連携攻撃が決まり、【一つ目】の右足アキレス腱に大きな切り込みが入ったのだ。
さらに、
「もう一発! シールドバッシュ!!」
「ホリゾンタル・スラッシュ!!」
今度は、左脚の腱を見事に切り裂いた。
【一つ目】がもんどりうって地面に倒れる――。
「ふむ。よくやった。あとは我に任せよ――」
リーンアイムは空中からまっすぐに剣を突き出し、倒れ込んだサイクロプスの大きな目玉に向けて、急降下した。
ずぶり――。
と鈍い音がして、巨大な目玉の中央にリーンアイムのブレードソードが突き刺さった。
そしてその剣先は、そのまま奥の脳へと到達する。
【一つ目】は声を発することもなく、そのまま力尽きた。




