第512話 ボス部屋の恐怖
ギギギギ……、と、音を立てて静かに開く扉。
扉の中は真っ暗だったが、4人が部屋に入るや否や、左右の篝火に手前から奥へと順に灯が灯ってゆく。
そうして最後の篝火に灯が灯った時、それは姿を完全に現した。
「ジャイアント・サイクロプス――」
と、レックスが零す。
身の丈、4メートルは在ろうか。一見すると、巨大な人間のように見えるが、明らかに人間ではないとわかる特徴がある。
「ほう、『一つ目』、だったか――」
と、リーンアイムが唸った。
リーンアイムの言うように、確かに目玉が一つしかない。そして、口には大きな牙が下から2本生えている。脳天には一本の角。上半身は裸で、下半身には布が巻かれているような装備を付けているが、何より見るからに強靭そうな筋肉の鎧をまとっていて、斬りつけても容易に致命傷を与えることは難しいだろう。
背後の扉が勝手に閉まる。
「迷宮ボス部屋」の謎仕様だ。
結局、この部屋から脱出するには、この目の前の【ジャイアント・サイクロプス】を倒すしかないのだろう。
サイクロプスもこちらに気が付き、じわりじわりと歩んでくる。
「あ! あの奥の台座の上――!」
アステリッドがサイクロプスの背後にあった台座の上に、一振りの「短杖」が収められているのを見つけた。
「間違いありません! 『星空《私の杖》』です!」
なるほど、探しても見つからないわけだ。
どういう経緯かはわからないが、このボス部屋に保管されていたのだから。
「絶対に、取り返します!」
アステリッドが再度決意表明する。
「ああ」
「もちろんだ」
「そうだな」
と、3人もこれに応じた。
「じゃあ、まずは先陣、行かせてもらうぜぇ!」
言うなり、ランカスターが剣を抜き放ち、駆け出す。
おおおお! と、気合を発声しながら駆けこむと、サイクロプスの眼前に迫った。
「そりゃぁあ!」
気合一閃、横薙ぎに、サイクロプスの足首を払おうとした。が、器用にもサイクロプスがその足を上げて躱す。
「はずれされたぁ!?」
そしてその上げた足がランカスターの頭上から降ってくる。
「わぁ!」
「シールドバッシュ!」
それを盾で見事に受け、はじき返す者がいた。レックスだ。
「何やってんだよ、しっかり相手を視ろっていつも言ってるだろ!?」
「は、はは、すまんすまん。まあ、今のは挨拶代わりってやつさ――いくぜ、レックス!」
そこからはレックスの受けとランカスターの剣戟で、サイクロプスの『攻撃対象』を完全に奪う。
取り敢えず、第一段階は上々だ。
とは言え、あれ程の巨体に、ランカスターとレックスが斬りかかっても、多少の切り傷は付けられても、致命傷には至らない。
「――ふむ、あの二人、なかなかやりおる。それでは我も、そろそろ加勢するとするか――」
リーンアイムが腰の東洋刀を抜き放つ。
「娘、調整役、頼んだぞ?」
言うなり、一気に駆け出すと、ふわりと空中に舞いあがった。
「――え? リーンアイムさん、飛んでる?」
アステリッドはそのリーンアイムの姿に驚愕した。よく見ると、背中から翼が生えている。
「え、えぇ!? そんなこともできるんですか!?」
しかし、当のリーンアイムはアステリッドの声に反応せず、空中で態勢を整えると、一気にサイクロプスの顔面にめがけて突進する。
ズバアァ――!
という音が聞こえんばかりの斬撃。しかし、さすがに迷宮ボスだ、その斬撃を寸でのところで躱し、頬に一筋の切り傷が付いたのみだった。
リーンアイムはそのまま、空中で態勢を整えると、サイクロプスが放った棍棒の一撃をさらりと躱し、まるで蝶が舞うように華麗に身を翻すと、またもや、蜂のような鋭い突撃を試みた。
【ジャイアント・サイクロプス】は、足元に張り付く二人と、眼前を舞う一人に気を取られ、こちらの方には目もむけない。
時折、下の二人が、蹴りを喰らって弾き飛ばされるが、そこはさすがの一言。うまく力をいなしていて、骨折などの致命傷までには至っていないようだ。
(なんだかんだ言っても、鉄級冒険者ってことね――。よし今なら――)
そう思って、術式錬成に入ろうとしたその時だった。
アステリッドの周囲に妙な気配がまとわりついているのを感じる。
(――!? なに!?)
その気配を察知したアステリッドが自分の周囲に視線を這わした。
壁伝いに無数の黄色い光の玉――。いや、これは――。
「目? あ、【リトルフッド】!!」
気が付けば、アステリッドはおおよそ十数匹の【リトルフッド】に囲まれていた。




