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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第509話 『鳳雛』と『稀代』②

「――そうですね。僕自身は自分勝手なわがままでその縛りを脱していますが、それは自分の力で成し遂げたものではなく、仲間の助力と『氷結』ニデリック・ヴァン・ヴュルスト院長の厚意によるものです。それゆえに、どちらかと言えばメストリル王国寄りな思考と行動をとることが多いといえます」

 

 これはキールの正直な気持ちだ。


 もちろん、そうなるように知恵を絞り、虚勢を張り、必死に足掻いたことを否定するつもりはない。

 だが、多くの部分で、ミリアやアステリッドやクリストファー、ニデリック院長やネインリヒさんのいわゆる『協力』があって、今もなお、魔術院に所属せず、独立した魔術師という立場にある。


 それを全て自分自身の力だと言うような傲慢さは持ち合わせていない。


 すべては、メストリル王国という国に生まれ、そこで生きてきたからこそ恵まれた状況なのだ。そういう意味では、両親にも感謝してもしきれない。


 もし仮に別の国に生まれていたとしたら、おそらく今のような生き方や身の回りの環境は得られなかっただろう。


 なればこそ、その国のために尽くしたいと思うのは自然な思考だと言える。


 しかし、その反面、この世界の現在の魔術師を取り巻く状況はやはり少々歪んでいると思っている。


 もちろん、魔術師が通常の一般人に比して、『脅威』であることは言うまでもない。

 それは錬成「1」通常クラスであっても、だ。


 「魔法を使える」というのは、無から有を生み出すに等しい能力だし、それを悪用するものがいたとすれば、一般人がこれにあらがうことはかなり難しいと言える。


 最下級クラスであったとしても、魔法を使うことができるものは、いとも簡単に人を殺すことができる。人を脅すことができる。人からあらゆるものを奪うことができる。そういう能力なのだ。


 しかし、しっかりと教育し、その能力の可能性を示し、魔術師としての矜持を持たせることができれば、人を救い、人を助け、人の生活をより豊かにする力ともなるのだ。



「――私は、魔術師の能力が特別ではなくなる時代がもうすぐ来るのではないかと思っています」


 レイモンド院長がそう言った。

 そして、その言葉の意味をもう少し補うように、続ける。


「もちろん、三大魔術師や、それに続く高位魔術師らは変わらず特別でしょう。しかし、少なくとも現在魔術院にも所属できず、その能力をひた隠しにしながら生きている非魔術院魔術師たちである、錬成「1」魔術師たちの能力は、恐らくクリストファー教授が打ち破ってくれるのではないかとそう見ています」


「科学――ですね」


 クリストファーとエリザベス教授の二人がリードする最先端技術。

 この技術が発展すれば、確かに魔法は衰退の道をたどるだろう。


 キールの知る原田桐雄が住んでいた世界に魔法は存在しなかった。しかしながら、文明の隆盛はこの世界と比べるべくもないほどに進んでいる。


 事実、科学の発展はとてつもない速度で加速してゆく。


 例えば、自力飛行を世界で初めて成したとされるライト兄弟の初飛行は西暦1906年と記録されている。

 そして、人類が初めて宇宙へと到達したのは、旧ソ連のユーリ・ガガーリンであるが、これは西暦1961年のことだ。

 つまり、初めて空を飛んでから、わずか55年で宇宙へ到達したことになる。


 それほどに科学の進歩の速度は速いのだ。


 もちろん、当時の『地球』と、この世界を同じように見ることはできない。

 魔法の存在有無ももちろんだが、何よりも、「戦争」の存在が大きいと言える。


 「科学と戦争」――。


 これ程に『相性のいい』組み合わせはない。


 残念なことではあるかもしれないが、ライト兄弟からガガーリンまでの間に世界は2度の世界大戦を経験することになる。

 各国は戦争に勝つために「新兵器」の開発に明け暮れ、二度と戻れない道を歩むことになった。それゆえに科学は発展し、戦争はついに住む場所を汚染するまでに至ることになる。

 『地球の人々』は、この事実から目を逸らすことはできないのだ。


 閑話休題――。



「科学の発展は凄まじい速度で進むでしょう。そしてそれは魔術師でないものでも扱える技術として世界の生活をあっという間に変革してゆきます。確かに、レイモンド院長の言うように、錬成「1」魔術師であれば、科学の前では無力な存在になりえることも考えられますが……」


 しかし、そうは言っても、何もない場所に道具を使わずに火を起こしたり、水を出現させたり、岩石を生み出したりする力が、『無価値』になるとまでは行かないと思うのだ。


「――やはり、一定範囲で魔術師を教育・監視する機関は必要だと考えます」


 キールにはどうしてもこの「魔法」という現象が科学によって駆逐されるとは思えない。

 シュニマルダのような闇の世界に生きる組織などが新たに生まれ、世界の闇で暗躍するなどということは往々にして考えられるのだ。



「やはり、キール殿もそうお考えでしたか。実は私も同じことを考えておりました。そこでご意見をお伺いしたい。キール殿、あなたならどういう機関をおつくりになられますか?」


 レイモンド院長が単刀直入に聞いてきた。

 キールは一瞬逡巡(しゅんじゅん)する。


 魔術師を取り締まるものはやはり魔術師でなければならない。

 つまり、地球の言葉を借りて言うなら、「魔術師専門の警察」だ。


 しかも、全世界的な超国家機関が必要だろう。


 しかし、この質問に対し、そう簡単に答えてよいものだろうか?


 キールはその言葉を口にするのを躊躇ためらった。

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