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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第504話 カインズベルク訪問の本来の目的

「それで――まだほかにもあるのでしょう?」


 クリストファーが()()()の話に区切りがついたことを察し、次の話題へと話を進めようと問いかけてきた。


 キールにとっては実はこちらの方が本題だ。

 そもそもカインズベルクへ寄った本来の目的、それは、レイモンド・ワーデル・ロジャッドとの面会だ。


 もちろんあの、ノースレンド王国との一件の決着はついている。

 その際のレイモンド糾弾の詳細はすでにキールも知るところだ。


 だが、キール自身はまだ、一度もレイモンド・ワーデル・ロジャッドという国家魔術院長に出会ってはいない。


「ああ、むしろそっちの方が今回の訪問の主題だよ。レイモンド・ワーデル・ロジャッドに会いに来た」


「レイモンド院長――ですか。そう言えば、フランソワから聞くところによると、『氷結ニデリック』様が少し前に来られた後、相次いで『火炎ゲラード』様、『疾風リシャール』様も来られたとか。魔術院のことは良く分かりませんが、一体何を考えているんですか?」


「たぶん、新しい魔術師世界の創造――かな」


「「新しい魔術師世界?」」


と、キールの言葉にクリストファーとアステリッドの二人が同時に反応する。


「それって、どういう世界なんですか?」

と、聞いたのはアステリッドだ。


 キールは、ややばつが悪そうにこれに応じる。実のところ、その内容の詳細について『氷結《院長》』は言及していないのだ。


「――それが、よくわからないんだよな。院長もはっきりとそう言ったわけじゃないから。ただ、世界が成長するに合わせて魔術師世界も変わって行かねばならないとだけ言ってた……」


 メストリルを出る少し前のことだ。

 魔術院での訓練後に『氷結《院長》』に呼び出されたことがあった。


 『キール君。レイモンド院長にはまだ会っていないのかい?』


 そう、聞いてきたのだ。


 キールがまだだと答えると、会うつもりはあるのかとさらに問われた。

 ある、と答えると、そうか、ならいい、とだけ答えが返ってきて、その話になったのだ。


『魔術師世界の変革も必要な時期に近づいている――。楽しみにしているよ、君たち二人の行く末をね』


と言われて、下がらせられたのだった。


 キールは初め、その「二人」が指すのは、自分とミリアのことだと思っていたのだが、よくよく考えると、実は、自分とレイモンドのことかもしれないとも思えている。


 

「――まったく、わかりにくいんだよな、『氷結あのひと』って。常に何かを含んでいるように聞こえるけど、全くそうじゃないことも結構ある。やっぱり、何年たっても苦手なんだよなぁ」


と、キールが愚痴をこぼす。


 その「わかりにくい人」に魔術師として殻を破るために、「修道僧モンク」の体術の訓練を付けてもらっているわけだから、こちらもこちらで「よくわからない人」の代名詞的な人間なのになとクリストファーは思う。


「それで、どうしてレイモンド院長なんです?」


 立て続けに同じような質問を投げるアステリッド。


「――うーん。それもよくわからないんだけど、遅かれ早かれ、レイモンド院長には会うべきだと思ってたんだ。別に、『氷結《院長》』も会いに行けと言ったわけじゃないしね。結局は、好きにしろってことなんだけど、僕自身、ノースレンドの件で逆恨みされてるのも嫌だし、一回は会っとこうかなって――」


「逆恨みなんかしませんよ、あの方は。そういう感じではないとは思いますが――。そうですね、でも、会われた方がいいでしょう」

と、クリストファーも会談することを推奨する。その上で、

「――わかりました。フランソワに相談してみましょう。キールさんなら、そのまま魔術院に出向いても問題なさそうですが?」

と、少し意地悪をするクリストファー。彼もただやり込められるだけでは面白くない。返せるときに返しておく。


 キールがわざわざ「先に」クリストファーのところへ来たということは、そういう伝手つてを使えればよりスムーズに話ができると思ってのことだろうと推測してのことだ。


「――意地悪な言い方だなぁ。でも、お願いするよ。僕は元来、()()()()なんだ」


 これはキールの本心である。

 

 いろいろなこれまでの経緯いきさつから、思いもよらぬ人たちとの出会いはたくさん経験してきている。

 それはミリアに始まり、今となりにいるリーンアイムに至るまで、自分から出会いたいと思って出会うというのではなく、なんとなく成り行きの過程で出会ってしまったという方が多い。

 そもそも人同士の出会いなど、そういう方が圧倒的なのだが、いざ、自分から会いに行くとなると、キールの元来の性分が「人見知り」なのだと改めて気づかされることになる。


「――今さら、何を。まあいいですよ。ところで、お昼はまだですよね? 僕もこれからお昼をとろうと思っていたところです。今日はご馳走しますよ?」


というクリストファーの言葉がこの面談の幕引きとなった。

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