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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第503話 クリストファーの構想

 クリストファーは、その言葉を発したやや年上の男性の方に視線を投げると、そのまま次の言葉をつなぐ。


「人類の範疇はんちゅうを越えている――。ですか。確かにそうかもしれません」


と、一旦はその言葉を肯定する。


「ですが――」


 クリストファーは互いの国家が技術革新において切磋琢磨し、よりよい競争をすることは歓迎している。

 事実、今のヘラルドカッツ王国とメストリル王国はそういう関係を保てているといっていいだろう。


 それは、その国家の科学の最先端が、二人の「師弟」であることが大きい。

 

 エリザベス教授と自分とであれば、その塩梅あんばいを鑑みつつ、緩やかに技術革新を進められると信じているからだ。


「――考えられるものなら、考えるべきだと、僕は思います」


と、返す。


 リーンアイムは、にやりと笑って、


「なるほど、この男も面白い奴だな。キールよ、やはりお前と共にゆくのは面白い。我はこれほどまでに人に興味を持つのは初めてのことだぞ?」


と、言った。



「ああ、ごめん、紹介が遅くなってしまった。こいつはリーンアイム。さっき自分で言ったように、ドラゴン族だよ」


と、キールさんが遅ればせながらその男のことを紹介した。


 クリストファーは、なるほど、どうりで何となく違和感があったのかと合点がてんする。


 しかし、ドラゴン族とは、竜のような体型のはずだ。

 ミリアととも行動しているものとはあまりに違い過ぎていないかと、いぶかしむ。


「ドラゴン族って、あの、ミリアと共に行動している竜のことですよね? 人の形にもれるのですか?」


「ん、ああ、このあいだから、ね。ボウンさんから特殊な魔法を教わったんだよ。ミリアと共にいる二人も人間になることができるようになったよ?」


「なるほど、大魔導士ボウンの手に掛かれば、そんなことも可能になるんですね。彼から見れば、僕たち人間が考えていることなんて些細な事なんだろうなと思うことがあります」


「そうかな? 僕はそうは思わないよ? あの人だって元は人間だったんだ。今は故あって偉そうにしてるけど、心根は人間のままさ。だから、不死の存在になって何百年なのか何千年なのか知らないけど、いい加減、カミサマを降りたいと考えているんだろうさ」


 と、キールさんが返してくる。

 

 クリストファーは、自然と表情が緩むのを抑えられない。

 そうだった、こういう風に考えるのがこの人、キール・ヴァイスだったと、改めて思いなおす。そして、クリストファーもただ諦めているわけではないことを伝えなければならない。


「――まあ、キールさんが言うのだからそうなのかもしれませんね。――マルチバンドのことはもう少し考えてみようと思っています。技術的に機密性の担保がとれなくても、社会的にその必要がなくなれば、発表しても問題ないでしょう。その為には、まだもう少し世界が成熟する必要があると思います」


と、答える。


 その答えを聞いたキールさんは、いつものようにニヤリと口角をあげた。

 この人のこういう表情は昔からだが、それは挑発というより、信頼であることの方が大きいとクリストファーはもう知っている。


「――世界が成熟するためには、別のアプローチをしないといけないってことだね? クリストファー、君は何を考えているのさ?」


 そうだ。

 そして、そのことについてある程度構想が出来ているということもすでに見抜かれている、そういうことだ。


「――為替市場かわせいちばを作ろうと思っています。それも、商業ギルドのような地域主体のものではなく、全世界的な共通為替市場です」


 世界が成熟するためには、おそらく、経済を成熟させることが近道だと、クリストファーは考えたのだ。


 これまでにも為替は存在している。


 主に、各地域の商業ギルドが独自に定めたものであり、それは、商人の間で、「情報」として共有されている。


 しかしながら、それを知るには、その場所へ行くか、その場所から来たものから聞くしか方法は無かった。

 そういう情報を商業ギルドは集約し、各商人に伝えているのである。


 もちろん、商業ギルドも全世界的なネットワークを構築しているから、互いに情報の共有はしている。


 が、その情報はどうやっても、「過去」のものであって「現在」のものではない。


 基本的に人力で情報のやり取りをするため、その情報の伝達にタイムラグが生まれてしまうからだ。


 だが、通信装置を使用すれば、そのタイムラグは解消される――。



先物取引さきものとりひき――だね?」


「はい。もちろん現在でも、各種商人ギルドでそれは行われています。ですが、どうしたって、タイムラグが大きすぎて、あまり活用されていません。納品時点ではすでに価格が高騰しているなんてこともしばしば起きているからです。それなら直接持ち込んで、価格をしっかり見定めてからと思うのは当然の道理ですから」


「通信装置を使えば、それが今より随分と緩和される。ということだね?」


「そうですね。少なくとも、世界基準ができるわけですので、地域基準よりも信用性が格段に上がります。そうなった場合、その基準が地域基準にも少なからず影響を与えます」


 そうなれば、価格に一定の安定感が生まれ、よりその世界基準の信用が上がる。

 交易に安定が生まれれば、流通は活発になり、ひいては各地域の活性と社会の成熟が加速されるというわけだ。



「さすがは、『ラアナの神童』――。つまずいてもただでは起き上がらない、か」


 そう言ってふわりと笑うキールさんの表情を見て、なんとなく嬉しくなってしまう自分がいることを、クリストファーはもう、否定することはない。

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