第500話 懐かしいやり取り、カインズベルクにて
翌朝、ケライヒライクを出立した一同は、その日の昼過ぎにはカインズベルクへ到着していた。
ミリアとはケライヒライクで別れた。
彼女にもやるべきことはある。さすがに「私用で」何日もメストリルを離れるわけにはいかない。
おそらく、今頃はメストリルの国家魔術院へ登庁している頃だろう。
キール以下5名の新パーティは、まずは宿探しとなるわけだが、それに関しては、キールに考えがあった。
ただ、部屋が空いてるかは、半信半疑だ。
「え!? キールくん!?」
と、その女性が驚きの表情で迎えてくれた。
「お久しぶりです、メイリンさん」
と、返すキールは、少し気恥ずかしさと申し訳なさを含んだ笑顔で微笑み返す。
だが、次の言葉がキールを困惑の表情へと一気に変える。
「――あら? 彼女、かえたのね?」
「え――?」
「だって、ほら、あの子、頑張って虚勢を張ってそれでいて可愛らしい感じの――」
「「――ミリアさん?」」
と、二人の女性の言葉が重なる。
アステリッドとメイリンさんが同時にミリアの名前を口に出したからだ。
「そう、そのミリアさんじゃなくて、こちらの子が今日は一緒だから――」
「女将さん、お目が高いですね。そうです、ミリアさんはキールさんと別れて、今は私が――」
「いやいやいや! アステリッド、冗談はやめて、メイリンさん本気にするから!」
などというショートコントを繰り広げたあと、5人はメイリンさんの下宿宿の食堂に通された。
「――それで? 何年も顔を出さなかったあなたが突然やってきて、このメイリンさんに何をお願いに来たのかな?」
と、メイリンさんが意地の悪い表情でキールに問いかけてくる。こういうところも、昔から何も変わっていない。
「じつは、数日の宿をお借りしたくて。部屋が空いていれば、なんですが――」
「いいわよ」
「早! ――5人なんですけど」
「大丈夫」
「そ、そうですか――」
「丁度今、部屋が空いているところだったのよ。この間まで、カインズベルク大学と、ヘラルドカッツ大学の4年生がいたんだけど、卒業して、故郷に帰っちゃったからね。ほら、もう3月でしょ?」
たしかにメストリルを出たのが3月2日だったから、今日は3月3日だ。
大学の卒業式は両校とも3月1日だったはずだ。
「えっと、あのお二人は?」
「ん? ああ、デジムとセフィのふたりね?」
キールが約一年ほどここを「逃亡生活」の拠点としていた時に同宿だった二人の男女。
デジムート・バウマイスタとジョセフィーヌ・カインラッドの二人のことだ。
「デジムは結局大学を卒業せずに就職したわ。なんでも、めちゃくちゃ面白いものを見つけたとか言ってね。セフィは予定通りあなたがいなくなった一年後に卒業して、今は王城に勤めているわよ? もちろん、二人とも自分で、新しい拠点を構えてるから、ここを出て行ったわ」
ああ、そうそう、デジムに会いたいなら、ヘラルドカッツ大学のあのイケメン教授の下で働いているはずだから、そこへ行けば会えるんじゃないかな? と、メイリンさんがさらさらと話す。
「イケメン教授?」
「あら、キールくん、イケメン、知らない? かっこいい男の子のことを言うのよ?」
「あ、ああ、名前じゃないんですね」
「名前? ははは、そんなわけないじゃない。えっと、たしか名前は、クリス・ベランダー、あれ? クリスト・ベラーリ、くりすとはぁだべらりん――」
「あ、」
と、アステリッドがふと思いつくと、
「もしかして、クリストファー・ダン・ヴェラーニ、じゃありませんか?」
と、聞き返す。
「そう! それそれ! あなた、すごいわね!?」
と、メイリンさんがアステリッドに両手を差し出してくるのに、アステリッドも思わず、両手を差し出すと、二人で手を取って握手して、ぶんぶんとテーブルの上で上下に振る。
数回振った後、手を解いた両者はまた席に座ると、アステリッドが、キールの方に視線を向けてきた。
キールもさすがに驚いている。
あの放浪野郎のデジムが、就職したということにも驚いたが、それがまさか、クリストファーの教授室だったなんて――。デジムは「当然」冒険者にでもなるのかと思っていたのだが。
「――そうなんですね。実は、そのクリストファー教授と僕は知り合いなんですよ。カインズベルクへ来たのも彼に会うのが目的の一つだったもので、少し驚いています」
「それで? この二人目の彼女の元カレとか、言うんじゃないでしょうね?」
「違います! それに二人目の彼女でもないですから。アステリッドに悪いからやめてください。ミリアはメストリルで仕事に就いてます。別に別れてはいませんよ?」
「そうなのね、(がんばってね――)」
と、メイリンさんはキールの言葉に返した後、アステリッドに口を寄せて小声で何かを呟いたが、キールにはよく聞こえなかった。




