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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第498話 未熟者キール

「杖が、変身した――?」


 と、アステリッドが呟く。


「どうしてそんなことが起きるんだ? 僕だってこれまでにその杖に魔力を流し込んでいたというのに――」


 キールもさすがにこれには驚いた。

 しかも、その杖から感じる魔力は、これまでの『星屑』より一層大きい。


「ほう。この杖、『ルーガの木』――か。じっくり見たことが無かったから気付かなんだわ」

と、言ったのはリーンアイムだ。


「お前さん、この杖の材質を知っておるのか? ふうむ。お前さんがリヒャエルの言っておったドラゴン族か――。店に入ってきたときから異様な魔力を湛えておると思っておったが、さすがに悠久の時を生きるドラゴン族、なかなかの博識じゃのう」


と、ネーラが断りを入れつつ、続ける。


「――その杖の材質であるルーガの木は、北方の地域の一部に生息する木でな。魔力の質に反応する性質をもっておる。小僧の時は『星屑』じゃった。が、コルティーレの娘がもつと『星空』となった。これは、娘の魔力の方がより澄んでいるという証じゃ」


 キールもアステリッドも、魔力が澄んでいる――という表現自体、これまでに耳にしたことが無い。

 二人とも顔を見合わせて、いまいち理解が及んでいないことを確認する。


「――魔力が澄んでいるという意味がわからんのじゃろうが、あまり気にせんでええ。そのうちわかるようになる。要は、小僧と娘とでは「性質」が異なるということじゃ。その「ルーガぼくの杖」は、持つものの魔力の性質に応じて変化するということだけわかっておればよい」


 ちょっと待て。その杖をアステリッドがもつということは、僕はどうすればいいのだ?


「えっとぉ、僕はどうすれば?」


「リヒャエルから何と聞いてここに来たのじゃ!? お前にはこれじゃ!」


 そう言って、ネーラが杖を振るうと、棚からふわりと木箱がキールの目前に舞い降りてくる。


「開けてみよ」


 ネーラに言われて、キールは木箱を開ける。


 その箱に納められていたのは、漆黒の杖身の短杖だ。


「なるほど――。こっちは『黒精こくしょう石』か。確かに小僧にはちょうどいいかもしれんな」 


と、リーンアイム。


「お前、人間のわりに、なかなかに道具に精通しておるのだな? ほかにもこの店にはいろいろあるようだが、ふむ、今度戻ったらまた立ち寄らせてもらおう。なかなかに面白い代物がありそうだ」


と、あごを撫でている。



 キールは、そんなリーンアイムの様子より、「黒精石」という聞きなれない石の名の方が気になる。


黒精石こくしょうせきってどんな石なんだ? この杖、石材で出来ているのか?」


と、リーンアイムの方に向き直って聞く。が、リーンアイムは、素知らぬ顔で、店内を眺めている。


「『ミッテルナハツ・シュティレ―真夜中の静寂』じゃ。最近のお前の魔力の兆候から見て、いささか荒ぶっておる様子が窺える。まあ、魔術師にもいろいろなタイプがおるでな。そういう者も稀にじゃが現れる――」


と、ネーラが言う。


「荒ぶっているって――。じゃあ、この杖がそれをサポートしてくれるってこと? 例えば、少し抑えてくれるとか、扱いやすくしてくれるとか――」

「逆じゃ」


「逆?」


と、キールが聞き返したのに、リーンアイムが口を挟んでくる。


「黒精石は、魔力を通しにくい石材だと言われておる。より精密な魔力操作が必要だということだ。ネーラとか言ったな、お前、本当に詳しいんだな?」


「ふん、ドラゴン族からお褒めに預かるとは、なかなかの誉れじゃのう。よいか小僧! 魔術はただ術式を編んでぶっ放せばいいと言うものではない! 状況判断し精密に緻密に編むものじゃ。お前にはその精緻せいちさが足りん。これで、修行のやり直しじゃ!」


「え? ええ~!? これでも随分と魔力を隠せるようになったと思うんだけどな――」


「はあ、『小僧』と呼ばれるのもわかる気がするわ。キールよ。平静時に隠せるようになったからと言って、戦闘時の魔力制御が出来るとは限らぬ。ネーラが言っているのはそのことだ。風穴で「魔物の門(スポット)」を吹き飛ばした時もそうだが、あの程度の「門」を消滅させるのに、本来、あれ程の魔術式は必要ない。お前の魔法技能をもってすれば、もっと効率的かつ省エネルギーの術式で充分のはずだ。お前の魔法は言うなれば、小石をたたき割るのに、両手持ち巨大槌(ジャイアントハンマー)を力いっぱい振り下ろしているようなものだ」


という、リーンアイムの言葉に、


「ぷっ、ハハハハ――! そりゃあ、やり過ぎにもほどがあるってもんだ!」


と、これまで黙って聞いていたランカスターが大笑いする。


「ランカスター! お前にはわからない話だろう!?」

「魔法がどうこうってのはわからねぇが、今リーンアイムさんが言ったことはよぉくわかるぜ? つまり、トンカチでいいものを、わざわざ巨大槌ジャイアントハンマーを取り出してきて、広いところに持ち出して人前で思いっきり叩き割るって話だろ? そんなことしたら、二つに割れればいいだけの小石が粉々になっちまって、使い物にならなくなるじゃねぇか。場合によっちゃ、怪我する奴も出るかもしれねぇ」


「ほう、良く分かってるじゃないか。キールよ。この『真夜中の静寂ミッテルナハツ・シュティレ』は、扱いにくい杖じゃが、決して『トンカチ』ではない。むしろ、その力は『巨大槌ジャイアントハンマー』じゃ。じゃから、よおく考えて使う事じゃな。それがお前の魔術師としての成長を促すじゃろう」


 そうして、ネーラはさらに、キールとアステリッドに一着ずつフード付きローブを渡してくれた。

 そのローブは、魔力の流出を抑えることができる材質で編まれたもので、常時の魔力の消耗を緩和する効果があるらしい。結果として、魔法感知に掛かる確率を抑えてもくれる。


 例によって、代金は『英雄王』持ちということで、それらを受け取ると、一同は魔道具店『樫の杖(オーク・スタッフ)』をあとにした。

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