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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第497話 魔杖

 クルシュ暦384年2月末――。


 キール・ヴァイスと4人の仲間たちが、ギルド支部に集結していた。


 キールたちは朝9時に集合すると、今日一日の予定を確認する。


 今日はまず、各道具屋装備屋を周って、当面必要な装備を揃え、昼前にはここを発ちたいと思っていた。

 

 リーンアイムが一緒にいるのなら、彼の運搬能力を使わない手はない。その点、キールはあらかじめ、リーンアイムに願い出ている。


 リーンアイムにしてみれば、3人と装備類を運ぶわけだから、結構な重量となるかと思いきや、


「のろのろと人族の歩く歩様に合わせておっては、成るものも成らぬわ」


と、意外と簡単に承諾してくれた。

 このドラゴン、口は悪いがかなり頼りになる奴だと、キールは感じている。



 一同は、装備屋、小道具屋、携帯食料店など一通り周り、最後にある店に立ち寄る。


「――「樫の杖(オーク・スタッフ)」……。私、緊張してます!」


 と、アステリッドが表情を強張こわばらせて言う。



 キールのもとに昨晩の間に、封書が届けられていた。封書は『英雄王』からのものだった。

 王からの書面が、ただの下町の下宿宿に投げ入れられるなどという国は、この国の他にはないだろうな、と思いながらも、封書を手に取り開封すると、意外と精緻な文字が並んでいるのが目に入る。


「へぇ、あの王様、結構字が上手いんだな――」


 文末のサインを確認すると、そこには、『リヒャエル・バーンズ』と名前が記してある。

 やはり、これは間違いなく『英雄王』のであると証明していた。 


 内容はさして込み入ったものではない。


『お前の出発に対する花向けだ、明日出発する前にネーラの店に必ず立ち寄れ』


と、ただ一文記してあるだけだった。


 漆黒のネーラ――。

 元英雄王パーティの魔術師で、『翡翠』の前の主戦魔術師と聞いている。が、どうやら、これは一部誤った解釈のようだ。

 この間の『英雄王』と『翡翠』から聞いた話では、英雄王パーティの発端は、ブリックス・ロイ支部長で、初めはその3人パーティだったと聞いているからだ。



「――ああ、それは、わしが()()入っておるからじゃ」


 と、至極単純な解答をキールはネーラからもらった。

 どうやら、一時期、『翡翠』がパーティを離れていた時期があり、その際、『英雄王パーティ』に参加していたというのが事実らしい。


「それよりも、そこ! コルティーレの娘!」

「はいぃぃ!」


「お前の腰に差しておるそれはなんじゃ!」

「え? あ、これは、お父様が私にと――」


「――ふぅ。まったく、だから素人は困るのじゃ! おい、娘! お前、その杖はまだ使ってないじゃろうな?」

「え、ええ、朝差してきたのでまだ、ですが――」


「それは魔杖じゃ。今のお前にはまだ手に余る代物じゃ。よいか、娘。その杖を抜くときは、戦いを決するときのみに限定しておけ。その杖を使えば最後、お前はしばらく戦闘不能になるじゃろうからの」

「戦闘不能、ですか?」


「そうじゃ、その魔杖はお前の体内の全ての魔力を吸い尽くすじゃろう。そうすればどうなるか、魔術師であるおまえなら言わずともわかるな?」

「はい。――でも、不思議なんです。この杖を持つと、体に魔力が溢れてくるような感覚に――」


「じゃから、魔杖なのじゃと言うておる!」

「は、はい!」


「その杖、『ブルト・デス・アプグルンズ―深淵しんえん血潮ちしお』は、術者の魔力を増幅させる性質をもっておる。じゃから、持った時にそのように感じるのじゃ。まるで、無限の力を得たような錯覚に陥れ、術者の魔力をすべて一気に食い尽くす。お前の家の始祖であるエルステンド・コルティーレは、その宝石をダンジョンから発見したと言われておるが、その杖を作ったあと使用した回数は片手の指ほどもないそうじゃ」

「そ、そんなに――?」


「少ない、ということがどういうことか、わかるな?」

「はい、危険だということです」


「ふむ。『翡翠ひすい』さまもしっかりと教育なされておられるようじゃな。エルステンド・コルティーレは錬成「3」上位の魔術師じゃった。しかもかなりの魔力量を持つ術者で、当時の国家魔術院では比肩するものはおらなんだと聞く。その者をもってしてもそれほどに用心して使ったというものじゃ」

「そんな――。それじゃあ、私にこの杖は――」


「扱えん――じゃろうな。()()

「せっかく、お父様が託してくださったのに……」


「おい、娘! 人の話をしっかりと聞かんか!」

「はいぃぃ!」


「わしは、「今は」と言うたのじゃ。はぁ、まったく、じゃから若い者は――。おい、小僧!」

「え、ええぇ!? 僕ぅ?」


 今度はキールにその矛先が向く。


「『星屑ほしくず』をコルティーレの娘に渡せ!」

「え、ええ!? これをですか?」


 キールは自分の腰に差していた「相棒」の短杖に手をかざして聞き返す。


「そうじゃ! はよせんか!」

「はいはい、わかりましたよ。ほら、アステリッド、どうぞ?」


 キールは『星屑ほしくずの短杖―シュテルネン・シュタオフ』を、アステリッドに手渡す。


 アステリッドはキールからその杖を受け取ると、自身の目前にかざしてみた。


 黒い杖身じょうしんの中に、キラキラときらめく星屑のようなものが見える。何とも不思議な色の杖を、アステリッドは今間近ではっきりと見ていた。


「コルティーレの娘よ。その杖に魔力を流し込むようにイメージしてみよ!」

「これに? 魔力を?」

「はよせんか!!」

「はいぃい!」


 今日何度目かのアステリッドの大きな返事のあと、アステリッドは、その杖に魔力を流し込むようなそんなイメージを念じる。


 すると、数瞬後、『星屑』の杖身じょうしんに変化が現れだした。


 これまで、黒い杖身の中に閉じ込められて淡く輝いていた『星屑』たちが、さらに鮮明な煌めきを放ち出したのだ。


「シュテルネン・ヒンメル――『()()の杖』じゃ」

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