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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第494話 会議の終結、それぞれの想い①

 『英雄王』と『翡翠』は、会議を終えると公務へと戻っていった。

 

 なお、冒険者ギルドへの『依頼』の件については、『英雄王』がブリックス支部長に話を通しておくと請け合ったくれた。


 エリザベスがある程度の枚数を印刷して、明日以降、ギルド支部へ持ち込むことになっている。


「キールくん、またしばらく会えないわね? リディ、無理はしないでね? つらくなったらいつでも帰ってきていいんだからね?」


と、エリザベスが目尻をぬぐいながらアステリッドに語りかける。


 キールは、なんだかわからないが、非常に気まずい思いが込み上げてくる。

 まるで、嫁入りを見送る母親を前にしているような、そんな気分になる。まあ、そのような状況になった記憶(過去2人も含めて)がないので、よくはわからないが。



 エリザベスの問いかけにアステリッドが、


「教授、大丈夫です。私、すでに覚悟は決まっていますから。それに、《《す》》、あ、いえ、《《キールさんと》》一緒にいられるんですから、これ以上ないぐらい安心安全な場所ですよ?」


と、応じる。


 一瞬、口ごもった言葉が、「好きな人」だと、感じ取ったエリザベスは、そうね、とだけ返して、再度キールの方に視線を向け、


「キールくん、リディを泣かせたら承知しないわよ?」


 と、厳しい視線を投げつけた。そしてその後、


「さてと、私は研究に戻るわ。それに、メモ(これ)も持って行かないとだから。ハルちゃん、ありがとう。これからも、研究に付き合ってね? じゃあ――」


と、デリウス教授の応接室を辞することにする。


(私も負けてられないわね。といっても、私の場合、恋する相手は「研究」なんだけど――。エリックには悪いけど、やっぱり、私はこっちが一番性に合ってるのよね……)


 エリザベスにも課題は山積みになっている。


 メストリーデの北側を流れている川に建設中の「水力発電所」のほうも進めていかなければならないし、発電機の小型化も推し進めなければならない。


 ――それに、『蓄電器ちくでんき』……。


 これを何とか作れないかと考えていた。


 そのため、電気を「溜めておける」素材を探して回っているのだった。



 ハルは、複雑な心持だった。

 なんだか自分だけが取り残されていくような感覚に囚われている。


 いままでは、リディねぇが傍にいてくれたから、寂しくはなかった。

 そのリディ姐がここからいなくなるのだ。


 また独りぼっちになっちゃう――。折角、友達がたくさんできたと思ったのに。


 このような気持ちは初めてだった。

 このメストリルに来るまでは、ともだちなんて作ろうともほしいとも思わなかったのに、この数年で、すっかり自分は寂しがりになってしまった。


 自分ももっと自由にいろいろなところに行っていろいろな人に出会ってみたい、そう思うようになってきている。


「ハルちゃん、ごめんね。でも、私、これだけは譲れないんだ――」


と、リディ姐が自分の方を見つめて言った。


 ハルは、おもわず、


「か、勝手にすれば! リディ姐はそうやって自由に生きればいいんだ! ボクは――! ボクは……ジルメーヌの傍にいないといけないから。まあ、今までも一人だったし、別に変わらないよ――」

と、返してしまう。


 言ってしまってから、もう少し違う言い方があったかもしれないと思ったが、いまさらだ。


 もちろんリディ姐の気持ちは痛いほどにわかる。自分ももし自由に生きれるのなら、これまでもそうしてきただろう。

 一時的にであれば、ジルメーヌの傍を離れることはできるかもしれない。

 だが、完全に自由に行動することは「今は」禁じられているのだ。


――ボクには、ジルメーヌから離れられない理由があるから。


 ハルは、


「キール、たまにはメストリルへもどってくるんだろ? そうしたら、いろんな話を聞かせてね。ボクも早く独り立ちできるように、修行に励むから――」


と、なんとか言葉を繋いだ。


「ああ、ハル、そしたら今度は一緒に旅をしよう。君の相棒のリーチがいれば、『翡翠ジルメーヌ』さんも、安心だろう?」


と、キールが返してきた。


 そうだ。「リーチ」。ハルの守護精霊――。

 確かにあの子はボクを守ってくれる。ある程度の脅威なら、全く問題なく排除してくれるのだ。

 でも、実はその「リーチ」こそが、ハルがジルメーヌから離れられない理由でもあるのだが、そのことはまだ、ジルメーヌ以外の誰も知らない。


「――そうだね。じゃあね、キール。ボクも帰るよ。気を付けて――」


 とそう言い残して、部屋をあとにした。


 背中に感じるリディ姐の視線が痛かったが、今はもう、振り返って何かを言うことが、ハルにはできなかった。

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