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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第492話 アステリッドの決意表明

「それで、ユニセノウ大瀑布だいばくふへ行くというわけじゃな――」

と言ったのは、『翡翠ジルメーヌ』だ。


「はい。どうやら『神候補』には、それぞれの候補によってさまざまな『試練』というものが課せられるそうです。そしてそれは、対応してもしなくても、一度発動すると、進行し続けるらしいんです」

と、キール。


 神ボウンは言った。

 発動した試練は『神候補』が対応するにせよしないにせよ、『進行する』。


 もし『神候補』が対応しないのであれば、現在大世界に住む者たちの誰かが対応するしかない、というわけだ。


「ユニセノウ大瀑布には『スポット』があるらしいんです――」

と、ミリア。


 魔物の発生源、「スポット」。

 その規模はさまざまだ。


 小型のそれほど脅威でない魔物から、大型、大群の発生まで、この大世界においてもいろいろな形態がある。


 これまでにもキール自身、何度か「スポット」の対応にあたった。

 竹の群生地「ブルーウォール」、エルレアのジダテリア山の魔物の大発生、そして、つい先日のデリアルス王国ジュリエ村の「風穴」――。


 そのすべてが自分一人で対応できる限界を超えていると、そう思った。


「――だから、『パーティ』か……」

と、『英雄王』がつぶやく。

「そうだな――。やはり、すこし悔しいぞ、小僧! 俺があと10年若ければ、お前の露払つゆはらいとしょうして、その冒険に付いていけたんだがなぁ」


「露払い、ですか!? いえいえいえ、そんな大仰おおぎょうな露払いなんかいたら、露どころか、すべて払ってしまわれるでしょう?」


「ははは、それではお前の成長を邪魔するだけか。――キールよ、冒険者の先輩としてお前に言っておくことがある。しかと聞け。仲間を頼ることを恥と思うな。いいか――?」


 冒険者は基本、パーティで行動する。

 しかし、冒険者の仲間というのは「パーティメンバー」だけじゃない。

 すべての冒険者がお前の仲間だ。

 そして、それ以外のお前の知るものすべてがお前の「仲間」なのだ。


 これらの力はすべて、結局はお前の力だ。

 遠慮せずに頼れ。

 その結果、断られても、恨むな。

 

 人には「領分」というものがある。


 それを越えて人助けをできるほど「人」は強くない。

 

 だが、本当にお前を想うものならば、できうる限りの協力は惜しまないだろう。


「――まあ、ランカスターとレックスの話は、ブリックスから聞いている。今のお前と共に成長できるいい相棒たちになるだろう。だから、二人を信じて、頼るんだ。いいな?」


と、英雄王がキールの肩をバンと叩いた。



「ふ、二人じゃありません! 三人です!」


と、言葉を発したのはアステリッドだった。


 アステリッドは、キールのかたわらに進むと、


「『翡翠ジルメーヌ』さま、お願いがあります! 私もキールさんのパーティに帯同できるよう取りはからって頂けませんか!」

 

と、申し出た。



「え? ええっ!? リディねぇも、いくの?」

「え? なに? どういうことなの、キール!?」


 ハルとミリアがさすがに動揺する。アステリッドが一緒に行くなどという話は今初めて聞いたからだ。


「ミリアさん、ハルちゃん、ごめんなさい。何も相談しないで決めました。私は、勝手にキールさんについて行くと決めたんです。キールさんが来てくれといったわけではありません――。でも――。でも私! わたしは、キールさんの『右腕』だから……」


 いいながら、感情が高ぶり、アステリッドはいつの間にか涙している。



 ミリアはそんなアステリッドを見ていて、とても愛おしくなった。

 彼女の気持ちはもちろん知っている。


 彼女もキールを愛しているのだ。

 

 だけど、恐らくキールはアステリッドを女性として愛してはいない。

 そして、ミリア自身も「その場所」を譲ることはできない。


 だが、この彼女の一途な想いはどうにか成就させてやりたいと、そう願わなくもないもう一人の自分がいる。


 クリストファーは私から離れることで、気持ちに区切りをつけた。

 アステリッドはそうではないだろう。


 彼女の性格からして、距離を取って気持ちを整理するというより、とことん付き合って時間をかけてゆっくりと整理していく方が合っていると、そう思う。


 もし仮に、キールとアステリッドとの距離が縮まって、そういう関係になったとしたら、その時はその時だ。

 そうなれば、私はどうするか、それは今は考えないし、考えたくもない。

 

 けど――。


「わかったわ。リディ、行ってらっしゃい――」

と、ミリアは自然に言葉を発していた。

「そうよ、あなたは『稀代』キール・ヴァイスの『右腕』、アステリッド・コルティーレなのよ。それは、あなたがキールとこれまで過ごしたあいだ、なにも変わっていないわ。あなたは、国家魔術院所属魔術師の前に、キール・ヴァイスのパートナーだったんだから。――『翡翠』さま、アステリッドへの業務命令権は国家魔術院にあります。申し訳ございませんが、ご容赦ください」


 そう言って、ミリアはアステリッドに正対する。


「国家魔術院副院長、ミリア・ハインツフェルトの名において、魔術師アステリッド・コルティーレに命ずる。――『稀代』キール・ヴァイスのパーティに帯同し、これを補佐せよ。――リディ、キールを助けてあげて、お願いね?」


「ミリアさん――、は、はい! アステリッド・コルティーレ、副院長の命令、了解いたしました!」


 

 『翡翠』も『英雄王』も、ここにいる皆が、彼女の決意表明とそれに応えた上官の決断に対し、誰からともなく拍手を送った。


「いや、()()じゃなくて、()()だと思うのだが――」


と、小声で誰かが言ったようだったが、その声は皆の拍手の音にかき消されてしまった。

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