第490話 臨時会議
キールとアステリッドがデリウス教授の部屋に入ると、2人の女性と2人の男性がいた。
ミリア、ジョド、べリングエル、そして、リーンアイムの4人だ。
この部屋の主であるデリウス教授は今は南の「共同造船所」に入り浸っている。デリウスは現在、ケウレアラの交易船の建造に取り掛かっているところだろう。
一応、この部屋の鍵はミリアが預かっている。また、ミリアがメストリルを離れるときは、魔術院が管理していて、アステリッドが自由に使用してよいことになっている。
が、現在部屋の仮主は、リーンアイムが担っている。
それは、リーンアイムの居宅がまだ決まらないからだ。
「おい、リーンアイム、いい加減に部屋を探せよ?」
と、キールが開口一番に告げる。
「よいではないか。我はもうこのままここに住むことにする」
「ダメだよ、デリウス教授の邪魔になるじゃないか」
「そのデリウスとかいうやつは帰ってこないではないか。いいか、小僧、部屋というのは主がいなければ寂れるものなのだぞ?」
「――おまえ、そんな話、誰から聞いたんだよ?」
「誰かに聞くまでもないだろう。当然、我の知識だ。そんなことは常識だぞ?」
ドラゴン族にそういった社会的常識が備わっているのか疑わしいが、実際、言っていることは間違ってはいない。
しかし、せめてデリウス教授の許可を取ってからにしたいものだが――。
「――それなら構わない、俺が許可する」
その声は不意に扉の方角から聞こえた。
「陛下――。『翡翠』さまも――、エリザベス教授も?」
キールが振り返るより前に、いつもの丸テーブルに腰かけていたミリアが立ち上がって敬礼をした。
ミリアの席からは、扉が正面になる為、誰が入ってきたかすぐわかる。
「この部屋はリーンアイム、お前に管理を任せる。ただし、デリウスのものには勝手に触れないようにな。あいつも一応、教授だからな、帰ってきたときに仕事が出来なくなっているなんてことになったら気の毒だ」
と、『英雄王』が続ける。
まあ、実質この部屋の持ち主である国王が言うのだから、誰も文句は言えないのだが――。本当にいいのか?
「――とは言え、どうせキールと共に行くのだろう? であれば数日というところだろう。キール、そろそろ行くつもりなんだろう?」
と、今度はキールに言葉を投げた。
そうなのだ。
パーティメンバーが整った以上、いつまでも油を売っているわけにもいかない。
そろそろ出発しなくてはならない。
「そうですね。まずは、カインズベルクへ行こうと思っています。そこからキュエリーゼへ渡り、ローベから船で、西の海へ出ます」
キールがそう返すと、ミリアの表情が若干翳るのが目に入った。
「カインズベルク? どうして?」
と、ミリア。
「うん、少しクリストファーと話しておこうと思ってね――。って、そうだ、皆さんはどうしてここに?」
と、キールは3人の方へ質問を振る。
「私がお願いしたのよ。お二人にも立ち会ってもらいたいって――」
と、言葉を発したのはエリザベス教授だ。
「キールくん、実はお願いがあってね。多分もうすぐ来ると思うわ――」
そう言ったちょうどそのタイミングで、扉が再び開かれると、一人の少女が姿を現した。ハルだ。
「うわっ! な、なに!? この人の多さ!!」
ハルは入ってくるなり声をあげる。
教授の執務室に、10人もの人がいるのだ。さすがに狭苦しいだろう。
「――応接室へ移りましょうか。ちょうどよかった。僕からもお話しておきたいことがあります」
と、キールが促し、一同は応接室へと移ることにした。
――――――
応接室に一同が参集し、「臨時会議」と相成った。
まずはエリザベス教授が、「バレリア遺跡」から持ち帰った「機械」について報告をする。
その報告内容はアステリッドが言っていたことだ。
「古代バレリア文字」を「アルファベット化」し、それを読める人を探すというやつだ。
「これが、対応表を使って返還した文字列だよ――」
ハルはそう言いながら、テーブルの上に数枚のメモを拡げる。
それを見るとそこには懐かしい文字が並んでいた。
キールの前世、原田桐雄の記憶の中にある言語、『英語』のような表記。
だが、スペルがやはり、英語とは違う。
確かにこのままだと、全く何が書かれているのかわからない。
確かに別のどこかの国のものかもしれない。
「それで、これが何だというんだ?」
と、リーンアイムが訊ねる。
「それを順を追ってこれから話すのさ――」
そういうと、キールはようやく現時点でのキールが背負っている「すべて」を打ち明ける決心を固めた。




