第485話 飛び級
「待たせたな、キール。紹介しよう、ランカスター・ロイだ」
と、ブリックス支部長が言った。
「え? ロイ――?」
と、キールは名前を聞いて反応する。
ブリックス支部長の隣に立っているのは、長身の剣士だ。年齢は、キールと変わらないか少し上。髪の色は赤みがかった茶色。短髪。体格は細みでしっかりとした柔軟性が感じられる。そして何より目を引くのは両腰に差した赤い鞘の双剣。
「ランカスター・ロイだ。よろしく、キール・ヴァイス」
「ああ、キール・ヴァイスだ。こちらこそよろしく、ランカスター」
そう言って差し出してきた右手を取り、握手を交わすと、ブリックス支部長に促されて再度ソファに腰かけた。
キールに対峙するように二人が並んで座ると、ブリックス支部長が話を切りだす。
「さて、まずは紹介だが、こいつは俺の孫だ。そして、俺の弟子でもある。といっても、まだ鉄級冒険者だが、これは実績がまだ少ないからに他ならない。身内の俺が言うのもなんだが、実力自体はすでに銀級でも充分やっていけるほどだ」
冒険者には「ランク」と言うものがある。
その冒険者の実績を示す目安となるものだ。
「見習い」から始まり、「銅級」「青銅級」「鉄級」「銀級」「金級」「金剛石級」といった感じだ。
実は、『クエスト受注はパーティリーダーのクラスに応じる』という制限がある。
つまり、上位のクエストを受注するには、上位のクラスのパーティに入れてもらうしかないわけだ。
ならば、上位のパーティに入れてもらって付いて回れば実績が積めるではないかと思ったら、そんな甘い話は、基本的にない。
メンバー申請の際の制約がある。
それは、リーダーのクラスから一段階下までの階級ならパーティメンバーとして登録でき、「正規パーティ」として扱われると言うものだ。
もちろん、2段階以上離れているメンバーを加えても構わない。仲間になること自体に制限はない。
ただ、2段階以上離れたものがメンバーにいるパーティは「非正規パーティ」と区別され、一番低い冒険者のクラスに対応したクエストしか受注できなくなる、というわけだ。
つまり、上位クラスのパーティからすれば、よほど、その下位クラス冒険者が見込みがあり育成するつもりでもない限り、基本的には自分で経験を積んで実績を上げ、クラス昇格を果たしてからだと言って、パーティ参加を断るのが通例だ。
それは、双方にとってデメリットが大きいという理由が一番にくる。
実力もなく、仲間の助けを借りて、実績だけ積み上げた冒険者が、上位クラスのクエストで本当に活躍できるのか怪しいし、バランスが悪くなり結局そのパーティ全体にも危険が及ぶ可能性があるということだ。
それほどに、「クラス制度」と言うものは、長い年月をかけて構築されてきたのだということを、今朝エリーさんから聞かされたばかりだ。
ちなみに言うまでもないが、キールのクラスはまだ「見習い」である。
「え? 鉄級――。それじゃあ、僕よりも3つも上だから、「非正規パーティ」にもなれないってことじゃ――」
と、キールがそこに気が付く。
「おう、エリーの説明をしっかり聞いていたな? ああ、原則的にはそうだ。それで少し時間が掛かった」
そう言うと、ブリックス支部長は一枚のプレートをテーブルに置いた。
そのプレートの色は――。
「これは――、青銅? え? どうして?」
「裏を見てみろ――」
キールは言われるままにそのプレートを取り、裏返して確認する。
そこには自分の名前が(統一活字で)彫られていた。
「――僕の名前? え? どうしていきなり青銅なんかに――」
「理由は簡単だ。お前の実力が認められたのさ」
「僕の実力?」
「お前、自分ではあまり気にしてなかったようだが、リヒャエルと一緒にダーケートに遠征しただろう?」
それは確かにそうだ。あの時は、ミリアと共に、『英雄王パーティ』に帯同して、東のダーケートまで『竹の採集』をしに行ったのだった。
まあ、結果的には、『採集』というより、『殲滅』になってしまったが。
「その時のダーケートでのクエスト受注にお前の名前が記録されていた。そして、その時の実績が認められたってわけだ――。因みにお前、すでに『黄金の天頂』に名を連ねていたんだぞ?」
「え? え~~~!? いつの間に!? 全然知らなかった――」
ブリックス支部長が問い合わせたところ、ダーケート支部での依頼票にパーティメンバーとして名前の記述があったという。ミリア・ハインツフェルトの名ももちろんだ。
そこで、その実績を照会し、本部に打診したところ、実力相応と認め「青銅級」に飛び級させられたということだった。
「ミリア・ハインツフェルトも同様の措置が取られることになるだろうが、彼女が冒険者になることはあまり考えられないから今のところ保留だがな」
恐るべし、『黄金の天頂』――。
「いや、恐るべきはお前たち二人の方だ。それほどに『ブルーウォール』攻略の実績は大きいってことだ」
確かに、あの時は必死だった。あれほどに魔術師として必死に戦った日々というのはあれ以降もほとんどない。
だけど、それを可能たらしめたのは、『英雄王』だ。自分はただ必死に魔術式を編んでいただけだったのだ。
「キールよ、冒険者とはこういうものだ。実感が無くとも実績は積まされる。つまり、気が付けば実績が実力を越えてしまうこともある。そうなれば、事実上、『引退』だ――」
ブリックス支部長がそう言葉を発したあと、少し寂しげに見えたのはキールの思い過ごしだったのだろうか。




