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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第479話 ジェノワーズ商会で女同士の内緒話

 クルシュ暦372年2月も下旬に入っている。


 アステリッドは、いま、繁華街にある娼館の一室に来ていた。

 もちろん、娼婦としてでも客としてでもないことを一応断っておく。


 ジェノワーズ商会本部――。

 ここに、ルド・ハイファが常駐しているからである。


 アステリッドとルドは総合ブランド『MItHa(ミツハ)』のデザイナーと製作部長の関係でもあるが、それ以上に、キール一味女子部のメンバーでもあり、一人っ子のアステリッドからすれば、頼りがいのあるお姉さん的存在という意味合いの方が強かった。


「――わたし、このままここにいていいのかな……」


 いつになく表情に影を落としているアステリッドの様子に、ルドは何かしら思い悩むことがあるのだろうと察し、その言葉に、返事を返す。


「リディ、決断って、それほど大袈裟な事でもないものさ。今自分の気持ちがどうなのか、意外とそれに従うってのもアリだとおもうよ、私は」


 ルド自身、あの時キールに声を掛けられ、自分の気持ちに素直に従った。その結果、今の生活にとても満足しているといういきさつがある。


 もちろん、全てがトントン拍子に進まないことだって無いわけじゃないが、今では『シュニマルダ』も解体され、自分の身の安全も保障されていると言っていい。

 そして何より、あいつ(ジルベルト)そばにいられる、という環境も大きい。

 そして気が付けば、仕事や仲間に恵まれ、何不自由なく自由に振舞っている自分がいる。昔の自分がみれば、「お前ってそんなに笑うやつだったのか?」と驚くことだろう。


「なんて言ったっけ、あの綺麗な男――、ああ、クリストファーか。あいつだって、きっかけは誘拐だっただろうが、その後は自身で選んで素直に心に従った結果、今があるのだろう。それは決して、心なく流されるがままに従ったわけじゃないと思うぞ?」


「でも、ミリアさんとは終わってしまった――」


「終わりか始まりかなんて、本人にしかわからないことだが、その男、いい表情かおになっていたんだろう? そう言ってたじゃないか」


「うん――。ミリアさんを見る表情がすごく気持ちよかった――」


「つまり、始まったってことだな。クリストファーとミリアの間に新しい関係が始まったとも言えるんじゃないかと、私は思うんだよな」


「新しい関係?」


「うーん、まあ、()()()という関係には成れなかったとしても、人と人との関係が無くなるわけでもない。互いの関係なんていろいろな形があるものさ」


「苦しくないのかな――」


「まあ、なあ……。男と女と言う関係なら、もちろん体を重ね合う関係ということなんだろうけど、でも、そういう関係だからと言って、「男と女」の関係だというわけでもない。ここで働いている者たちだって、体を重ねる関係をもつ者たちだが、基本的に、「男女の関係」、つまり「恋人関係」ではないだろう? それとも、リディはキールの「男」だけが目当てなのか?」


「――!! そ、そんなこと! 考えたことがない――わけでもないけど、ち、ちがうわよ! それだけじゃない……と、思う」


 ルドはこういうリディの素直なところが可愛くて仕方がない。


 この子は本当に一途で素直であいらしいのだ。


 そして、もちろん、キールもそう思っていることだろう。それは、キールがアステリッドを見る目でわかる。


「そこまで想うなら、行動は二つに一つだよ。行くか退くか。奪うか諦めるか、だね?」


「う、奪う!? え? ミリアさんから? どうやって――?」


「そりゃあまあ、実力行使――とか?」


「え、ええ!? そんなの無理、無理!!」


「――ははは、だろうね。リディにはさすがに無理だと思うよ。あ、いや、誤解しないでよね? 女として身体からだの魅力がどうこうと言う意味じゃないんだ。それはリディらしくないって、そういう意味だからね? それに、あの旦那相手に、色仕掛けは全く意味がないだろうし。旦那って、とんでもない鈍感おくてだからな」


「ですよね――。あの二人、恋人とか言っていい雰囲気出してるときもありますけど、実際、そういう行動をしているところは見たことがないですから――。え? もしかして、まだ何も――」


「どうだろうね? 旦那だって男には違いないし、こういうところで働く者たちも見ているんだから、そういうことを知らないってことはないだろうから。でも、これは私の見立てだけど、あの二人、()()、だとは思うね」


「そ、そんなことまでわかるんですか!? シュニマルダって、怖いですね」


馬鹿ばか、シュニマルダだからじゃないよ、()だからだよ。そういう意味でも、リディにはまだまだ早いってことかもね。たぶん、エリザベスも同じ見立てだと思うよ」


「お、()()()、ですか――」


「ああ、()()()、だ」



 リディももう()()()になってきている。自分(ルド)がこのくらいの時にはもう、男を何人も経験していた。

 もちろん、想いを寄せた者もいないわけではなかったが、結局その行為自体にたいして意味はないのだとわかるまでにそれほど時間はかからなかった。


 リディもそのうちそのことに気付くようになるのだろうが、ルドはそんなリディよりも今のリディの方が断然可愛らしいと思うのだ。


 だけど、いつまでも、そうも言ってられないのだろう。

 人は年を重ねる。

 そして人族の人生は短い。


 出来ることなら、リディにも『心が通い合う』相手が出来ることが望ましいのだが、どうだろうか。



(まあ、大丈夫だろう。こんなにいい子なのだ。彼女の魅力に気が付かない男が皆無だなんて、そんなことは現実的ではないのだから)


 ルドは、彼女がその男に寄りかかって、今以上に華やいだ安らかな笑顔を見せている情景を想像して、思わず笑みを漏らしてしまうのだった。

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