第478話 パーティを組む理由
「小僧、どうしてまたパーティなんぞ、組もうと思ったのじゃ? お前であればおおかたは一人でも問題なかろう。それに、必要ならば、仲間たちや、ティットやキューエルもおるではないか?」
『翡翠』が訝しんで聞いてくる。
まあ、実際、これまではその方法でやってきたわけだし、それで充分に、いや、十二分に間にあった。
しかしながら、それらはあくまでも、短期突発型のスポットクエストだったからそれでよかったのだが、ボウンさんの話の大筋から察するに、今回のユニセノウ大瀑布のあとも、長期連続型のキャンペーンクエストがつづくと思われる。
そうなると、そのたびに仲間を招集するということは難しく、何人かは集まるだろうが、結果的に「問題」が発生してしまう――。
そこまで話した時に、「英雄王」が一言挿し込んできた。
「パーティの安定感の欠如、か――」
まさしく、『英雄王』の言う通り、さすがに『黄金の天頂』の前リーダーだ。
毎回同じメンバーが集まるとは限らない。しかも、人数だって統一できないだろう。そうなると、メンバー構成によってパーティの熟練度や連携、ひいては戦力が安定しないという問題が生じるのだ。
「はい。おそらく今後は海を越えて大世界中を駆け回ることになります。都度都度、メストリルへ戻ってこれるという保証はありません。そうなると、帯同するメンバーの交替が難しいのです」
と、キールは答えた。
「それで、パーティを組むと、そういうことか――。それで? ユニセノウ大瀑布とは?」
と、英雄王。
「まさか、あの西の大海に浮かぶ島――あの大滝か!」
と、「翡翠」。
二人が矢継ぎ早にキールに言葉を投げる。
「はい。あれが、ユニセノウ大瀑布です――」
キールはそろそろ頃合いかもしれないと、そう思い始めている。問題はどこまで話すか――だ。だが、今はまだ、早い気もしている。やはり、さすがに『神候補』の話は難しい。
それに、ユニセノウ大瀑布にいったい何があるのか、どういう状況なのかは行ってみないとわからない。
わからないことが多い不確定要素ばかりで話の内容に取留めが無くなればなるほど信憑性は下がっていく。
まあ、今さら、キールのいうことを疑問に思う二人ではないだろうが、立場のある二人には受け入れがたい事柄もあるかもしれない。
キールはやはり、せめてユニセノウ大瀑布へ行ってから話すのが無難だろうと決断した。
「お二人には、まだ、話していないことがありますが、帰ってからお話しいたします。今言えるのは、ある人物から依頼を受け、今後、長期継続的にこう言った遠征をおこなうことになりそうだということだけです。申し訳ございません――」
と、キールは恭しく頭を下げる。
『英雄王』と『翡翠』は、大きく溜息をつくと、
「小僧、お前が何かを背負っていることぐらいは察しがついておる。それはいろいろと込み入った事情があるだろうこともじゃ。じゃから、無理に話さなくてもよい。――ただ、一つ言わせてくれ。辛くなったらいつでも頼ってくるんじゃ。わしらはいつでもお前の味方なのじゃからな」
と、『翡翠』。ついで、
「まあ、人生長いんだ。いろいろあるさ。だがな、キール。お前の戻る場所はここで、お前を癒すことができるのもここだけだ。国としても、まだ、ミリアを手放すわけにはいかん。だから、必ず戻れ、いいな? これは、王命だ」
と、『英雄王』が言った。
「あ――」
と、ミリアが短く声を発する。
『英雄王』が言う「ここ」が「ミリアの側」であることを暗に示している英雄王の言葉と、ただ一心に信じ慈しんでくれている『翡翠』の言葉に、キールは胸が温かくなるのを感じていた。
「お二人とも、本当にありがとうございます。ご心配をかけて申し訳ありません」
と、返すのが精一杯だった。
結局のところ、「とにかくブリックスには気を抜くな、あいつのペースに巻き込まれるぞ?」と、きつく釘を刺した二人は、公務へと戻っていった。
どうやら、キールが冒険者ギルドに「取り込まれる」と、本気で心配しているようだった。それで、あの剣幕で飛んできたというのだから、あのブリックスさんと言う人がどれほど人を巻き込むのが上手いか推し量れると言うものだろう。
だが、キールにはそれ以上の「枷」が付いている。その「枷」はおそらくどうやっても剥がれない。
――『神候補』。
おそらくこれ以上に重い「枷」はないだろう。
前『神候補』だったオズワルド神父は「魔法」を失ってしまった。
ボウンさんはいつでも辞めて構わないといったが、その際に払わされる「代償」の話はしていない。
キールにはなんとなくだが分かっている。オズワルド神父は敢えて明言しなかったが、オズワルド神父が『神候補』を続けるか辞めるかの選択に迫られた時、「どちらかを失う」選択を迫られている。
おそらくあれは、「代償」だ。
キールもまた、その選択を迫られるときが来るかもしれない。
だから、とにかく今は少しでも進まなければ、その時が訪れたとき、その「代償」に抗えないかもしれないと思い始めていた。




